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天国と地獄の分かれ道

まずはじめに

前回の「今際の際での死神との会話」にて、『カタ・ウパニシャッド』を引用して死神ヤーマに対してのナチケータスからの第一の願いで両親との関係が自らの肉体的な出自として大切だということに触れました。

また、先生から家族関係や仕事の人間関係や近所付き合いなどで、上手に関われないままにヨーガを逃げとして使うことを考えているならば、今から退室するようにと申し使っております。

このことは、グループ心理セミナーでのコーディネーターをしていた頃に、一万人近くの受講生の方々にとって、ほとんどの問題の本質が家族関係においての亀裂を解決したいことが目的となっていることからしても、家族関係という土台、つまり、肉体の出自という基本となるスピチュアリティがしっかりしていないと、スピリットの出自を目的とするヨーガに取り組むには危険が伴うと思います。

ですので、今回は、保守本流のヨーガに取り組む前段階として、「内観」について触れてみたいと思います。

内観への誘い

■内観について

昭和の実業家であり僧侶でもあった吉本伊信という方が、浄土真宗系の信仰集団に伝わっていた自己反省法としての「身調べ」から、秘密色や苦行色や宗教色を取り除いた万人向けのものとした修養法となります。

内観法や吉本内観法、そして、医療に応用されて内観療法として知られ、ヨーロッパなどで森田療法と並ぶ日本製の心理療法として、国際的にも認められ、刑務所や少年院などの矯正教育や一般の学校教育・企業研修などにも応用されているとのことです。

私が知る限り、私のような一般の人の他にプロのアスリートに方々もメンタル強化という目的にも合致するとして研修に参加しているようです。

母親をはじめとして、身近な人に対する自分を、一週間研修所にて、屏風に囲まれて、ほぼ二十四時間、三つの観点から「身調べ」します。自らを客観視することができるようになり、しばしば劇的な人生観の転換を起こといわれています。欧米において、“Naikan”といえば吉本の内観法をさすことが多いそうです。

■何を調べるのか?

母親をはじめとして、父親や兄弟そして身近な人間関係(時には自分の身体の一部)に対しての今までの関わりを以下の三つのテーマに沿って、年代を区切って思い出して「身調べ」していきます。

  1. してもらったこと

  2. して返したこと

  3. 迷惑をかけたこと

たとえば、「産まれてから三歳までに母親にしてもらったことは何かを調べてください」や「その当時に迷惑をかけたことは何かを調べてください」のようにして課題が与えられ時間内に調べて、何を調べたのかを話します。

この「身調べ」によって、自分や他者への理解・信頼が深まって自己の存在価値・責任を自覚することによって社会生活の改善につながると考えられています。

また場合によっては「嘘と盗み」や「養育費の計算」などのテーマが与えられることがあります。特に、アルコール依存症患者には「酒代の計算」というテーマが与えられるとのことです。自分が一生の間に酒によって失った金額をすべて計算するというもので、あまりの金額に愕然となって酒を断つものも多いとのことです。

■時間を止めて

以下に、青山大学名誉教授である石井光先生の『内観への誘い』から引用してみます。

私たちは、自分の人生を止めて自分自身を見つめる時間をほとんど持っていません。自分が何のために生まれ、どこから来て、どこに向かっているのかもわからずに忙しく動いています。行き先を考える暇もないし、行き先がわかっていないということにすら気づいていない場合が多いのです。ひたすら先を急いでいて道端のタンポポにも気がつかないというような生活になっていないでしょうか。

そして、それが悩みの根本になっている場合が多いようです。目の前のことで頭がいっぱいで、視野が狭くなっているのです。事業に失敗したりして自殺を考える人がいますが、その人にとっては、事業の成功か死か、合格か死かというただ二つの選択しかなくなってしまっているのです。

そのような時に自分の人生の全体を振り返り、今までまわりの方々がどのようなことをしてくださった結果、今の自分が存在するのかが本当にわかれば、もっと広い視野に立って目の前の問題を見ることができるようになります。そうすれば、そのような狭い選択にはならないでしょう。

石井光『内観への誘い』時間を止めてより引用

■私の内観での体験

当時は、住んでいる家のローンの支払いが手詰まりとなっている時で、そんな状況を先生が察してくださって、「内観」を勧めてくださいました。ヨーガの仲間からは先生がそのように強く強く勧めることはないのだから行くしかないとか言われたことが昨日のことのようです。

先生の奥様が面接官をされている「米子内観研修所」へ一週間お世話になりました。正直、美味しい食事をすること以外に楽しみはなく、ほぼ24時間、食べる時もお風呂の時も夢の中でもひたすら「身調べ」したので、奥様からは「ヨーガをしているわりには調べている」とお褒めというか嫌みもおっしゃっていただきました。

私は、心理学のセミナーやカウンセリングからヨーガへ入っていったので、家族関係は嫌だというほどに調べているつもりでしたが、さすがに一週間に24時間集中して過去を掘り起こして調べることはなかったので、とても有意義でした。ヨーガの先生方は、肉体は調べるけれど心を調べることは苦手なのを奥様は皮肉ったのでしょうね。

内観後のひとつの成果として、住んでいる家のローンの支払いが手詰まりだったことは嘘のように解決して完了したことの他に、今現在において、内観していなかったならば、今月に84歳になる母親の24時間介護生活が親戚を始め兄弟や近所の友人知人からも「良くやっている」と褒められるほどに、超わがままで自分勝手な母親と暮らすことはできなかったと思います。

天国と地獄の分かれ道

今思うと、「内観」した一週間は、「天国と地獄の分かれ道」だったように思います。母との関係で、子供の頃にどのくらい「世話になった」かを、そして、「迷惑をかけた」のかを知ることと、その逆に、「何も支えられていなかった」や「迷惑をかけられっぱなし」だったということを根拠にして、もしくは、「土台」にしているのかは、毎日の生活が「天国」にもなるし「地獄」にもなります。

また、母に対して、「世話になったこと」と「その世話に対してどのくらいして返した」かを比べれば、今が「して返す」機会なのだと受け取れることがまさに「天国」への一歩だと思います。きれいごとではなく、介護はなかなかに厳しい状況が日々においてさまざまな様相をして襲いかかってくる今だからこそ、お伝えできると思います。

内観研修所

内観研修所の中には、一週間ではなく一日内観とかもあるので、まずはお試しでも良いのでオススメ申し上げます。私は一回限りでしたが、友人の中には何回も参加する人がいます。できれば、一週間研修は時間の無駄にならないようにコミットして行かれるのがよいと思います。

全国内観研修所はこちらをご参考ください!

最後に

今際の際で走馬燈のように自分の人生を振り返るといわれていますが、「内観」は生きている内に自分の人生を振り返ることができますので、一度は「身調べ」をされておくことをオススメ致します。

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