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脳科学でコミュニティを考える/枝川義邦先生 -コミュラボ第4回オフ会

2019年6月20日に開催された、コミュラボ第4回オフ会の様子をレポートします!

今回のゲストは2017年の流行語大賞「睡眠負債」の脳科学者・枝川義邦先生です。
「睡眠負債」がすっかり定着してしまったけど、早稲田ビジネススクール出身者にとっては名物講義の一つ「経営と脳科学」の担当教授でもあるのです。

経営学、特に人材マネジメントなどの観点からの講義も非常に面白かったのですが、今回は短い時間ながらコミュニティ形成に関して、参加メンバーからのQAを中心にお話をうかがいました。

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脳科学=脳を科学するとは・・・

枝川先生: まず皆さんの脳科学はどんな風にイメージされてます?
参加者: 定義がわからない。行動経済学は聞いたことがあるけど、違いがわかりません。

枝川先生: 行動経済学はいわば消費者心理学で、人の行動にどんな傾向があるかを見るものです。消費者の脳の中でどんな動きがあるかまでは見ない。
神経経済学などもあるけど、こちらは脳科学。意思決定をするときに、脳の中でどんな反応が起きているかを見ています。

科学とは…
(結果に)議論の余地がないこと : 結果が出たら誰もが認めざるをえない。解釈に幅が出てしまい、しかも解釈の根拠が示せないのは科学とは言えない。
再現性があること: 実験がまさにそう。レシピ通りにやれば、同じ結果になるはず。

最近は、AIも脳科学の一部になってきています。プログラムで脳をシミュレーションしてみたりしているので、再現性がある。

心理学と脳科学の違い
心理学では、脳はブラックボックスのままでも良いけど、人の行動に関してインプット/アウトプットを記録して推測していっています。人が外からの刺激や情報を受けて、どんな反応や行動をとるかということ。

脳科学では、ブラックボックスになっていた脳の中を見ようとしている。
現在はけっこう見えるようになってきていて、皆さん、脳がピカピカしているような動画(MRI)をどこかで見たことがあるかと思うんですけど…。
あれは血流の変化を測定してビジュアルにしているものです。
今はミネラルの動きも見えるようになってきています。ミネラルに着色して、動きを追いかけられるようになっているんですね。
MRIは従来、空間解像度が低いと言われていたけれど、だいぶ精度が上がってきました。

参加者: 「脳が10%しか動いていない」というのは本当ですか?

それは都市伝説ですね。
確かに瞬間瞬間で休んでいるところはあるでしょうけど、全く使われていないような箇所はないです。

G2さん: サイモン・シネックの説と、脳の構造は通じるものがあったりします?

脳科学では、脳の構造に基づいて「本能」「感情」「理性」を司る領域があり、それぞれの段階に応じた欲求を持っていると言う説があると聞いています。これはサイモン・シネックのゴールデンサークル説に通じるものがあるのでしょうか?

ヒトに関する3つの原型を見つける!- コミュゼミ 第1期1クラス 第3回
ゴールデンサークルはリーダーシップについての理論です。
何をやるべきかを理解している人は実は多いのですが、なぜそれをやるべきかを理解している人は少なかったりします。なぜそれをやるべきなのか、わからないと当然ながら自発的な行動は生まれてきません。
優れたリーダーは「なぜ」を共有して、メンバーの行動を促していると考えられるのです。WhatやHowといったファクトにもとづいた情報は、理性に働きかける要素として考えます。
対して、Why - なぜ?どうやって?は感情、直感に働きかける要素と考えられます。そのため、こちらのほうが人の感情に深く刺さって行動を促すことになります。

枝川先生: 発生の段階と重なるので確かにそうかもしれないですね。
ヒトは、実は進化の過程を母親の胎内で辿っています。個体の発生は進化の過程をなぞるものなんです。
それは脳の中でも同じ。例えば、霊長類でも脳の中心部は魚の脳と同じだったりします。
脳の外側にくると霊長類の脳、コミュニティに関わる部分になってきます。

ちなみに居心地の良し悪しというのは、本能的に判断されています。
五感の中では、主に匂いから。
意識にのぼらないくらいの感覚とスピードで、理性よりも先に、体(脳)が判断していたりします。

人がコミュニティを作る理由とは?

参加者: 人が集う理由ってなんでしょうか?

枝川先生:
進化の過程と、現在のヒトのあり方を結びつける考え方があります。
例えば、完全に孤立して行動しているような個体は、生き延びることは難しい。すなわち、そうした個体の遺伝子は残らない。
だからヒトが集団で行動するのはそうした淘汰によるもので、合理的という考え方です。

「人と集うと楽しい」というのは脳科学的には、「楽しい」という感情と、「集まるのが合理的」(=本能)のどちらに理由があるのかはわかりません。
そういう仕組みになっているから「楽しい」という感情が生まれて継続するのか、それとも「楽しい」という感情があるから集まる欲求が出てくるのか…。

集団を作る理由については、いくつか説があるようです。

包括適応: シマウマが身を守るために集まるなど。群としての生存が目的。
互助会: サルの毛づくろいなど。経済的にフリーライダーが出てくることも。
相互依存: 互いに異なる役割を持っていると、フリーライダーが出てきにくくなる。Give&Takeの世界。

包括適応も、互助会も、今のコミュニティに対する説明としては弱いです。
相互依存が近くて、役割分担があると責任感が生じたり、承認欲求が満たされたりするためかもしれません。

参加者: フリーライダーと相互依存の違いがわかりにくいのですが。
枝川先生: 100%依存しているとそれは大変。個人の自立がベースで、互いに役割としての相互依存があるのが良いのかと思います。
G2: 平野啓一郎の「分人主義」という考え方があって、人は接する相手ごとにキャラクターが変わるというもの。変わった人がいるとしても、コミュニティの中でのキャラだちなので、別のコミュニティではキャラクターも変わるのかも。それが成長になるのかもしれないですね。

コミュニティの安全・安心の築き方

・初対面の人と親しくなるには、ある程度の枠に入れてタグづけすると、コミュニケーションが楽になる!
 相手の情報を処理しながら接するのは、脳にとっても複数の作業を並行することになるのでストレス。「タグ」を相手からたくさん出してもらうには、自ら自己開示してしまうことかな。

・信頼はどう築く?
人は利益よりも損失の可能性を大きくとらえてしまう(プロスペクト理論)。
自分が預けたリソースに手をつけない人が、その後の信頼に繋がっていくのではないでしょうか?

