見出し画像

【Dリーグ】アルトリ21-22シーズンの全ラウンドをニワカが勝手に深読みする話

最近ダンスのプロリーグ「Dリーグ」にハマっています。とは言っても自分自身、人生の中でダンスと触れ合うことなどほとんどなく、せいぜいももクロ追っかけてた時期にライブのために振りコピしてた程度の人間なのですが、そんな素人でも素直にすげー、と言ってしまうくらいにはDリーグ面白いです。

Dリーグは2~3週間ごとに各チームが2分15秒のショーを行い、ジャッジ+オーディエンスの点数を競います。全12ラウンドで、ちょうど今シーズンの全ラウンドが終了し、6月に上位チームによるチャンピオンシップが開催されます。

各チームに得意ジャンルがあったりしますが、逆にそのジャンルによってジャッジで評価が分かれる、というファンの不満もあるようです。ただ、ジャンルの異なるものに何らかの視点から評価を下そうとするというのは音楽レビューも同じだな、と思いました。できればみんな違ってみんないい、と言いたいところですが。。。

さて、今回は私が好きなチーム「LIFULL ALT-RHYTHM(通称アルトリ)」の今シーズンを全ラウンドを独断と偏見で書き散らしておきます。
アルトリはコンテンポラリーダンスをメインとしていて、残念ながらチャンピオンシップには残れませんでしたが、社会課題などの難しいテーマを取り上げつつも、最終的には観客に解釈を委ねる、というスタンスで、毎ラウンド想像を掻き立てられるショーを披露してくれました。

ということで、勝手に深読み(と盛大に誤読も)していきたいと思います。

Round1 Option

 衣装と冒頭の争いのようなダンスからなんとなく人種間の断絶をイメージしましたが、振り付け担当のIkumaさんがYoutubeで語ったところによると、人生は選択の連続であり、今メンバーが集まってDリーグに参加していることもそういった選択の結果である、ということを表現したかった、とのこと。
 リーグを通して見ると、アルトリはなかなかジャンル的にも理解されず、序盤は特に苦しんでいましたが、シーズン終盤には評価も高まり、ジャッジやファンのダンスの見方そのものを揺さぶるような独特の立ち位置を確立しました。結果論ですが、これを踏まえてラウンド1を見返すと、既存の価値観と戦ってアルトリが新たな選択肢=Optionとなる、という高らかな意思表明だったのかもしれない。

Round2 Splendor

 ディレクターの野口さんがギンザショートフィルムコンテスト2019の優秀賞を受賞した同名の短編映像作品が元になっているとのこと。
 盲目の女性が美容室で髪を切り、輝きを取り戻す、というストーリーで、女性役のIkumaさん、美容師役の野口さん以外は全員髪の毛役、というのが斬新。最初はこの配役を知らずに見たので、途中でダンサーがバタバタ倒れてく意味がわからなかった。
 改めて考えると、髪の毛は私たちが生活する上でのしがらみだったり、社会の常識、みたいなもののメタファーなのかもしれない、と。そう考えると、盲目というのも様々な関係性の中で身動きが取れなくなっていることを表していて、Splendorはそんな女性が再出発する物語であって、誰にでもまた輝けるチャンスがある、という前向きなメッセージと感じられました。

Round3 Silence

 人種差別などの社会問題をテーマとしている、とのこと。象徴的なのは途中で出てくるリンゴで、メンバーの解説動画ではKiLiさんが自身の解釈を紹介してくれています。
 Silenceというタイトルと裏腹にダンスは激しく、楽曲のテイストも相俟って強い怒りを感じます。上記のテーマを踏まえれば、抑圧されながらも声を上げることができない社会的な弱者の怒りとでも言うべきか。またはSNSを始め、ついに彼らが声を上げる手段を手に入れ、抑圧のシステムを暴こうとしているのかも知れません。リンゴの個人的な解釈としては、やはり(善悪の)知恵の実で、観客に対して、盲目的に流されず自分で判断しろ、と迫っているように思います。
 世界観としては真・女神転生(ゲームの)が近そう。すなわちLaw(秩序を重んじ、自由や多様性を否定しがち)に対し、Chaos(自由を重んじ、力を崇拝する)が神に背いて叛逆を促している。最後angeloさんが一人離れるのは、第3の道(Neutral)を求めるも、それはLawともChaosとも対峙する険しい道である、という示唆にも思えます。

