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両親へ 私は褒められて伸びる子なんです、

私の両親は厳しかった。
私はよく叱られて育った。本当によく叱られていた。特に父親がひどかった。理不尽なこともあった。物を投げつけられたこともあった。実は怒られたことの内容はあまり覚えていないけれども、物が当たったときの痛みや、恐怖心はよく覚えている。
同時に、私の両親は、私をあまり褒めなかった。
勉強はそれなりにできたから、褒めるタイミングくらいあったように思う。学年一位とか、市で何位とか、県で何位とか。高校も大学も全部合格した。嬉しそうにしている私を見ても、両親はただ薄っぺらい祝意を伝えただけだった。両親が両手をあげて喜ぶことはなかった。

ー姉のときは喜んでたけどねー

そしてまた、私が出来ないことを叱った。

18になり、進学のために私は家を出た。

家族の機嫌を伺うことなく過ごせるのは本当に気楽だった。部屋の壁は薄いけど、音を潜めて暮らす必要もなくなった。全く新しい環境で、中身はそのままで、私はなんとか生きていた。

唯一中身が変わったのは両親だ。

なぜか急に優しくなったのである。

あんなに叱っていたのに。私の自主性も、意見も、何もかも無視してきたくせに。今さら優しくしたって、私は変わらないのに。

「好きなようにしな」

と言って私に裁量を与えてくる。私は両親に気を遣って、両親が喜びそうなことを言う。たぶん両親は満足しているのではないだろうか。立派な息子だとは思われないだろうけど、従順だとは思っているかもしれない。家に突然やってきて家のものを勝手に全て掃除され、断捨離される。部屋が綺麗にされるほど、私の心はぐちゃぐちゃになる。笑顔でいるとすぐ終わるので、笑顔で頷いて終わり。

これもあと半年で終わる。

私の両親の子育ては、正解のうちの一つだろうと私は考えている。決して裕福な家庭でもない、有名な血筋でもない、普通の家族だったけど、兄弟みんな好きな道に進めた。(少なくとも私の兄弟は)成績もいいし、思いやりのあるよくできた人間だ。世間的に見れば本当にすごいと思う。

だけど、その中で育った私がこうなってしまった。

先日、私が地元に帰らないと決めたことを寂しがっていた。

今さら優しくしてもあんまりいいことないよ。

私は地元が好きだけど、親のいる地元には戻りたくない。

私はきっと、親のような子育てはしない。



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