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『THIS IS US』 シーズン4までの総評

家にいる時間が平時の数倍になった今、必然的に映画・ドラマを見る時間も増える。先日『THIS IS US』のシーズン2がAmazonプライム入りしたのがきっかけで、外に出られず息苦しいGWはほぼこのドラマに費やされ、一気にシーズン4まで見てしまった。


ファミリードラマという一見地味なジャンルながら、シーズン6まで既に確定させた長期シリーズへと成長できたのはひとえに脚本の巧さにあるだろう。

第1話のような、良い意味で視聴者を騙す仕組みはシーズン4になっても健在で(英語の記事を読むとtwist and turnといった表現を見かける)、今回は常に飽きさせないその物語の構成を主に書いてみたい。


※このnoteはシーズン2くらいまで見た方を想定しています。シーズン3以降の軽いあらすじ紹介はありますが、大きなネタバレはありません。


リモートで盛り上がるキャスト陣


横ではなく縦へと進む物語

製作総指揮を取るダン・フォーゲルマンはインタビュー記事で、『THIS IS US』の元となるプロットは映画向けだったと述べている。そしてドラマ用に書き直す際に、結末が明確に用意されていないTVシリーズの方が、方式として適していることに気付いた。

この物語の終わりは始まりに過ぎなかった、そして私がこのプロットで一番気に入っていたことは、登場人物達が物語を通じて幾度も進化していくことだった。

物語を通じて、ピアソン・ファミリーの新たな側面を見つけていく。このテーマは72話も数える現在でも、変わっていない。

しかし、そのスタイルを貫き通すのは実は難しい。新シーズンに向けて脚本を練る際、もっとも楽な方法は新しいキャラクターを用意することだろう。以下のような展開は、きっとどこかで見たことがあるはずだ。

1) 主人公らのアンチテーゼとなるような新キャラが登場する
2) 新キャラは主人公らと折が合わないトラブルメーカーで、大小様々な騒動の種になる
3) シーズン終盤になると新キャラがついに一線を越えた大事件を引き起こす
4) 事件は解決するが、その過程で新キャラは舞台から去る(引っ越したり死んだり)

そのうち飽きられて打ち切りになるのは間違いないが、理論的にはこれを繰り返しているだけで無限に話は作れる。

しかし、『THIS IS US』ではシーズン4を終えても、登場人物は極僅かしか増えていない。もちろん脇役にスポットライトが当たることはあるが、描写に時間を割いた人物は決して退場せず、ピアソン・ファミリーの一員になる。

物語に深みを出すために、キャラクターを増やす(=横に広げる)のではなく、ピアソン一家に焦点を絞り、時間をまたいで徹底的に掘り進めていく。


複数の時間軸をシンクロさせる難しさ

異なる時間を自由に行き交うという物語自体はさほど珍しいものではなく、小説でも『大統領の最後の恋』といった例がパッと思いつく。

ありふれていてもドラマであまり目にしないのは、撮影が長期に渡る映像媒体となってくると労力が倍増してくるからだろう。

メイクやセットのことを考えると、脚本の順番通りに撮影していたらコストも効率も悪い。過去の時代を描写するには今はもう使われていないような骨董品と化した小道具も用意しないといけない。

子役はあっという間に成長するから、時間も進めないと違和感が生まれてしまう(実際、シーズン4では子供ケヴィンの声変わりが始まって、少し声が低くなっている)。


ジャック・ピアソンからの卒業

そんな制約の中でも順風満帆そうだった『THIS IS US』だったが、一度だけ大きな変化を加えている。シーズン2まではジャック・ピアソンという存在が大きな役割を担っていた。家族を支えていた過去はもちろんのこと、死後である現在でも。

シーズン2はジャックの死という大きな空白をピアソン一家とともに再訪し、克服する旅だった。ケヴィンを始めとして家族の大半は、死後20年が経っても辛い記憶の清算ができておらず、心の傷を覆い隠し続けていた。彼らが再び自分たちの過去と向き合うのと同時に、視聴者もその瞬間へと誘われていった。

シーズン3でもサブストーリーとして、ベトナムというジャックの過去にあるもう一つの空白を探求していたが、後半からは遂に未来という新しい時間が加わり、3軸の物語に変貌を遂げた。

それまでは全てがジャック中心に周り続けていたが、少しずつ、違和感のない形でレベッカを始めとしたピアソン一家それぞれに新たな物語が与えられ始めていった。


過去・現在・未来の3軸

未来という時間が加わったことで、SFでもないのに私達は現在のピアソン一家がその後どうなっているのかを知ることになる。

創作の中でしか味わえない経験だが、未来を知ることで視聴者は断片的だが確定した情報を得ることができる。

そこには悲喜両面があり、痛みを伴う未来もあれば、現在辛い境遇のキャラクターにとっては、明るい未来が救いになっている。

そして、まだ未来に姿を見せないキャラクター達に私達はトラブルの匂いを感じてやきもきさせられる。

『THIS IS US』は、時空の空白を埋めるドラマだと定義していいかもしれない。現在と過去の間であっても、現在と未来の間であってもそれは変わらない。

未来軸の追加は大きな変化だが、ピアソン・ファミリーの新たな側面を見つけていくというこの作品のテーマは継続しており、シリーズの長期化という点と折り合いをつける上では最善手だったのではないだろうか。


終わりのない物語



リアルタイムな時系列になっている『THIS IS US』では、いつも通りなら第5シーズンが始まるのは作中で『2020年8月31日』になるが、COVID-19の影響はどのように表現されるのだろうか。パンデミックのことは無視して進めるのか、それともこれを利用して登場人物の誰かを消してしまうのか…。

72話を終えてもなお、私達視聴者はピアソン・ファミリーについて全てを知ったとは言えない。物語はシリーズが続くとともに深みを増していく。

シーズン4でも彼らについての謎は減るどころかむしろ増える一方だったので、シーズン5も無事大きな遅れがなく放映されることを期待して待つばかりだ。

【9/25追記】シーズン5に関する続報

シーズン5について新たなアップデートがあり、10月27日(現地時間)に初回の放送が決まったようだ。しかも、2時間スペシャルとのこと。

製作総指揮ダン・フォーゲルマンのtweetによると、『THIS IS US』の世界でもコロナのパンデミックは発生している。ただし、当初から予定されている物語の終わりや、あらすじには大きな変更はないそうだ。




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