『EMOTION』MV考察&鑑賞
はじめまして! でつと申します。
この記事では、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2期7話の『EMOTION』のMVについて、なるべく本編から得られる情報のみで考察および鑑賞をしたいと思います。
といっても僕は別に芸術批評の適性があるわけではないので、まああんまり星座とかマジックナンバーとかに手を出さないよう気をつけとるよ~くらいのものです。
映像内で象徴的に使われている色やモチーフについて、適宜本編ストーリーや既存曲の歌詞などを参照しながら考察し、MV全体としてのテーマに迫っていきます。
よろしければお付き合い下さい。
青と翡翠の対応
このMVでは青と翡翠が対比された色として複数回出てきます。
例えば薫子のリボンには青い蝶がいて、
サビでは翡翠の蝶が舞うのが印象的です。
蝶にかぎらず、羽や天球儀にもこのような対応があると考えて良さそうです。
ということで、青色は薫子を、翡翠色は栞子を象徴しているものだとしましょう、と言いたいところなのですが……
よくよく考えると、青色と薫子が完全に一対一で対応していると言い切るのはやや難しいのです。
さきほど、薫子のリボンにある蝶は青色だと言いましたが、ここで本編から同じ衣装を着た薫子を見てみましょう。
ケチがついても文句が言えないくらいには微妙な色です。
翡翠とまでは言えませんが、やや緑がかった色をしているようにも思えます。
そもそもこの服、ロリ栞子が着ていた服と同じ色っぽいんですよね。
そして極めつけに、作中にはもっと青いものが出てきます。
実行委員会として働く栞子は青い法被を着ていますし、薫子のリボンがもっと青いこともあります。
青と翡翠の対と、薫子と栞子の対は、必ずしも上手くハマるわけではなさそうです。
では何と対応するのか?
少なくとも上の2つの画像にある、青らしい青を身に着けている者たちには、ある共通点があります。
それは誰かを応援しているという点です。
例えば薫子はこのシーンで、以下のような発言をしています:
そしてこの話数で青い法被を着ている者たちの役割は、スクールアイドルフェスティバルを支える縁の下の力持ちです。
まあこの人もなんだかんだ仕事はやってるでしょ多分…………
それに推し事とも言いますしね。良いってことで。
そしてこれは、栞子の立場や思想とも一致しています。
一方、翡翠色は本編にはほぼ出てきていないのですが、ロリ栞子がスクールアイドルの練習をしていると思われる回想シーンで唯一はっきりと翡翠色が確認できます。
翡翠色が使われているのはこのシーンと、本編の問題が解決したMV以降のみです。
それぞれのシーンの意味に鑑みると、翡翠が象徴しているのは、ダイスキやトキメキといったものだと考えられます。
以上を踏まえ本稿では、青と翡翠を、応援とトキメキに対応付けて議論します。
メタファー読解
さて、このような立場に立ったとき、MV内で青と翡翠の対立がある物がどのように理解されるかを見ていきます。
まず、本稿が一番初めに青と翡翠の対比として取り上げたのは蝶でした。
これに関しては本編との整合性が簡単に確認できます。
薫子はこのMVが流れる直前に、栞子を応援できる人になりたいと言い、それを受けて栞子が自身の中に眠るトキメキに素直になった結果、ステージに上がるに至ったのでした。
リボンに青い蝶を宿した薫子が栞子を励まし、栞子がサビで感情豊かに踊るとき翡翠の蝶が舞うというのは、この辺りの流れを視覚的に表現したものだと言えるでしょう。
何よりこれが他ならぬ蝶だというのが、既存ファンをうならせるところです。
『決意の光』において蝶とは、さながらバタフライエフェクトのごとく、自身の小さな一振りの羽ばたきが他の誰かの励みになる、そんな願いを託されたものとして描かれています。
このことを踏まえると、MVの蝶もより一層深みを増して感じられます。
薫子の蝶は実の妹に対してまさにその役目を果たし、そして栞子の蝶もまた、やがて誰かの背中を押す。
そんなことを想起させる美しいメタファーです。
