見出し画像

梟の法廷感想

先週梟の法廷(邦訳)感想大会開いた時三幕構成解析やりまして、もったいないからノートにのせようかなと思った次第です。間違ってるかもしれないから話半分に聞いて下さい。

画像1

PPⅡがかなり後半にさしかかっているが、第三幕までにすべての葛藤を終えることから往々にしてとくに近年は第三幕が短めとのことなので、おそらくこれで問題ないだろうと思う。あるいは『街』89Pかなとも思ったけど、明確にストーリーの流れが変わるのとは少し違うのでこちらかな、と。
上下巻なのでMPはわかりやすい。上巻の最後に丁度梟の法廷が本格的に行動を開始し、街全体に牙を剥くシーンが入る。

画像2

それぞれのターニングポイントで話の流れが少しずつ変わっている。
PPⅠ、話の流れが変わるのは梟の法廷が「迷宮にようこそ!」っていうシーンなので、ここがPPⅠかなと思ったんだけど、ページ数と、「自らの意志で危険な状況へ踏み込むシーン」・「ストーリー上の欲求が明確になるシーン」っていうのを鑑みると、子供の頃の話をしてから街に出て行くシーンがPPⅠかなと。
このPPⅠを経て、今までただの都市伝説であり、殺人犯に利用されているおとぎ話だった『梟の法廷』の存在が明確になる。
PPⅠからピンチⅠまでは迷宮をさ迷い、梟の法廷(の用意した迷宮と罠)と戦っていたのが、ピンチⅠを経てタロンとの戦いへと変化。
命からがら逃げ出して、MPを経て下巻へ。
MPからピンチⅡまでの間、ブルースは今までの価値観を破壊され、失意の底にありつつ生きるために闘う。
価値観を破壊されたままなので、自分のフィールドで戦っていても尚苦戦しているが、アルフレッドに「ゴッサムを支える有力者40名」の暗殺リストを提示された後、ピンチⅡからは怒りとともに反撃を開始。敵の価値観を否定する戦いが描かれる。
PPⅡ以降、戦いはバットマンとしてだけではなく、ブルース・ウェインとしての戦いも追加され、ブルース・ウェイン個人の鏡像たるリンカーン・マーチと戦う。

画像3

作品のメインストーリーは、冒頭のシークエンス通り「ゴッサムを守るバットマンの戦い」だが、これがサブストーリーの「ゴッサム再建計画」とからむ事によって梟の法廷が物語の中核を担うようになる。

画像4

テーマの提示は20P。冒頭からテーマについて語っているが、明確に「ゴッサムは のあとに続く言葉は?」というクエスチョンが出現する。
 その後、52Pに間違った結論が出現。文章の上では『私の街には』だが、冒頭に提示した『ゴッサムはバットマンの街』という言葉に通じる結論であり、これは過ちなので敵を倒せず、タロンが復活して市民がひとり犠牲になる。
 不死身の化け物が人を殺すという演出もさることながら、モノローグの傲慢さが主人公の『過ち』を明確にしており、それ故主人公が敵を倒せず、また今後この過ちのせいでさらに大きな惨劇が起こるであろうという予感がある。
 この過ちはMPまで続き、そのため彼はかつてない窮地に陥ることになる。
 MP以降、下巻冒頭では間違った答えを否定され、思い悩むシーンが入り、下巻のほとんどをしめる戦いの中でブルースは新たな価値観を発見していく。
 タロン襲撃後、アルフレッドがゴッサム有力者のリストを発見する。ここに表示されたゴッサムの有力者は40名弱。バットマンや梟の法廷とは無関係に、40名弱の人間がゴッサムを支えているということを目に見える形で示している。この事実は、作品の冒頭、法廷14Pでブルース自身が言及している。
 そしてテーマの再提示が135Pにある。MPを得て、自分が傲慢な愚か者であったと気づいたブルースが、MP以降の戦いを経て得た答えが示される。
「ゴッサムは……みんなのものだ」
ここにたどり着かなかった敵(梟の法廷)は自分の子飼いに反逆され、第三幕より以前に無残にも瓦解する。

