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心身相関とヒーリング

(※長文4000字あります)
 

「心身相関」とは心理と生理との作用・活動が相関関係にあること。感情は身体にも適応する形で現れ、また身体の疲労は心理的意識となって反映する。

コトバンクより引用



 心と体は互いに深く結びついている。ストレスで胃がキリキリしたり、緊張で心臓がドキドキしたり、危険に遭遇して呼吸が乱れたり冷や汗をかいたりする。
それは心の状態が身体に反映することの典型的な例であり、大抵の人が経験していることだと思う。

ところがその逆に、身体の状態が心に影響を与えるということになると、なかなか自分では捉えにくい場合がある。

肩が凝って気分が重くなるという例などはすぐに理解できるが、何故かよくイライラするという人がいて、体の状態を調べると原因はふくらはぎに疲れが溜まって緊張しているとか、また頭が重く気分が落ち込みやすい人の体を調べると、膝関節の固さが原因ということもある。このような場合、ふくらはぎや膝を緩めればイライラや落ち込みは一瞬にして消えてしまうが、しかし自分で気づくのはとても難しい。私たちはイライラしたり気分が落ち込んでいたら、それを解消しようと大抵は飲んだり食べたり、運動をしたり、テレビを見たり、或いは時に周囲にいる誰かに八つ当たりしたりすることもある。


 こうした分かりにくい心身相関の症状への対処法の一例として、私が以前クラニオセイクラルバランシングというヒーリングの仕事をしていた中で出会った、ある一人の男の子のことを取り上げてみたい。

ある日、その男の子のご両親が私のセッションの噂を聞きつけ、自宅での出張セッションの依頼をしてこられた。私のセッションは主に大人の方を対象としたリラクゼーションを深めるためのワークがメインで行っていたものだが、時々脳障害のある子どもたちへのセッションも行っていた。

当日ご自宅に到着し、前もってひと部屋を空けておいて欲しいとお願いしていた一室に通され、そこに持参した折り畳み式のマッサージテーブルを拡げた。そしてセッションを始める前にご両親からお子さんについてお話を伺った。

彼は小学校に入学する直前で、元気いっぱいに遊びに夢中になる子だったが、同時に注意欠陥・多動性障害(ADHD)という発達障害を抱えているということを知った。

発達障害
「自分の感情をコントロールする」「物事に集中する」「他人の表情から感情を理解する」などがうまくできないのが発達障害です。これは生まれつきの行動や思考の特性であり、個性や性格に近いものです。
発達障害には、人とのコミュニケーションが困難な自閉スペクトラム症(ASD)、注意が持続できなかったり衝動性が高い注意欠如・多動症(ADHD)、読み書きや計算などが極端に苦手な限局性学習症(LD)の3つのタイプがありますが、複数のタイプを併せ持っている場合もあります。

NHK健康チャンネルより引用



この子は家の中でも外でも落ち着きがなく、一日じゅう動き回っているとのことだった。実際その時もじっとしていることができずに、独り言のようなおしゃべりをしながら家じゅうをバタバタと走り回っていた。ご両親はお子さんが小学校に入学するのを目前にして、はたしてこの状態で学校の授業についていけるのかどうか、とても心配されていた。

そのお話の中で私が特に気になったのは、
「よく自分の頭を壁に何度も何度も打ち付けていることがある」
という彼の動きだった。

何故だろう?
何故、頭を壁に何度も打ち付けたくなるのだろうか?

私は子供の頃にそういうことをした経験はないのだが、もし自分が頭を壁に打ち付けるとしたら、いったいその背後にどんな心境や心理があるのかを想像してみた。

例えば大人がもし頭痛を感じたら、手のひらや指を頭に当てるだろう。或いは首を揉んだり、肩を回したりといった、凝りを感じる部分を緩めようといろいろと試してみたりする。
しかし小さな子供にとってはそこまで思いを巡らすことはできないだろう。

この子の場合には実際に頭痛を感じていたのかどうか分からない。
しかしながら、もしかしてそうだとしたら?

