プロミシング・ヤング・ウーマン

 米アカデミー賞で脚本賞を受賞ということで、楽しみにしてました。だから期待度MAX。自分の中でハードルを上げて観に行きました。

 う〜ん、思ったより並の作品でした。悪い映画ではないですが、もひとつ心に響きませんでした。
 欠点らしい欠点はないんですよね。けど「これはスゲェ!」とか「思いつかなかった!」とか「めちゃくちゃ感動した!」と心を動かされるほどではありません。痛快でもないし、すごく切ないわけでもない。
 映画館を出た後、何なんだろう、この腑に落ちない感じは……ってずっとモヤモヤしてました。

 で、メモを見ながらストーリーを思い返してみてだんだん分かってきたんですけど、まず思ったのは、主人公にいまいち感情移入ができないという点です。
 主人公のキャシーは、毎週、バーやクラブに行っては立てないほど酔ったふりをします。すると大抵、男性が声をかけてきて、一線を越えようとします。その瞬間、彼女は正気に戻り、女性が酔っているのにつけ込んで一発ヤッてやろうとする卑劣な男を懲らしめるのです。
 キャシーが何故そんなことをしているのかというと、大学時代、親友のニーナがコンパでベロベロに酔わされて、アルという男にレイプをされてしまったからです。しかもその時、その場には何人もの学生がいて、動画まで撮られてしまいました。ニーナは、その事件を苦に心を病み、自殺に追い込まれます。
 だから、酔った女性を引っかけてヤッちゃおうとする男たちを憎むのは分かります。でもニーナの事件と関係のない男を懲らしめるのはちょっと違う気がします。酔ったふりして騙すのも良いやり方と思えないですし、毎週そんなことをしているということにも付いていけません。彼女が毎週、クラブで酔ったふりをするに至った経緯とか理由が欲しいです。

 あるいはキャシーがブッ飛んだ人物に設定されていたら気にならなかったのかもしれません。スーパーヒーローかサイコかどちらかだったら、そもそも感情移入できないものとして観るので。でもキャシーって男に媚びない強い女性に見えて、意外に普通なんですよね。
 彼女は成績優秀な医大生でしたが、ニーナとともに大学を辞め、今はおそらくフリーターとしてカフェで働いています。彼氏もおらず、30歳の誕生日には両親から「実家を出ていってほしい」という意味でスーツケースをプレゼントされます。

 そんなイケてないアラサーの彼女の前に大学の同期であるライアンが現れ、二人は恋に落ちます。
 一方でキャシーは、ニーナの事件の関係者に、ニーナと同様の苦しみを与えていきます。ただ、当時アルを弁護したグリーン弁護士だけは「過去のおこないのせいで自分が許せない」と告白したため、許します。
 こうしてキャシーの復讐は、アルを残すのみとなりますが、ここでニーナの事件の現場に、ライアンがいたことが判明します。ニーナはライアンに別れを告げ、アルへの復讐に向かいます。

 そしてこの後、彼女はピンチに陥り、最後に逆転劇があるのですが、これこそがこの映画の最大の欠点だと思います。このラストシーンのせいで観客はちょっと救われた気になってしまうんですよね。
 救われることの何が悪いんだと思われるかもしれませんが、この映画の場合、テーマをぼやかしてしまっているんです。よくよく考えると誰も救われていなくて、ただただ観客をちょっとホッとさせるためのラストになっていました。

 日本では近年、テレビでコンプライアンスという言葉をよく耳にするようになり、表現がどんどんソフトになってきていますが、きっとアメリカもそうなんだろうなと思いました。
 これがアメリカンニューシネマの頃とかだったら、おそらく最後の逆転劇はなかったんじゃないかなぁ。観客に、モヤモヤを残したまま劇場を後にすることを強いたと思います。

 設定とかアイディア自体は面白いので、ここから本当に描きたい部分を尖らせたら良い作品になった気がしますが、何か色々忖度したのかなという印象が強いです。だってキャシーが男を懲らしめるようになった経緯や理由をまともに描くとしたら、たぶん吐き気がするようなシーンを描かなきゃならないじゃないですか。ラストも救いのないまま終わったらなかなかハードです。そんな描き方をしたら今時、クレームがめっちゃ来そうですもん。

 それでも覚悟を決めてトラウマになるような映画を作ってほしいと切に願います。Netflixとかクラウドファンディングとかなら、可能性あると信じたいです。

製作年 2020年
製作国 アメリカ
原題 Promising Young Woman
配給 パルコ
上映時間 113分
PG12


スタッフ
監督 エメラルド・フェネル
製作 マーゴット・ロビー、ジョージー・マクナマラ、トム・アッカーリー、ベン・ブラウニング、アシュリー・フォックス、エメラルド・フェネル
製作総指揮 キャリー・マリガン、グレン・バスナー、アリソン・コーエン、ミラン・ポペルカ
脚本 エメラルド・フェネル
撮影 ベンジャミン・クラカン
美術 マイケル・T・ペリー
衣装 ナンシー・スタイナー
編集 フレデリック・トラバル
音楽 アンソニー・ウィリス
音楽監修 スーザン・ジェイコブス

キャスト
カサンドラ(キャシー)・トーマス キャリー・マリガン

ライアン ボー・バーナム

マディソン アリソン・ブリー

クランシー・ブラウン

ジェニファー・クーリッジ

ラバーン・コックス

コニー・ブリットン



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