栞子は作中で、せつ菜から提案された「応援とトキメキの両立」を一度諦めていますが、これからの展開でそれも成し遂げてしまうのかもな、と期待せざるを得ません。
また、羽についても基本的には同様な考察が成り立ちます。
栞代わりの青い羽に導かれるように本をめくると、蝶を象った鍵を見つける、というシーン。
鍵なんかご丁寧に緑の…………おそらく布に埋まってます。
栞というものの機能、このMV全体に渡って描写される止まった時間が動き出す演出、そしてこの鍵が止まった時計を動かしたことから考えるに、これは遠い記憶の中にあるトキメキなのでしょう。
とすると、羽はやはり薫子を指すことになります。
『翠いカナリア』の歌詞から考えるならば、これは「自由の羽」です。
「栞子を励ましたい」から始まったスクールアイドル活動が、応援であるとともに自由であり、栞子にトキメキを与えていた。
誰もが幸せになれる世界を願う心優しい栞子にとって、これほど救いになる励みはありません。
それが栞子の自由の羽を羽ばたかせるのに十分なものであったことは、MVの終わりに映る翡翠の羽からわかるというわけです。
問題は天球儀です。
上記2つの例はどちらも、時系列的には青から翡翠への変化であると見なせました。
これは本編の栞子の心情の流れと一致しており、解釈にさほど困りません。
しかし、ステージ中央付近の光る天球儀は翡翠から青に変化するのです。
色の変化が逆であることに加え、天球儀は既存の栞子曲から引っ張ってきたモチーフというわけでもありません。
これまでとは少し違った視点での考察が必要になります。
逆行する天球儀
さて、まず先に述べた天球儀の色の変化が、サビ突入と同時に起こったということは明らかです。
そしてこのタイミングでは、他にも様々な変化が起こっています。
例えば画面全体の明度や彩度が一気に上がりますし、栞子の表情が明るくなるのもここからです。
マジでここらへんの表情目まぐるしく変わるくせに全部クッソかわいくてスペースキー連打止まらん人になっちゃった。
さておき、MVではこの劇的な変化を、中央から放射状に広がるように描いています。
翡翠の蝶が舞い始めるところからも考えて、これは自分の感情を解き放ったということの直接的な表現と判断してよいでしょう。
だとすると、それまで翡翠色であった天球儀は、トキメキをその内に秘めていたものだと考えることが可能です。
ここで、天球儀が指すものについてのさらなるヒントとなるのが、もう一つの天球儀です。
本MVには、これまで見てきたステージ上の舞台装置としての天球儀の他にもう一つ、イメージシーンで出てくる小道具としての天球儀が出てきました。
この天球儀の役割を、いま一度MVの流れの中から読み解いていきます。
回転する天球儀
冒頭、栞子は浮かない顔で図書館を歩いています。
前章にて、青い羽に導かれて見つけた鍵は、遠い記憶の中のトキメキを指していると述べました。
であればこの場所はさしずめ記憶の海といったところで、あちらこちらへと視線を向かわせながらさまよう栞子の姿は、諦めたはずのスクールアイドルへの未練を感じさせます。
そして栞子は、奥まった場所で薄暗い階段にたどり着きます。
そこにいたのは、じっと天球儀を見つめる栞子でした。
どうやら天球儀は心の奥底にあったもののようです。
そして栞子のある部分が、強い執着を持っているものでもあります。
また、天球儀の色にも注目したいところです。
ステージ上の天球儀と違って、この天球儀はMV中ずっとこの青色です。
それも青らしい青ではなく、薫子のリボンの蝶や衣装の色と同じく、緑がかった青・水色といった方が近い青です。
ここで改めて振り返ってみると、本編ストーリー中にこの色が出てくるのは、回想シーンのみであることに気が付きます。
それも、使われているのは薫子のステージ衣装と、観客席にいる栞子の洋服に限られます。
翡翠と青の組が示すように、このときの二人の関係はまさに応援とトキメキが混然一体となったものでした。
小道具としての天球儀には、このような幸せな関係が秘められているのだと思います。
このあと目を閉じる栞子のカットが挿入され、天球儀が回された刹那、画面が暗転します。
まず、目を閉じた栞子は、直前のシーンの光の当たり方から考えて、天球儀に触れている方の栞子と判断するのが妥当です。
