THE BATMANと腐敗する社会

THE BATMANを観た。感じたことを書こうと思う。

とりあえず面白かった。面白いという言葉が適切かはわからないが、いい映画だった。こういう重厚な映画をちょうど見たかった。

スパイダーマン:ノーウェイホームはMARVELでこれはたしかにDCだなと思った。同じアメコミの括りなのに、方向性とか提供したいこととかが違うだけでこんなにも違う映画になるのかと思った。MARVELはエンターテイメントを、DCは楔を提供してくれる。

汚職や犯罪の蔓延るゴッサムシティで闘うバットマンの姿が描かれているが、ヒーローでもヴィランでもないこの人物をなんと呼べばいいのだろう。ダークヒーローという言葉があるのを上映前のムーンナイトの予告で知ったが、それも何か違うよな。自警団か。自警団だ。多分。

リドラーやキャットウーマンは恵まれた環境で育ったわけではないから、復讐とかそういうことをやるのはまだわかる。けど、ブルースは環境としては恵まれているにも関わらず、心はリドラー、キャットウーマンと同じレベル。であれば、リドラーと同じような環境で孤児としてブルースが育ったならばどんなことになっていたのだろう。

リドラーが捕まった後に、自分とお前は一緒に悪を成敗したんだ、というようなニュアンスのことをバットマンに言っていたが、たしかにそうだなと思った。リドラーが頭脳で、バットマンが実行部隊って感じ。同じ側かもしれないよね、対立するのではなくて。でも、バットマンは警察と協力しているから一見するといいやつに見え、殺人をするリドラーは悪いやつに見える。でもどちらもやりたいことは一緒。バットマンは父親を殺したような下層の人たちをビルの上から見下ろして叩きのめしたいし、リドラーはこんな腐敗した社会を作る上層にいるが腐っている人たちを叩きのめしたい。あまり変わらないのではないか?リドラー主人公で映画を作ったら、リドラーに感情移入するのではないか、2019年のJOKERの時のように。そのようなことを感じた。

映画的には最後ころっと心変わりして、復讐ではなく下に降りて市民を直接救うことを始めるが、それはなんか呆気なくて少し残念。それと、降りる際、胸元のバットマンのシンボルを使ってロープを切るところで叫んでいたが、そんなに上から下に降りるのにエネルギーがいるんだと思った。

カーチェイス後、ひっくり返った車にいるペンギンにバットマンがゆっくり近づき、覗き込む。その後、手と脚を拘束し、ゴードンと共に尋問をする。ここのシーンはバットマンが完全にヴィランに見えた。ヒーロー映画って呼ばれてるのかわからないけれど、これはヒーローではないよね。ヴィランがいくらヴィランでもそれに対抗するやつは必ずしもヒーローとは限らない。自警団だってこともあるよね。ネット上の自警団(まがい?)を見ても思うけど、ヒーローと自警団って違うよね。やらない善よりよる偽善かもしれないが、偽善だと信じているものがそもそも悪だったら、それを主張する人の論理は破綻している。

さて、舞台のゴッサムシティは腐敗している都市として完全に描かれているが、実社会はどうだろう。

以前、NHK Eテレの「ねほりんぱほりん」という番組でリストラ担当者について取り上げていたが、その人たちの大きな負担に驚き、また怖ささえ感じた。会社の業績などが悪い場合にリストラを行う。そのリストラ対象者一人一人には生活があるのに、会社を成り立たせるためにリストラせざるを得ない。しかも日本では実際にリストラはできないらしく、自主退職を促し、それに従わない場合はかなり違法性のありそうな圧力をかけて鬱にさせるレベルまで追い込み、これは仕事続けられないですね、ってなって休職からの退職にさせるらしい(そういう事例が一つ取り上げられていた)。たしかに、会社が潰れればもっと多くの人たちの生活に影響が出るのだろう。だからリストラをする。わかる。理屈としてすごくよくわかる。ただ、そこには咀嚼できず、飲み込めない何かしらがある。人間がここまで繁栄できたのは、これだけ複雑で張り巡らされた社会というものを構築できたからだろう。だから、こんなに便利なものに囲まれ、明日天敵に食われてしまうだろうか、食べ物は無事手に入るだろうかと多くの場合考えなくて良いのだ。そして社会がそれらを与えてくれるのなら、その対価として我々個々人はその社会に労働を捧げなくてはならない。でも社会というのはあくまで我々の生活をより良いものにしてくれるものであって、我々の生活が社会を良くするためにあるのではない。生活が先で、そのために社会があるよねという感じ。だから、社会を良くするため(ましてや会社を存続させるため)ではなく、生活を良くするために労働をするのが正しいのだと私は思う。だから会社のためにリストラをするのは仕方ない(他の従業員の生活もあるから)と思うが、これが最善の手か?と思ってしまう。そうかもしれないし、そうでないのかもしれない。

社会が最優先じゃないんだよ。それが腐敗している時は特に。

そんなことが頭の片隅にある中で、THE BATMANを観ていた。

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