・コミュニティの居心地の良さとは?
コミュニティが持続するためには、嫌なことが起こらない方が良い。
というのも、脳の報酬系はすぐに反応しなくなってしまうので、りんごや人参をぶら下げ続けるのは難しいんです。
報酬系の更新をうまくやっているのがゲーミフィケーションだけど、悪いことがおこならない方が、居心地の良さにつながりやすい。

ちなみに、ブレるのはストレスになります。
最初はスリル、吊り橋効果があった方がコミュニティの結束のためには良いのかもしれないが、以降は安定していた方が良いです。

・刺激とコミュニティの安定とのポートフォリオはどう組めば良いのか?
刺激を求めてくる人というのは、コミュニティにあっていないのでは・・・
多い人数が絞られていくというのは、そういうことではないでしょうか。

・目を合わせて挨拶すると報酬系が働く、はず!
実はもろ刃の剣です(笑)
目があった相手に魅力を感じている場合は、報酬系が働きます。
だけど、魅力を感じていない相手の場合は、逆に目をそらした時に報酬系が働いたという実験結果があります。(この実験は欧米のもの)
日本人はあまり目を合わせないので、文化的にねじれがあるかもしれません。

・握手などの身体接触により安全・安心感が高まる
身体接触によって、オキシトシンが出ていると信頼感が高まるのは確かです。
実は、オキシトシンを脳の外から与えても効果があるようです。営業さん用のスプレーみたいなものが売られているとか(笑)
このオキシトシンの特徴は、経済的な損得計算については麻痺させないところです。損をすることはわかっているけど「ま、いっか」となるらしいです。

コミュニティを維持するには・・・

・コミュニティを維持するのはモチベーション?安心感?
モチベーションと関係しているのは報酬系です。
何かしらの「報酬」が欲しいというニーズがあるから行動するんですけど、報酬が手に入ったら、もう報酬系が働く必要はなくなる。
そうすると、つまり、ニーズが満たされるとモチベーションがだだ下がりになってしまうということです。
モチベーションを高く維持しようと思ったら、ニーズが生まれ続けて、それを追いかけ続けないと継続しないわけです。魅力に感じるものをぶら下げ続けないといけない。
そうすると、モチベーションを高めるよりも、嫌なことが起きないということの方が行動を持続しやすい。

・モチベーションを高めるには?
組織でインセンティブ設計するのは、水平的、垂直的、2つの難しさがあります。
水平的な難しさ:人によって欲求の種類が違う。金、地位、名誉etc.
垂直的な難しさ:求める難易度の高さが違う。

その結果、同じことを言っても、人によってモチベーションが下がったり、上がったり。。。

実験例: 引っ越しの手伝い
手伝ってくれた学生に、お金を報酬として渡すとモチベーションがだだ下がりに。
アイスキャンディを渡すとモチベーションには影響なし。
ただし、アイスキャンディに価格ラベルを貼って渡すと、やっぱり、だだ下がり。
これは自分の行為に金銭的価値の尺度を与えられてしまうことで、モチベーションが下がっているもよう。

参加者: この悪い使い方がブラック企業なのかもしれないと思いました!お金に換算しない「やりがい」に見せかけることで、モチベーションを引き出しているのかも・・・。

モチベーションが高い人は、内的要因に目を向けていることが多いです。ロールモデルがいたり、つまり、変わることができる。一方で、モチベーションが低い人は、外的要因に目が行きやすいようです。

モチベーションを高めてあげるには、ニンジンを吊り下げるより、そうなってしまった要因を見つけて飛べるハードルを設けてあげるのが良いようです。
レジリエンスという言葉が注目されていましたが、自分で飛べるハードルを見極めて飛んでいける人は、レジリエンスが高い人であるのかもしれません。
レジリエンスのポイントは、セルフエフィカシー(自己肯定感)ですが、これはあくまでも自己認知であって、客観視ではないんですね。
セルフエフィカシーを高めるには、ハードルを超えてきた経験が効くようですが、ハードルの高さは関係ないようです。

情報伝達物質とコミュニティの成熟について

新しい出来事に接したときに、最初に起こりやすいのはアドレナリンが出る状態。ストレスホルモンと言われるものなので、長くは続かない。

あるいはストレスジャンキーのような人もいますが、あるときにぽきっと折れてしまったり、単に飽きてしまったり…。いずれにせよ続かないです。

新しいことを知るための脳内物質がドーパミン。安心感に関係するのがセロトニン。セロトニンが足りなくなって起こるのがうつ病。

ドーパミンによる恋愛状態から、セロトニンによる絆の状態に成熟していくのが良い関係です。

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マスミンこと、谷益美先生のグラレコも!

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もっと学びたい人のために

専門的な事柄を、どこまで平易な言葉にして良いか見極めて伝えられるのが専門家だと思います。それを踏み越えてしまう本には注意しないといけない。
研究を頑張っている先生の本が良いです。ブルーバックスの理化学研究所の本がおすすめ。

脳研究の最前線(上下巻) (ブルーバックス) 新書 – 2007/10/19



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