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オンラインシンポジウム「郊外住宅地再生フォーラム2020」開催記録1 〜上郷ネオポリス・実践

2020年6月6日、郊外未来デザインラボでは「郊外住宅地再生フォーラム2020」を開催しました。ここでは、その報告として、フォーラム前半の事例報告の内容を紹介します。後半のディスカッションについては、2021年7月に発行予定のプロジェクトレポートに掲載しています。全体概要についての記事はコチラ

事例報告①上郷ネオポリス
<実践(大和ハウス工業株式会社 瓜坂和昭)>

 

地区の概要

 上郷ネオポリスの取り組みということで、これまでの取り組み内容と今後の進め方の説明をさせていただきます。大和ハウス工業は1962年から全国に61箇所の大規模戸建住宅団地「ネオポリス」を開発してまいりました。上郷ネオポリスは横浜市栄区にありますが、栄区は横浜市18区の中で高齢化率がNo.1の区です。東京から40kmくらい離れたところで、最寄り駅であるJR根岸線の港南台駅、大船駅と京浜急行の金沢八景駅を含む、これら3駅の三角形の真ん中あたりにあります。車があれば、鎌倉や金沢八景までは10〜15分ほどの立地です。

取り組みの経緯


 地区の人口としては、約2,000名の方がお住まいになられていまして、総戸数868戸、高齢化率は50%を超えております。これまで産官学民の体制づくりということで、6年以上前に初めて上郷へお伺いしました。引渡後の戸建住宅個別に関してはメンテナンス、アフターメンテナンスをもちろんさせていただいてはいましたが、まちをどのようにしていくのかという“まちづくりという意味でのアフターメンテナンス”は殆どやっておらず、最初に上郷ネオポリスへ行った時は、お住まいの方から「何をしに来たんだろう」という状況から始まりました。その後、人間関係を再構築していきながら、2016年には住民、自治会との間でまちづくりの協定を締結せていただき、2019年には今回の東京大学との関係性を構築し、今年の1月には横浜市とまちづくりに関する協定を締結させていただきました。このように現在では産官学民の体制が構築できてきています。
 特に注力したのが住民の方たちとの関係構築です。これがやはり主であるということで、ほぼ毎月1回のペースでまちづくり協議会を、当社がハブとなり継続的に開催してまいりました。
  コンセプトは「健康で生きがいを感じながら安心して住み続けられるまちづくり」で、ネオポリスを夢の続きを見ることができるまちに再耕(さいこう)するということ。昭和40年代は夢のマイホームということで、家を持つことが夢だった。今回はその先です。夢のマイホームで、いよいよその方たちが高齢期に入ったと。ではその先どういう夢を見ることができるのかということを我々も一緒になりながら、住民の方たちと共に夢の続きを見ていきたいと考えています。
 基本戦略は、今回の新型コロナウイルス感染症もそうですが、やはり環境問題が世界レベルでの大きな問題ということで、SDGsの理念のもとタウンマネジメントをしながら郊外住宅団地の再耕をしていきたい。つくるだけではなくて、このまちをいかに育てていくかが最大の課題です。住民の方たちが自ら主役となって取り組んでいただくことを、我々がサポートするというスタンスで今後も進めていきたいと思います。

