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オンラインシンポジウム「郊外住宅地再生フォーラム2020」開催記録2 〜上郷ネオポリス・研究

2020年6月6日、郊外未来デザインラボでは「郊外住宅地再生フォーラム2020」を開催しました。ここでは、その報告として、フォーラム前半の事例報告の内容を紹介します。後半のディスカッションについては、2021年7月に発行予定のプロジェクトレポートに掲載しています。全体概要についての記事はコチラ

事例報告①上郷ネオポリス
<研究(三井不動産株式会社 秋月優里(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 2020年3月修了)>

研究の背景

 私は大学院で移動型サービスをテーマに研究を行なっておりました。今回はその中から上郷ネオポリスの事例調査についてご紹介させて頂ければと思います。
 調査内容の紹介に入る前に、私が移動販売に興味を持ったきっかけですが、e-Paletteのような新しい技術を導入した移動サービスと既存の様々な地域で個別に行われてる移動販売の間にギャップを感じたということが挙げられます。そこで、移動販売の停留所に着目いたしまして、 今後新しい移動型サービスを導入していくときに、どういったことが考えられるか、特に都市部と郊外部におけるケーススタディを行いながら考えていきました。

調査概要


 では、上郷ネオポリスの調査について紹介したいと思います。大きく3つのことについて、大和ハウスや住民の皆様にご協力いただきながら調査を進めてまいりました。
 1つ目、移動販売の事業概要と経緯についてヒアリングをもとに整理しました。こちらは先程瓜坂様からもご紹介頂きましたので簡単にご説明したいと思います。こちらの地図は私が調査した時点での移動販売の5箇所停留所です。移動販売の運営はローソンが行なっているんですけれども、実際には住民のボランティアスタッフの方が同行されていて、利用者の方に声かけをされていたりだとか、荷物を代わりに持ったりというサポートをされています。団地内そんなに広いわけではないので、ボランティアは徒歩で移動しながらサポートを行っています。2つ目に、5箇所の停留所でどういった移動販売が行われていたかを実際に移動販売車に同行して調査しました。結果がこちらの表になります。特に特徴的だった停留所4番と5番についてこれからご紹介します。停留所4は、住民の家の前の元々駐車場だったスペースに移動販売車を停車しているのですが、家主の方がご高齢になられて車を処分されたということで、空いてるからここ使えるよという感じで場所をご提供頂いております。家主の方は社交的な性格なのですが、足を悪くされて外出が難しいので移動販売によって人が集まってきて一緒に話をしたり、ご自身も買い物ができるということをとても楽しみにされていました。次に停留所5ですが、角地にあるお宅の前の駐車場の空きスペースに停車させて頂いておりまして、角地なのですごく見晴らしが良くて、利用者も多いところなので、移動販売が来て、人が賑わっている様子がとても分かりやすいような停留所になっています。住民の方が連れ立って一緒に来て、 立ち話とかもよくされていたのですが、その際、交差点部分にもはみ出してお話をされていて、この交差点が広場的な役割を担っていると感じました。このように5箇所の停留所それぞれが、住民の方の場所の提供によって成り立っているんですが、3つ目の調査として、どうして私有地を提供されたか、それぞれ住民の方にヒアリングを行いました。その結果特徴的だったのが、皆様ご自身が移動販売を利用されたいというだけではなくて、まちの役に立ちたいとか、うちは角地で人が集まりやすいだろうといった、まちのことを考えた理由で提供されているという事が印象的でした。場所の提供という行為がまちづくりに参加する1つの方法になっているという点が上郷ネオポリスの興味深い点ではないかと考えております。

上郷ネオポリスの移動販売の特徴


 このような3つの調査を通じて、上郷ネオポリスの移動販売の特徴として、次の4点を考えております。1つ目、コミュニティ拠点の整備と合わせた移動販売を実施していること。先程瓜坂様からご紹介いただきました、野七里テラスと合わせて、固定的な店舗と移動する店舗というものを組み合わせて考えられているところが特徴だと思います。2つ目、住民ボランティアの方が積極的に参加をされていること。3つ目、停留所として、住民の方々のプライベート空間である駐車場や空きガレージ等を活用していること。4つ目、ボランティアに限らず、住民の方々がみんなでこのまちの移動販売車を利用しようという思いを持っていることです。これらの点から、上郷ネオポリスの移動販売は郊外の戸建住宅団地におけるまちづくりと移動販売を組み合わせた先進的なモデルケースになると考えております。今後、空き家や空地が増えたりですとか、例えば一家に一台車があるという時代ではなくなると思いますので、そういったときに、空いたスペースの空間活用として、 移動販売を検討できるのではないかと思っております。

今後の課題

 今後の課題をあえて挙げるとすると、現状ボランティアスタッフの存在がとても大きい中で、持続性をどう担保していくかという課題があると考えます。また、移動販売の停留所は単純に空間があればいいというわけではなく、空間の所有者や管理者との交渉のプロセスがとても大事というのが研究の中でもわかっております。どのように多様で効果的な停留所を設定するか、という点も要検討です。最後に、1点目とも関係しますが、リソースが限られている中で、人とテクノロジーでどのように役割分担していけば、地域の中でより良いシステムができるのかということも今後の検討事項だと思っております。以上です。ご清聴ありがとうございました。