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中止か延期で、もはや「厄介五輪」へ

日本の選択はさらに狭まりつつある

 前項を書いた2月26日から約2週間が過ぎたが、安倍首相による大規模集会などへの自粛要請は、3月9日からさらに10日間延長された。この間、国内の感染者は増え続け、3月末での収束の可能性は完全に消え去った。東京五輪の開催可能性は、時間の経過とともに、さらに厳しくなっている。      すでに3月も中旬に差し掛かっているが、日本国内の感染者数は増え続けており、国内の学校休校やイベント休止要請も、いつ終わるか分からない。そして、2月末の時点よりもイタリアやアメリカでの感染者が爆発的に増えており、3月12日現在で、WHOは全世界でのパンデミックを宣言。米国のトランプ大統領は英国を除く全欧州からの入国禁止と、米国全土に非常事態を宣言した。さらにヨーロッパでも、イタリアやスペインなどが相次いで非常事態を宣言している。

そのまま開催出来るのか?   

 WHOのパンデミック宣言により、五輪開催の可能性は一層厳しくなったと言える。IOCは今月4日の理事会で、WHOがパンデミック宣言していないことを開催の論拠にしていたのに、その前提が完全に崩れたからだ。   仮に5月の時点で日本国内の感染が終息していたとしても(私は終息するとは思わないが)、観客や選手を送り込んでくる他国がどうなっているか分からない。五輪には約200の国と地域が参加するが、開催時に感染が続く国の観光客の入国を拒否したり、隔離するのは大変な作業になる。さらに、入国した観光客の健康管理は、事実上不可能だ。                また、選手団を派遣できる国とできない国が発生することが予想される。メダル大国である中国や、米国ですら現時点では選手団が無事派遣されるか分からない。イタリアやフランスなどの欧州勢も不明である。また、仮に選手が来たとしても、2万人にも及ぶ選手や関係者の健康管理も難題となる。もし選手村で感染者が出た場合、選手村を閉鎖すれば競技続行も難しくなる。つまり、そのまま開催するという選択肢は現時点でほぼ消滅しているのだ。

無観客試合で開催?

 上記の難題からIOC内部では、無観客での開催も検討されているという。とりあえず実施できさえすればIOCの面子は立つし、最大スポンサーの米テレビ局も放映は出来、集めたCM放映料を無駄にせずに済むと思惑だが、そもそも無観客にしなければならないような状況で、選手団だけがきちんと来日できるのかという懸念が立ちはだかる。                 前述したとおり、2万人にも及ぶ選手団と関係者の健康チェックが容易ではなく、もし感染者が出れば試合そのものが中止になってしまうからだ。大会中にそのような事態になったら大混乱だし、有力な選手が参加できず、参加可能な選手だけでの試合になれば、最高の舞台であるはずの五輪の価値はなくなってしまう。ゆえに、この選択肢も厳しいと考える。

では中止なのか?  

 五輪は過去に3回中止になったことがあるが、いずれも戦時下であり、戦後は1980年のモスクワ五輪のように西側諸国がボイコットした例はあるが、大会そのものがが中止になったことはない。IOCにとって、五輪実施は米国のNBCから収入の約8割と言われる巨額の放映権料(2013~16年で41億5700万ドル=約4573億円相当)が入る最重要案件で、中止にすればそれが全部パーになるのだから、延期はともかく中止という選択肢はないだろう。                               また、ここで中止という前例を作ると、今後五輪開催に手を上げる国がリスクを恐れてさらに減少するだろうから、先々を考えれば、中止は絶対に避けたいはずだ。さらに中止にすれば、7000億円以上と見込まれる損害が出ると予想される日本は、今後もう二度と開催に手を上げることはなくなるだろう。アジアでのマーケティングを考えても、中止という選択肢は限りなく低いと考える。

延期ならばいつなのか? 

 以上からみて、中止という最悪の選択を避けるためには延期しかないのだが、ではそれはいつになるのか。中止よりはマシとは言っても、新たに莫大な経費が発生するのは目に見えているのだ。                まずは人件費だ。現在の組織委を形成している各省庁や企業からの出向者、既に雇用してしまった派遣やアルバイトたちの人件費が重くのしかかる。また、11万人以上のボランティアも、大半は再募集しなければならなくだろう。さらに、東京ビッグサイトをはじめ、メディアセンターや資材置き場として借用していた都内各所の施設についても、一度リリースして再借用するのか。さらに、新国立競技場をはじめ、完成している五輪用施設の運用をどうするかなど、様々な問題が待ち受けている。一口に延期と言っても、結局は莫大な追加予算が必要になるのだ。                 まず今年の秋だが、これはもはや周知の通り、米国のスポーツシーズンと重なるからNBCがOKするはずがなく、最も考えにくい。そもそも五輪の酷暑開催はこの米国のスポーツシーズンとの重なりを避けるためのものなので、その選択肢は最初からないと考えられる。さらにいえば、秋にしたところで、現在のコロナ肺炎禍が収まっている保証は無い。           そうなると、現段階で私が最も可能性が高いと考えるのは、一年延期である。二年延期の声もあるが、その場合、前述した人件費や施設負担が二倍になり、国民の批判に耐えられないだろう。さらに、次の2024年パリ五輪との間隔が2年と極端に短くなるし、北京冬季五輪とサッカーワールドカップと同じ年の実施は、PRが分散してマーケティング的に大きなマイナスだ。    来年夏は米国の世界陸上と重なるとの危惧があるが、陸上は五輪と重なる競技が殆どであり、五輪が吸収すれば何の問題も無い。その辺りは緊急事態として、IOCが調整すればいいだろう。              

復興五輪から「厄介五輪」へ

 以上、今考えられる様々な条件を勘案して、私の予想を書いてみた。中止にすればその瞬間に今までの投資が全て無駄になり、日本経済に最悪な打撃となるが、延期にしたとしても一時的に株価は暴落し、さらなる財政支出と様々な難題の発生は避けられない。つまり、どちらをとっても、もはや茨道なのだ。東京五輪はすでに恐るべき厄介物、すなわち「厄介五輪」となりつつある。  

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