手を当てる代わりに、壁に頭を打ち付けることによって、一時的に頭の中の痛みや緊張をその衝撃によって忘れたり、或いは和らげることができるというような錯覚に似た感覚=快感を味わっていた可能性はないだろうかとふと思った。

そして一日中動き続けている原因も、もしかしたらその頭の中の痛みや緊張を忘れるための、居ても立っても居られないという心境から生まれた行動ではないか、と想像してみた。



 ご両親からお話を伺っている最中にそういう仮定を思い浮かべ、それからセッションに入った。
ご両親にはすぐ横にいて下さいと頼んだ。
そしてマッサージテーブルの上で彼の身体ができるだけ動かない程度に、あまり力を入れずにそっと手を当てて欲しいとお願いした。

まだ小さな子だったので、不安な気持ちにならないように、これから痛いことはしないし、お父さんお母さんも一緒にいるから安心して横になっていてね、と話しかけた。

話しかけながらまず身体のエネルギー状態をチェックした。
どんな遊びが好きなの?とか、好きな女の子は誰なの?とかいろいろおしゃべりをした。彼は何でも素直に答えてくれた。彼の中には明るくて人懐こいポジティブな性格がベースにある。それは生まれ持ってきたものであり、その一方、多動症というネガティヴな特徴は言わば後天的なもの、或いは表面的なもので、ベースにあるものとは明らかにギャップがある、という気がした。
このことはネットの情報にあるような、『生まれつきの行動や思考の特性であり、個性や性格に近いもの。』とはまったく異なる状態だと思う。



身体のエネルギーを調べると、頭の中にエネルギーが充満していることがすぐに分かった。そして身体全体のエネルギーの流れも滞っていた。
しかし首から下にはエネルギーのブロック(滞り)がどこにも存在していないこともわかった。ただ流れていないだけなのだ。

ということはもしかしたら、首に何かブロックがあるのかな、と考えた。

そして注意深く首の中を調べてみた。やはりそこに強いブロックがあるのが分かった。頸椎1番と後頭骨の間である。この部位はとても緊張が溜まりやすい。重たい頭を小さな首の骨で支えなければならないからだ。大人でもほとんどの人が緊張している部位でもある。
首に強い緊張があるために、頭の中にエネルギーが充満して、身体の方に循環して流れていかない状態だった。原因はもしかしたら出産時のトラウマかもしれないとも思ったが、そこまではご両親に尋ねることはしなかった。

セッションの方向性が決まったことで、その部位のエネルギーブロックを解放することを目指してワークを始めた。

じっとしていることができる限界となる1時間の間、主に首を中心に頭や背中、肩などを緩めていく。

よくじっとしていられたね、すごいじゃん!と褒めてあげてその日のセッションを終わりにした。

翌週続けて同じ内容のセッションをした。
かなり首の中に滞ったエネルギーは解放できたという実感があった。
それっきり、セッションの依頼は入ってこなかったし、ご両親からは何の連絡もなかった。


 それからしばらくして、私のセッションを紹介して頂いた方に会ったとき、あの男の子はどうしているのかと尋ねてみた。
すると、「あの2回のセッションの後、坊ちゃんはすっかり落ち着きを取り戻し、他の子供とまったく同じように普通に学校に行って、落ち着いて授業を受けることができるようになったとご両親がとても喜んでいましたよ」とのことだった。

もしも発達障害で苦しんでいるお子さんがいらっしゃるならば参考にして頂ければと思う。身体にある緊張を緩めることで、もしかしたら症状を劇的に改善できる可能性があるかもしれない。



 このケースは発達障害に限ったことではなく、ありとあらゆる心身相関的な症状についても改善できる可能性を示唆している。
実際に大人を対象とした私のヒーリングワークでは、身体のリラクゼーションを深めることによって劇的な心理面での変化が起こったということを多数経験した。

今日、日本の社会が直面する様々な「心の問題」は、幼児期におけるトラウマの影響が大人になってからも身体構造に残っていることから生まれているケースがかなり多いのではないかと思う。身体的な状態を見つめ、働きかけることによって心の状態を改善できる可能性は大いにある。

しかし日本においては西洋医学の治療法に依存する体質が社会全体に浸透し、人間性の探求の幅広い選択を遠ざけてしまっているように感じる。
私が行っていたヒーリングテクニックもヨーロッパでは保険適用の対象となったり、国家予算でセラピストを養成したりする国もあるが、日本ではマスコミの誹謗中傷の対象となったりもする位そのギャップが大きいということを海外に出てみるとよくわかる。



 私が通ったインドの施設で行われていた様々なヒーリングやセラピーの根底にある理念の一つには、「ヒーリングは身体から始める」ということがある。

肉体的な歪みやエネルギーの状態を改善することによって起こる精神的なヒーリング効果は、実際にそれが起こった後に「奇跡的」と言われたりする。
そうした可能性の探求は、社会が承認するのを待つよりも先に、個々人から始める以外にないということもまた事実なのである。

もし精神的な問題を強く抱え、そこからなかなか抜け出せないような状況にある場合には、何らかの方法で身体のリラクゼーションを深めることで突破口を見出す可能性がある。

それは個人にとっての希望であり、また周囲の人や社会にとっても希望となるものだと思う。



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