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風景

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身の回りにある様々な風景を撮った写真は撮影者ではなく、見る人の心を映し出す鏡。
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#北九州市

春を待つカルスト

 2月初旬、北九州市のカルスト台地「平尾台」では、毎春恒例の野焼きが行われた。野に燃え盛る炎を以前からずっと見たいと思っていたのだが、時すでに遅し。はたと気づいたのが当日夕方だった。 一週間後に訪れてみると、いつもはススキに覆われている山の斜面が、黒々とした剥き出しの地面へと様変わりし、膨大な数の岩石群を遠くまで見渡すことができた。 道端には早くも草の新芽が顔を出していた。一面新緑に覆われる日もそう遠くはないだろう。  平尾台は、愛媛県と高知県にまたがる「四国カルスト」

夏色輝く

(文1500字 写真60枚)  夏が来れば思い出すこの言葉。しかしこうも暑い毎日が続くと、心中の雑念を打ち払うことは叶わず、眩い夏色輝く風景の何処かに、この境地へ誘うような涼し気な静寂がないものかと、ついつい山水の地を彷徨ってしまう。  この有名な故事成語の語源は、詩人杜荀鶴の漢詩「安禅は必ずしも山水を須いず、心頭を滅却すれば火も自ら涼し」(安らかに座禅を組むために、必ずしも山水の地へ出かける必要ない。心中の雑念を打ち払えば火の中であっても涼しく感じる)。 この言葉を有

街中の森の春探し

 北九州市には森が多い。街や住宅地に隣接してすぐに原生林のような深い森が広がる公園がいくつもある。この足立公園の森もそのうちの一つ。標高600mほどの足立山の裾野に広がるエリアだ。新幹線停車駅の小倉駅周辺の繁華街からも3キロと離れていない。今まで名前は知っていたものの行ったことがなかったので、桜の開花に合わせて出かけてみた。 *** 今では美しい自然環境が多く残る北九州市だが、かつて高度経済成長期において深刻な公害問題に直面したという過去がある。この時にまず立ち上がったの

森の囁きは聴こえず

 北九州市の中央部、小倉北区から戸畑区、八幡東区にまたがる丘陵地帯に、街中とは思えないほどの深い森が広がっている。 それらは「到津の森」「中央公園」「金比羅山」「高見の森」そして「美術の森」の5ヶ所の森がひと続きとなっている。いずれも遊歩道で繋がっており、すべてを一通り歩くと2時間以上かかる。 「到津の森」には動物園と遊具施設。 「中央公園」はきちんと整備された公園らしい公園。 「金比羅山」は頂上に神社がある標高125メートルの小高い丘で、らせん状の歩道もしくは350段ほど

洞海湾を渡る3分間の船旅

 北九州市北部、若松区と戸畑区は関門海峡に通ずる洞海湾によって隔てられている。この湾を横断する主要な交通路は、国の重要文化財でもある「若戸大橋」とそのすぐ横にある「若戸トンネル」の二つ。 そしてもう一つ「若戸渡船」は今も地域の「足」として欠かせない交通手段だ。毎日朝から晩まで10~20分間隔で運行されている。特に朝夕の通勤通学の時間帯は、自転車に乗った乗客などで混み合う。船を降りてから近くの駅まで行くのに便利だからだろう。 「渡し舟」という言葉には妙に懐かしい響きがある。と

野の道辺

(写真40枚)  野の道辺に降り注ぐ光が眩しい。 今は秋分と冬至のちょうど中間あたり。太陽の軌道は低くなり、明るい斜光がススキの穂を輝くシルエットで包みこむ。 野の草花たちは内に残る最後の色彩を解き放ち、今年の命の営みを終えようとしている。枯れ果てることに、戸惑いも躊躇いも怖れもなく、大地に帰るその時をただ静かに待っているようにすら見える。夏の日の、あれほど激しかった嵐を耐え抜いた強靭さも、散り際は呆気なく手放してしまう。 夏の日々を十二分に堪能し尽くした安堵。 種や

関門海峡から皆既月食を見た

今日は特別な天体イベントの夜。 442年ぶりに皆既月食と月の背後に天王星が隠れる天王星食が同時に起こった。 昨年北九州に移り住んで以来、ずっと関門海峡を照らす満月の写真を撮りたいと思っていたので、今日はちょうどいい機会となった。 到着が少し遅れて月の出時刻には間に合わず、イメージしていたようには撮れなかったが、一応何とか関門海峡に写る月の光をフレーム内に収めることはできた。またいつか再チャレンジしたい。 日本中どこからでも今夜の天体イベントは見ることができたようだが、中には見

中空の竹

(文3400字 写真40枚) 竹の里  北九州市小倉南区合馬は日本有数のタケノコの産地である。見渡す限り竹林の山が緩やかな斜面に続く。先日訪れたときには麓の田んぼのあぜ道に彼岸花が一斉に咲き始めた。 開花に合わせるように稲刈りも始まっていた。米の収量は前年に比べると全国的にやや減少という予想らしい。ここ合馬では先日の台風襲来でも強風に倒れることなく、黄色い稲穂がきれいに揃って収穫の時を待っていた。稲刈り後の田にはシラサギが舞い降りて秋の味覚を探していた。 日本の田園風

カルストは秋の風Ⅱ 3億4千万年続く大地の歌           

(9月3日投稿カルストは秋の風Ⅰ悠久の叙事詩|燿(hikari)|note続編  未投稿写真33枚) Hariprasad Chaurasia and Amareesh Leib Now

カルストは秋の風Ⅰ            悠久の叙事詩

 季節が変わる前にもう一度平尾台を見ておきたい そう思ったのは1ヶ月前に来た時は小雨交じりの曇天で 壮大な風景を見ることはできなかったからだ この日は清々しい晴天 遥か遠くの山並みまで見渡せる 暑い日差しは消え白雲が流れる空は高く爽やかな風が頬を撫でる 季節は早くも秋が始まっていた ピナクルと呼ばれる岩々を一面緑のすすき野が覆っている しかしよく見ると所々すすきの穂がもう出始めている 葉も幾分黄色味がかっているように見えた 道端には秋の野草がひっそりと咲いている 所々樹々

小倉城界隈の夕暮れ散歩

北九州市の中心街といえば小倉。 小倉駅前には大型商業施設から細い路地に密集して連なる商店街もあり、いつも活気に満ちている。 また駅から徒歩10分の所には、小倉城を中心とした自然豊かな勝山公園、紫川、そしてリバーウォーク北九州という文化商業施設によって構成されるエリアがある。 観光客や市民の憩いの場だ。 夏の夕暮れ時に1時間ほどのんびり散策。 庭園の静けさや川面に渡る清涼な風が、暑かった一日を忘れさせてくれる。

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大正の名残

北九州に移り住んで

 福岡県北九州市に移り住んで3か月。noteを始めてからもちょうど3カ月が経った。新しい生活と新しいチャレンジが平行して進んでいる。 当初の計画ではこの夏に滋賀での仕事を終えた後、東京の実家に戻る予定だった。ところが引っ越しの段取りを決めるタイミングに合わせて、いくつかの事情が一度に目の前に現れ、急遽正反対の九州へ転居することになった。 この歳にして見ず知らずの土地で新たなスタートを切ることになった。しかし出会うものすべてが新鮮。人生60歳から第二の青春と言うそうだが、もうす