☆梟の法廷についてつらつら

1980年代のタロンを探していたら『街』P24のバットケイブに侵入してきたみんな大好き金目ちゃんが1980年代のタロンのデザインと思われる。
 ディックを見に行ったカーバーさんはデザイン的に1950年代のタロンなんだがどういうことだ。年齢計算あわなくないか?
 これを見つけるまでは、ディックがブルースに引き取られ、一方カーバーはバットマンに敗北して早急に眠らされたため、タロン不在による交渉力不足で梟の法廷の弱体化が進んだのだと思っていたが、タロンがいてもブルース・ウェインが積極的に街の変革を行ったために弱体化したのだろうか?
 すくなくとも、『街』の冒頭で明らかになった暗殺対象のリストは『ゴッサムの有力者ほぼ全員』『40人近く』を殺害しようとしているので、権力者の総取り替えをしなければ街を本格支配できないほど、表舞台で法廷の息のかかった人間が活躍していなかったのは確かだ。
もしかしたらNo2かNo3あたりには梟の法廷関係者がゴロゴロしているのかもしれないが、もうちょっと日頃から交渉や政治活動に力を入れていれば、暗殺対象は10人ないし20人くらいに押さえられたのではないか?
 そしてやっと表舞台で動ける法廷関係者としてリンカーン・マーチが出現し、次期市長として有力候補になったのに「死んでもいいやー」という扱いの雑さ。どれだけ政治を軽んじて武力に訴えてきた脳筋集団なのかがわかるというものだ。もしかしたら、物語の後半で明らかになるリンカーンの「ゴッサムを手に入れる」という野心を見抜いて警戒していた結果の対応なのかもしれないけど、それなら新しい嘴用意するくらいしたほうがいいのでは? お前ら政治センスなさすぎか?
 『街』196Pで、ドクターフリーズは『フクロウが技術を奪い兵士を復活させた』と証言しているので、兵士の復活はドクターフリーズの研究を奪わなければ叶わなかったということだ。
 作中最初の殺人であるトレーナーの殺害は『過去の暗殺者を復活させられるようになったため、用済みになった』と予測されている。ナイトウイングが彼に腕を捕まれた一週間前。発見された時、死亡推定日時が5~6日前と明記されているので、ナイトウイングに接触した直後に殺されたと考えて良いだろう。用済みであると同時に、口封じの意味合いもあったのだろう。過去のタロンを復活させられるとはいえ、知識は大いに越したことはない。復活したタロンに再びトレーニングを施せばより強力な兵器になるのは間違いないのだ。だってバースオブプレイと戦ったタロンとか絶対現代知識勉強しなおしたほうがよかったやつじゃん。
 それはそれとして、とにかく作品開始一週間前にようやく彼らは冷凍睡眠から安全に兵士を復活させられるようになったのだと思われる。
 カーバーに冷凍睡眠技術が施され、ディックがブルースに引き取られて以降、新しいタロン(サーカスからきた子供でも、解凍された昔のタロンでも)がいたかは不明だが、好き勝手するバットマンとタロンが対決した形跡がないことから、おそらくディックが引き取られた後、新しいタロンは現れなかったのだろう。
 その間にブルースがゴッサムの改革に積極的だったのも災いし、梟の法廷からどんどん権力が削がれていったと考えられる。武力にばかり頼って手駒を表舞台に送り出すことをおろそかにしたツケと言っていいだろう。表舞台に自分たちの片鱗でも出すのを嫌っていたのかも知れない。とんでもない厨二病である。
 表だって権力を入手することに消極的なのはリンカーン・マーチの扱いを見ていれば察することができる。逆に言えば、消極的だったにもかかわらずリンカーン・マーチを次期市長に立候補させるあたり、当時の梟の法廷がどれだけ切羽詰まっていたかということだ。
 過去を見つめ変革を拒む法廷に対して、未来を見つめて変革を望むブルース。彼は表舞台の権力者達に太いパイプがある。法廷の焦りは推して知るべしである。
 そんな状況下、やっと兵士を復活させ、戦力を増強させてかつての栄光を取り戻せる目処がたった。そのためにはバットマンとブルース・ウェインを殺さねばならない、と思った時にあの迷宮での事件だ。
 バットマンがタロンを破壊し、『絶対に逃がしはしない』(135P)と宣言して迷宮から逃げ出すのは、隠れ続けて来た彼らにとってとてつもない恐怖だっただろう。MPに該当する、タロン全てを街に解き放つシーンは、よくよく追い詰められた彼らが破れかぶれの総力戦に出た結果なのでは? 作品開始の前段階で、梟の法廷って思ったより追い詰められていたのではないか?

☆ウケ狙いだった感想

画像5

梟の法廷、ブルースが自分と良く似た厨二病を叩きつけられる話でもあるけど、梟の法とリンカーン・マーチとブルース・ウェインが魔性の美女ゴッサムちゃんを取り合う話でもあるよね。

画像6

ゴッサムチャンの昔なじみでクズの、ゴッサムちゃんに売春で金を稼がせるヒモ野郎梟の法廷と、病院の窓から見かけるゴッサムちゃんに恋心を抱き、親しげにするブルース・ウェインに嫉妬することで生き延びたリンカーン・マーチ
 美女が娼婦として堕ちていくことに納得がいかず、こんな場所にいるべきじゃないと手を差し伸べるブルース・ウェイン的な。
 でもリンカーンもまた梟の法廷とかいうダメンズにひかかって身を持ち崩したタイプなので、第二のゴッサムちゃんと言えなくもないですね。だからこそ、彼に対する考察と感想は物語の終盤、ブルースとディックでそれぞれ微妙に異なるし、読者にとっても解釈がわかれるような設定にしてある。ゴッサムちゃんもリンカーンも、覗き込む人によって姿を変える鏡像なんですよね。
 ブルースの援助もあって人生をやり直そうとするゴッサムちゃんだったが、疎遠になりはじめた梟の法廷が、ゴッサムちゃんが離れていこうとする気配を察知し再び目の前に現れゴッサムちゃんの再起を邪魔する!!
しかしその騒動の裏にはゴッサムちゃんのストーカー、リンカーン・マーチの影が……!?
 なお、三人とも最終的にゴッサムちゃんにフラれる。
ブルースは最後あたりにドヤ顔で「彼女はドレスや宝石よりも……自由が一番よく似合う……」とかいって自由に振る舞うゴッサムちゃんを見送るんですよ。
だって『ゴッサムを理解したと思ったその時、ふと気を許したその瞬間……背後からナイフで刺されるのがオチ』(法廷P30)なので。
 映画でよるある。絶世の美女を巡って争う男たちをよそに、それらを踏み台にしてより輝かしい世界へとひとりで向かう美女、みたいな奴。

英語の成績2なりに、アメコミのジェイソン・トッドとジョン・レーン・ケント関係のコミックの感想中心に書きます。よければよろしくお願いします。