「天神様」 母のエッセイ 『戦争、そして今――あの日々を、一人の女性が生きぬいた』補遺作品
子供の頃、近くに天神様のお社があった。実家から三、四分の所、電車通りに面して其のお社は立っていた。境内はさして広くもないのだが、大きな樹木が何本もこんもりと生い茂り、夏などひんやりとして心地よく、子供たちの格好の遊び場になっていた。このお社、いつ頃からこの場所に鎮座していたのだろう。鳥居や周囲の石垣は苔むしていてかなり古びた様子だった。
戦前の話だが、たしか五、六歳の頃の事だったと思う。ある暑い夏の日の昼下がり、幼友達と社殿の前の狛犬の背に跨って遊んでいたお転婆娘の私は