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蟷螂を入れていた硝子瓶は、もともと蜂蜜の瓶だった。
金属の蓋にぶすぶすと五、六ケ所、直径5ミリ程の穴を空け、庭先で見つけた蟷螂を閉じ込めた。
ぱんぱんに膨れあがった腹は、真夜中に破裂し、無数の子ども達が孵化した。細部まで精密に出来た複製たち。
蟷螂の幼虫は全く大人と同じ形をしていた。無数の彼等は母親の腹を破り、つるつるして湾曲した壁面、透明な壁をよじ登り、天井の穴から次々と脱出し、寝ている僕の枕元にただ生きることだけを目的に拡散した。
目覚めた僕の本当に目の前に、ナノマシンたちは蠢いていた。理解するまで数秒。ぞくりと背筋に戦慄が走った。
飛び起きた僕は髪の毛をはらい、瓶の中の疲れ果てた死骸を見つけた。
その生涯の最高の目的を果たし、安らかに瓶の底に凭れかかった偉大なる母の姿を。
閉じるべき瞼も持たない、光を失った筈の瞳は、死してなお、僕を追いかけていた。


2023.6.21

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