大泥棒の夏休み
「じいちゃんな、大泥棒やねんぞ」
小学生の頃、夏休みは決まってじいちゃんちで過ごしていた。
「困りよったときは、ワシがなんでも盗んで助けちゃるけぇの」
それが、じいちゃんの口癖だった。
とんでもない話だとは思うけど、引っ込み思案だったボクに対するじいちゃんなりの励ましだったのだと思う。
大学の夏休みを利用して久しぶりに帰省したボクは、じいちゃんちの片付けを言いつけられて久しぶりに足を踏み入れたた居間を見渡しながら、そんなことを思い出していた。
と、壁にかかった振り子時計を見て、また記憶が蘇ってくる。
「秘密のルールちゅうやつを決めとこうやないか」
ほんとに助けてくれる? と聞き返したとき、確かこう言っていたはず。
「大泥棒は、なんも言われんでも困っとるときはわかるでな。そんときは、この時計の振り子の裏を見たらええ」
手探りの指先に、何かが触れる。
セロテープで止めてあったそれ剥がすと、メモのようだった。
クセのある字。間違いない、じいちゃんの字だった。
じいちゃんは、一足先に夏休みを満喫してくる。
冥土の土産に、ワシがおらんで寂しがっとる気持ちをもらっていくでな。
次はお前が大泥棒になって、みんなを助けてやる番やぞ。
――先代・大泥棒より
「……なんか、とんでもないもん襲名しちゃったなぁ」
そう呟きながら、ボクは心が軽くなったのを感じていた。
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