野七里テラス

 全体のイメージですが、弊社がプロデュースし、プラットフォームとなって、様々なサービスを住民の方たちに提供しています。第1弾として昨年の10月末に、コミュニティ拠点「野七里(のしちり)テラス」を上郷ネオポリスの中につくらせていただきました。これはローソンのコンビニエンスストアと、皆さんがお集まりいただけるような、いわゆるコミュニティスペースを併設した建物です。オープン時には大雨が降りましたが、待ち望んでいた施設だけに、多くの方が駆けつけてくれました。オープン後は色々なイベントを行い、皆さんにとって本当に憩いの場として活用されております。お住まいの方が孤立しないように、できるだけ多くの方が集い話ができるようにとの要望に基づいて建築した施設です。併せて、移動販売も実施しています。ネオポリスといっても端から端まで1km以上ありますから、こうした移動販売をまちの中で5箇所、住民の方のご協力のもと、駐車場をお借りして展開しています。
 この事業に関しましては、国交省のスマートウェルネス住宅等推進モデル事業に取り上げていただいて、これをやることで高齢者の働き方モデル、採算モデルを検証しようと、さらに情報の集積拠点としての検証もしようということで採択いただきました。実際この施設の運営は、ローソンの従業員も、それからそれをサポートするボランティアも、全て住民の方にやっていただいています。ボランティアの方には、ユニフォームジャンパーやシャツをご用意し、着用していただいています。ボランティアとして参加していただいていますので、無償ですが謝礼として1時間のボランティアで1枚、地域通貨をお渡ししています。これがこのテラスのローソンのみで使える地域通貨で、1枚で100円の価値があるという形で皆さんに使っていただいています。
 「和(なごみ)テラス」は、今回野七里テラスの東側の店舗を改修して、情報集積拠点として我々が常駐している拠点です。
 新型コロナウイルス感染症以降、現在、野七里テラスのコミュニティスペース部分は閉鎖しております。さらに、例年であれば7月に実施していた恒例の夏祭りも中止になりました。月に1回行っていたまちづくり協議会も休止状態です。

新型コロナウイルス対策


 新型コロナウイルス感染症対策として、住民の方とはリモートで、パーソナルロボット等を現地の自治会館において定例会を実施しています。皆さん、慣れるのが早く、遠隔での会議もそんなに滞ることなく進めることができております。
 移動販売に関しても、5箇所の定期巡回に加えて、上郷ネオポリス内には大きな公園が4箇所ございますが、その公園を使わせてもらいたいということで横浜市に要請をしまして、許可をおろしていただきました。今月からその公園も販売場所にしようと思っております。と言いますのは、やはりこの新型コロナウイルス感染症の影響で、より移動販売の価値が見直されておりまして、利用者が非常に増えているということ、隣町からも来て欲しいという要請がありました。店舗の今後の運営の仕方というものも、かなりこれは変わるのであろうなと考えております。
 先ほど申し上げたように、野七里テラスは集いの場として建築しましたが、新型コロナウイルス感染症対策としてネット環境を整備し三密を避けなければいけません。その取り組みとしまして、今ローソンの店舗との連携を考えています。どこの店舗でもそうですけれど、要は賞味期限というものがあって、1分でも過ぎると全部廃棄処分です。それもやはり、SDGsの食品ロスをなくそうということにも合致しますので、お昼過ぎに大体これが残るのではないかということを予想し、ネットワークを通じて住民の方へお知らせをする。決して期限の切れたものを売るというのではなく、今日これが残るであろうというものを、お弁当買いませんかというメッセージを住民の方のグループに流すと。それを通じて、買いますよっていう方に関しましてはご自宅までそのお弁当を届けてあげようじゃないかというネットワークをつくろうと思っております。

今後の展開


 そのほかにも色々な取り組みを計画しています。空き家を使いながら戸建住宅をサービス付き高齢者向け住宅として登録していく取り組みを考えています。さらに、中古住宅をリノベーションして、賃貸にして、若い方たちもお住まいいただけるというような形も取れるのではないかと。
 郊外も今見直されてきておりますけれども、空き家を改修して食堂をつくったり、地方のいわゆる特産品を、全国の美味しいものを取り寄せて、それをお店で販売するということもできるのではないかと思っております。その店の運営も、住民の方たちにやってもらえるのではないか。またバーチャルのお店をつくって、ここへ来られない方は家でお弁当を食べていただいて、あたかもこの店で食べているような感覚を得てもらうというようなこともこの際だからできるのではないかと思っております。
 さらに、我々大和ハウス工業としても電気を供給できますので、その電気に切り替えていただくことにより、買取料金と電気料金とに差額が生まれます。その差額を個人の利益にするのではなくて、集めて、まちのインフラを整えていくということもできないかと。これもエネルギーという意味ではSDGsの取り組みの一環です。
 先ほどもお話がありましたが、おそらく郊外住宅団地が見直されるであろうと。自然があり、三密にもならない。今まではリアルだけだったものが、リアルとバーチャルとを組み合わせることにより、リアルの時よりもさらに繋がれる。さらに孤独にならないことがこの後あるだろうと思っております。