その栞子が、意を決したように天球儀を回すわけです。
直後、暗転から紫が怪しく光る場所に飛び、青い羽を目にするのですから、この回転は、秘めた過去への再対峙が表現されたものだと考えられます。
時計のねじ巻き然り、このMVでは止まった時間を動かすことが、回転で表されています。
ねじ巻きは止まった時間を進める役割を担っていましたが、こちらは戻す方を表現しています。
ここまでで、天球儀の色というのは心のどこかに秘められたものを指すということと、それが翡翠であったときおよび水色であったときの説明をしました。
最後に、ステージ上の天球儀が青色になったことについての解釈を試みます。
回帰する天球儀
本記事の立場では青は応援を指すわけですから、これまでの議論から順当に敷衍すれば、青の天球儀は応援が秘められた状態を表していることになります。
このことについて、より詳しく説明しようと思います。
先に述べたように、本MVはサビ突入とともに色彩を劇的に変化させ、感情の開放を表現しています。
本編において栞子が秘めていたトキメキは翡翠の天球儀で表され、これからそのトキメキに素直になっていくことは翡翠の蝶で表されていました。
ところで、本編では栞子が自身のトキメキを抑えていたのと同時に、他者のトキメキを積極的に応援する姿勢が繰り返し描写されていました。
栞子自身は、同好会にそのような姿勢を取っていた自分について、以下のように述懐します。
しかしながら、これは過小評価と言わざるを得ません。
元々彼女はオープンキャンパスや文化祭の手伝いを通して、同好会のみならず、学園の生徒全体をサポートし続けていました。
そして、恐らくこれからもそうであり続ける、ということを暗示しているのが青の天球儀なのではないでしょうか。
フェスティバルが終わり同好会に所属した栞子が、これまで通りの形で生徒へのサポートを継続するかは、第7話放送終了時点現在ではまだ語られていません。
しかし、少なくともスクールアイドル活動という形ではきっとそうなるだろうということが、この回で間接的に語られています。
薫子がスクールアイドルを始めたのは、元々は栞子を励ますためでした。
それは功を奏し、栞子はすっかりスクールアイドルに惹かれていました。
その一方で薫子は、栞子に応援してもらえたからスクールアイドル活動を楽しめた、とも言っています。
応援もトキメキもごちゃ混ぜになっているこのような関係には、誰かが願いを叶えて誰かがサポートに回るという形での単純な線引きは不可能です。
そして現在もまた、薫子は栞子から応援してもらった分を今度は応援させてほしいと願っているのです。
加えて、同好会の想いもまたそれに相似しています。
「みんなの夢が叶う場所」を掲げるスクールアイドルフェスティバルは、アイドルだけでなく、参加者全員が輝けるようなお祭りを目指したものでした。
やはりこの場でもそれぞれの夢はごちゃ混ぜで、どちらかが一方的に与えるものではありません。
姉や同好会がそうであったように、栞子はこれからたくさんの応援に支えられ、またたくさんの応援をするのでしょう。
現段階では語られていなくても、それを秘めているのが青い天球儀です。
冒頭ポエム回収
栞子は「みんなのために」行動できる心優しい子です。
彼女なりに考えた結果、他者をサポートする道を選び、実際に成果を残しています。
しかし同好会が指摘したように、その「みんな」からは本人が漏れてしまっていました。
MVの終わり際、夢から醒めた栞子は、やわらかな木漏れ日の中に、モチーフとして使われた小道具たちを目にします。
今や彼女のトキメキは動き出しました。
果たしてその先に彼女の理想とする世界はあるのでしょうか?
きっとその指針となるであろう幸せな思い出とともに、自由の羽を羽ばたかせ飛んでいくのでしょう。
解釈というよりお題に沿ったポエムになってしまったところで、筆を置きたいと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
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