Round4 Mirror

 入場時の説明によれば、クリスマスにドタキャンを喰らった女性が一人で寂しく過ごしていると、鏡の精が現れて…というストーリー。
 ここでは果たして鏡の精とはなんだったのか、というのは考えてみたいところです。ディレクター陣の解説動画ではモンスターだったり、女性自身を映し出した姿だったり、例の如く色んな解釈がありますよ、となっているわけですが、実はこれ、Twitterのことでは?
  つまり女性たちはネット上で他人には簡単には見せられない、自分の醜い部分(=モンスター)を曝け出して、愚痴を言い合ってスッキリ、という笑
 まぁあんな爽やかな作品にこんな毒があったら嫌だけど、彼女たちが鏡の世界=SNSやメタバースを通じて繋がることができれば、中盤でみんなで集まって同じ時間を共有していても何も不都合ないよなー、とも思ったり思わなかったり。
 にしてもSPの碓井さん、めちゃめちゃ表情いいっすよね。

Round5 Time

 順位は振るいませんでしたが、$さん初登場回でYoutubeの再生数を見ても人気の高い回なのでは。舞台裏動画によれば個性爆発、とのこと。
 序盤に雰囲気重めのテーマも多かった上、思いっきり音楽に乗せて踊るのが少なかったアルトリがついに!という回でもあるので、純粋にエンタメととらえても良い気がしますが、やはりベルが意味するものが一体何なのかが気になります。世の中、色々不平等があっても時間だけは1日24時間誰にとっても共通なわけで、それをコントロールできるものとは何なのか。
 ベルの所持者である$さんはcalinさんとSPダンサーの小幸さんを両サイドに侍らせているわけで、すると、ベルは権力か金で(タイムイズマネーとも言いますしね)、権力者が庶民をもてあそんでいるようにも見えなくない。他のメンバーは終始楽しそうに踊っていることを考えると、マトリックスのように表面上は皆幸せに暮らしつつも裏でコントロールされているとか、$さんのポップやアニメーションを踏まえれば、AIとか、もはや人間でない可能性もありますね。
 ちなみに見直してやっと後半の衣装替えに気づいた。普段着からお揃いのゴールドに変わるのもなんか象徴的な気もしますがが… 

Round6 ritual

 古代の儀式をモチーフに踊り続けることを描いた作品。このラウンドから徐々にジャッジの評価も上向き始めていきました。
 SPダンサーの柿崎さんは巫女というべきか。永井さんが扮する謎の獣(神の使いなのか厄災なのか、メタファーとしては困難や乗り越えるべき壁の象徴といったところだろうか)と対峙する中で繰り返し叫ばれる「DANCE!!!」はもはや「生きろ!」と同義ですね。Teaserにあるようにダンスの起源が古代エジプトの出産の痛みを紛らわすものであったならば、今回はダンサーにとって踊ること表現することの価値を表現しつつ、舞台裏動画のスタッフコメントの通りアルトリにとっての産みの苦しみを表現しているのかも。
 これまでわかりにくいと言われたり、逆にRound5のようなストリートダンスでもなかなか評価がついて来ない中で、毎回どうすればよいのかを考えながら産みの苦しみを経ているわけで、今後の作品を作る過程で本能に根差したritualが必要だったのでは、と思わざるを得ません。SPの柿崎さんはアルトリ始動時のワークショップも担当されていたことから、今回の作品が彼女からのメッセージのようにも思えます。
 ちなみにタイトルがすべて小文字なのは全ラウンド通して今回だけ。理由はわからん。

Round7 HOPE

 ジャッジとしては今シーズンのアルトリ最高得点を叩き出したラウンド。度々同じ舞台に立っているという永井さんとSPダンサーKosukeさんの絡みも美しい。
 ディレクター陣の解説によれば、亡命者が詰まった輸送機の写真からインスピレーションを得て、そこから昔読んだ少女の日記(多分アンネの日記?)を思い出し、希望を捨てないことをテーマに選んだ、とのこと。
 入場時の最初のシーンと最後のシーンが同じであり、同じ振り付けが繰り返されることも特徴で、音楽で言ったらテクノだろうか、歴史が繰り返す中でも少しづつ変化している(=何も無駄ではない)ことが表現されているのだと思います。ラストの解釈としては、少なくとも今回は最後はまた輸送機に押し込められたバッドエンドなのかもしれない。ただ、それは次こそは変わるかもしれない新しい世界である、ということ。
 繰り返しというキーワードを念頭に見直すと、最初のパートでNikiさんが無表情で沈んでいくところが、なんとなく旧劇エヴァっぽくない?と個人的には思ったり。エヴァ、ループ説あるし。つまりエヴァで旧劇ラストから始まって新劇に入って、永井さんとKosukeさんがエヴァと槍、みたいな妄想も膨らみますね。

