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初めてのサーフィン(序章)

サーフショップのスレッショルドを越えてサーフィンの道具を一式揃える事は出来たのだが、サーフィンに行く事がこれまた一大事だ。本なんかも仕入れてサーフポイントの知識もそれなりに頭に入りつつはあったが、とにかくどこに行けばよいか定まらない。当時買った本がこれ。

サーフィン・ア・ゴー・ゴー国内版―全国520サーフ・スポットを完全カバー https://www.amazon.co.jp/dp/4895124088/ref=cm_sw_r_cp_api_i_VE1oEbP4RV7R0

読んでいるだけでなんだかそこにいったような気分にしてくれる本だ。要は、"るるぶ"とか"まっぷる"などの旅行ガイドブックのサーフィン版のようなもの。

HOW TO本で当時一番定評のあったこの本も買った。

ドジ井坂のサーフィング・クリニック―サーフィングを科学する〈基本編〉 https://www.amazon.co.jp/dp/4895123286/ref=cm_sw_r_cp_api_i_RW1oEb5VM2PMA

とてもわかりやすく解説してくれていて、波に乗る方法もとりあえず頭に入りつつあったが、やはり専門用語が頭にしっかり入ってこないし、そもそも水の上の感覚がわからないので、書いてある事が身体の動きとして咀嚼出来ない。例えば、"腰を入れて"という表現があったりするのだが、"腰を入れる"とは一体どういう原理でどういう動きなのかイメージが湧かない。今なら感覚としてはわかるけど、でもいまだにヒトに説明するのは難しいかもしれない。知り合いがいればなんとかなりそうなものだが、誰もサーファーの知り合いがいないので連れていってもらう事も手取り足取り教えてもらう事も期待薄だ。今ならYouTubeで動画とともに豊富な情報が蔓延しているが、とにかく当時は情報が無かった。

そんなこんなを周りの友人に話していると、世の中は割とうまく出来ているもので、知り合いでサーフィンをやっている奴がいるから紹介してやるという友人が現れた。そのサーファーは同じ会社の同じ事業所で似たような仕事をしていたので、意外にも近い場所に解はあったという事になる。さっそく紹介してもらうと、僕より数年後輩で、自分も一年くらい前に始めたばかりだと言う"いとやん"は、言葉少なめだが凄く好感の持てる青年で仲良くなれそうだなと思った。さっそく週末一緒に海に行く約束をした。

もともと生の情報が何も無い僕なので、初回はいとやんに完全お任せのつもりだった。クルマも彼のクルマに便乗で場所もお任せ、着いたら手取り足取り教えてもらう魂胆だったが、世の中はそんなに甘くなかった。いとやんのお父さんがその週末あたりに急逝したのだ。実父を失うという大きな悲しみを本来はもっと共有してあげるべきだったといまだに後悔しているが、当時の僕にとっては人生を変える瞬間になるはずの日が遠のく事を意味して途方に暮れたのを今でも覚えている。とにかくその週末はどうしても海でデビューしたかったので、どこに行くつもりだったのか、どうやって行くのかを悲しみにくれるいとやんに問い詰めた。場所は伊勢の国府の浜というビーチだと教えてくれたが、行き方は地図で調べて近くまで行けばサーフボードをキャリアに乗せたクルマがみな同じ方向に向かっているのでそれらのクルマについていけば到着するという、あまりにもいい加減な答えだった。お父さんを亡くした悲しみの真っ只中でそんな細かい説明をする気分には当然なれなかっただろう。とにかくそんな断片的な話を手がかりに、僕は単独でサーフィンデビューを果たす事になった。


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