Round8 Spice

 SPダンサーとしてキッキィさん、MSTさらにフィンガータット世界チャンピオンの源元さんという3名を投入した作品。Cosmos(宇宙)というタイトル候補もあったとのことで、多様な個性が混じりあって一つになるという世界観。むしろ内容的にはCosmos強め。
 ディレクター野口さんやSPダンサーが関わった無名(ウーミン、キッキィさん)やWORLD ORDER(MSTさん)はテレビで見てた世代なので、ダンス知らない自分でもおおっ!となりましたね。
 インドっぽい楽曲に時空が歪むようなスロモーション、終盤のテンポアップからトリッピーな展開という、あーこれは完全にやってますね、結構ヤバいSpiceも混ぜちゃってますね、という印象(もしかしたらアルトリこそがそのヤバいSpiceだぜ、というのもあるかもしれませんが)。
 キッキィさんとMSTさんがそれぞれ源元さんと$さんのスタンドなんて話もあるようで、つまり、精神的なぶつかり合いと交流による無限の広がりであって、もしかしたらダンサーの皆さんもラウンド毎のクリエイションでそんな宇宙を見ているのかな、と思いました。

Round9 LIFE

 アルトリがいつからこの作品を準備していたのかはわからないけど、ウクライナ侵攻があまりにもタイムリーだった作品。
 SPダンサーの三東さんはずっと森井さんの上に乗って新聞を読んでいますが、ラストでようやく地に足をつける。一方で新聞紙をまとった白黒のダンサー達は銃声に晒されながら何度も立ち上がる。そして、三東さんが降り立つと同時に倒れ込んでしまう。
 三東さんはニュースを見ても他人事で済ましてしまう私たちで、ようやく事の重大さを認識した時は既に手遅れなのかもしれない。一方で銃声に立ち向かうダンサー達は苦しみながらも笑顔であり、その真意を理解することは簡単ではないけれど、それこそウクライナ侵攻で今私たちが経験していることではないだろうか。例えば逃げることより戦うことを選んだ人がいる。その決断を理解するにしてもどう関われば良いのか。
 Round7、8とDリーグにフィットしてきたと見せておいて、敢えてこのショーをここに持ってくるのはアルトリらしい。

Round10 Keep on

 ザルやらハンガーやら身の周りの素材を活用した衣装はサステナブルの表現だろうか。ショーの冒頭、一人ずつ中央でポーズを取って個性を表す中、特にSu-yangさんの存在感がヤバい。解説動画を見るとファッションというコンセプトがまずあり、あのランウェイのようなアピールに繋がったのだそう。
 そしてその後は「ラン」ウェイから転じたのかはわかりませんが、ほぼ(文字通り)走り続けるという尖りっぷり。走っている時もフォーメーションやアングルの変更で非常に立体感があって面白い。
 走り「続ける」ことと、サステナブルがうまく噛み合ってる印象ですが、最後にangeloさんはCDメガネ(見たいものを映す、玉虫色の色眼鏡とは考えられないだろうか)を外して何を見たのだろうか。眼前に迫る世界の終わり、とも考えましたが、表情を見るに、あるべき道を悟って再び走り始める、と言ったところと想像します。

Round11 ONE

  コロナの影響で、急きょSPダンサー3人(碓井さん、三東さん、井田さん)を加えて作られたとのこと。
 全裸イメージの下着からその場で着替え始める入場に加え、井田さん碓井さんのキスという衝撃的なスタート。そして最後は必殺のアルトリわいわい。
 一人ひとりがくっついたり離れたりしながら日々の生活を送り、人生を謳歌する様が描かれています。ONEとはすなわち、一人ひとりが「もともと特別なオンリーワン」であって、全てがつながり合ってひとつの世界を作っている、ということ。
 序盤、全員が中央に集まるところで碓井さんが何か叫んでいるのだけれど、まだ解読できていません。そしてその後の森井さん(歌詞と合わせてる気もする)。ここら辺はもう少し考えなきゃなー、と思っているところです。

Round12 Flower

 久々のレギュラーメンバーだけで臨んだ最終ラウンド。そして反則覚悟の9人体制笑ということで、$さんは人形で出演。
 まさしく色とりどりの花=個性を集めてアルトリという花束になっているという、多様性を象徴するような多幸感あふれるショーでした。まさに愛。永井さんの試合後のコメントも良かった。
 何人かの選手は宣材写真と同じ衣装だったり、入場時のパフォーマンスもプレスコンファレンスの再現、ショーでも途中時計が巻き戻るような演出の後にプレコンを思わせるペアダンスが入っていたりして、改めて今シーズンを振り返りつつ、アルトリがなんたるかを表明していたように思います。
 音楽は一番最初にできていた、とのことで、多様性を掲げるアルトリとしては最初のラウンドでこれをやって、わかりやすくアピールする道もあったと思います。しかし、敢えて社会問題などの難しいテーマにも取り組んだ上でこれを披露することで、メッセージが上辺だけではなく、真に伝わるものになったのではないでしょうか。


 以上、長くなりました(妄想も多々あります)が読んで頂きありがとうございました。
 来年こそはチャンピオンシップに!応援してます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?