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インクルーシブなランジェリー「Moons & Junes」はどのようにして生まれたのか

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Designing Lingerie That Celebrates Inclusivity, Sexuality, and Comfort

コペンハーゲンを拠点とするランジェリーブランド「Moons & Junes」は、あらゆる体型の人にフィットし、自分の肌に自信を持てるようにデザインされています。創業者のAgneta Bjerre-Madsen氏が、デザインプロセスやブランドのコンセプトについて語ってくれました。

Moons & Junesは、「すべての女性」のアンダーウェアやサポート力のあるブラレットを開発し、従来のランジェリー業界に新しい風を吹き込んでいます。このブランドは上品さや色の美しさだけではなく、快適さを第一に考え、すべての女性の体型に合わせたランジェリーをデザインしています。

このブランドの名前は、ジョニ・ミッチェルの曲「Both Sides Now」に由来しています。世界中のすべての女性の自信を高め、美しい形や色を持つ女性を受け入れるという意味が込められています。これこそが、Moon & Junesが大きな成功と注目を集めている理由のひとつです。女性たちは、自分の体をスーパーモデルや、雑誌やSNSで目にするものと比較したくないのです。

また、Moon & Junesでは、お客様の声を取り入れ、それに応じてデザインを変えています。これにより、お客様が実際に欲しがっている商品を作ることができるのです。今回の「Unapologetic」コレクションは、お客さまとのコラボレーションで作られています。Instagramでの投票やアンケートなどを通してお客様の求めているものを聞き出し、それに基づいて商品をデザインしました。さらに多くの意見を集めるために、定期的にお客様やボランティアの方との交流会も行っています。

Moons & Junesの創始者であるAgnete Bjerre-Madsen氏に、デザインプロセスやブランドの背景にある基本的なアイデアについてお話を伺いました。

──Webサイトには、「アンダーワイヤーなし、パッドなし、デタラメなし」と書かれています。Moons & Junesのコンセプトは何ですか?

このブランドは、できる限り多くの人の体型にフィットし、本当に快適な下着を作りたいという夢とビジョンから生まれました。私たちが作りたいのは、人の体に合わせた下着です。長い間、ランジェリーといえば、締め付けたり、プッシュアップさせたりすることで体を矯正させるコルセットのようなものでした。私のビジョンは、これらの「余分なものを」をなくし、快適さとサポート力を重視し、上品でキュートなランジェリーをデザインすることです。

出典:Moons & Junes

──このビジネスを始めた時期と始めた理由を教えてください。

約4年前、私が大学生のときにはじめました。最初は勉強のかたわらの趣味としてスタートしましたが、やがて小さなビジネスになり、2017年のはじめにWebサイトを立ち上げました。大きなスタートアップになるというビジョンはありませんでしたが、とにかく挑戦してみることにしました。やってみないで後悔するのは嫌だったからです。

Moons & Junesは、私にとって直感的なもので生き生きしてると感じられるプロジェクトなのです。2020年3月、パンデミックの直前に「Unapologetic(悪びれない)」というキャンペーンを展開しましたが、これは自分のセクシュアリティを恥ずかしがらずに表現するというものでした。このキャンペーンは話題になり、とてもワクワクするものになりました。それまでのキャンペーンは私が撮影していましたが、このキャンペーンは私たちが開発した初めてのプロフェッショナルなキャンペーンでもありました。COVID-19のおかげで、売上も大幅にあがりました。家にいて、快適なものにお金を使いたいと思っている人たちが、Moon & Junesに価値を見出してくれたのです。

──作品やフィットのデザインはどのように行うのですか? また、そのプロセスはどのようなものですか?

コレクションの制作は通常、キャンペーンのアイデアから始まります。例として、オーガニックコットンのコレクション「Notice」をご紹介します。これは、私がパートナーとデンマークの小さな島に2ヶ月半隔離されていたときに思いついたものです。この期間に私は、ヨガをし、おいしいものを食べ、地球とのつながりを強く感じました。そして、柔らかなアースカラーで描かれた、鮮やかな花に囲まれた野原に様々な体型や年齢の美しい人々のイメージが湧いてきました。そこには穏やかな雰囲気が漂っていました。これらのイメージを思い描いたあと、「では、モデルはなにを着ているのだろう?」と自分に問いかけました。そして、そこから商品開発が始まるのです。おかしな順序だと思われるかもしれませんが、私はいつもこのようにしてデザインを行っています。

Moons & JunesのAudre Bra

色も私にとってはとても重要な要素です。新しいコレクションをデザインするとき、私は色と形にこだわります。商品の大まかなイメージができると、すぐに試作品を作り、フィッティングを開催してお客様から直接フィードバックをいただきます。この業界では通常、Mサイズからデザインを始めて、それをx倍してLサイズ、xで割ってSサイズを作ります。同じ比率でデザインが成長していくのですが、実際にそのサイズに当てはまる人はあまりいません。Moons & Junesでは、体に合わせて各サイズを異なる比率で開発しています。そのため、デザインプロセスは長く、反復的で退屈で作業になりますが、それだけに価値があります。フィードバックを何度も見直し、サンプルを変更したり、新しいサンプルを作ったりしながら製品を開発していきます。

──Webサイトでは、「Instagramを通じてお客様がもっともワイルドな下着の夢を伝え、彼らの望みや必要性に応じた製品を作る」と書かれていますね。もっとも多いニーズはなんでしょうか?

Moons & JunesのVenus bra

着心地の良さ、サポート力、そしてもちろんキュートな形であることです。着心地の良さを実現するには、さまざまな方法がありますが、私たちが工夫しているのは、デリケートな部分に縫い目がないようにしたり、傷つきやすいタグをなくしたり、シルクのように柔らかい生地を使用したりといったシンプルなものです。また、お客様はサポート力を求めています。たとえば、ブラジャーのストラップはカップの両サイドを通っているので、ストラップを締めると中央だけではなく、バスト全体が持ち上がるようになっています。このようなちょっとしたことが、着け心地やサポート力に大きな違いをもたらすのです。

私たちのお客さまの中には、胸の大きな方がたくさんいらっしゃいます。そのような方々は、太いストラップやアンダーワイヤー、パッドのないもので着心地の良いブラジャーを見つけることができず、ハーネスをつけているような感覚になることが多いのです。これを避けるために、私たちは「Audre」のような、バストが大きくてアンダーバストが小さい女性に特化したブラジャーを提供しており、とても人気の商品です。

また、私のようにバストの小さい女性もいます。少し前まではプッシュアップブラを探していたのですが、なかなか自分に合うものがありませんでした。多くの女性がランジェリーを身につけて美しくなりたいと思っているのに、サイズの合わない商品を持って何度試着を繰り返すことが多いのです。着心地の悪いものを着るのもいいですが、自分に合うものがないというのは最悪ですよね。私は、自分の体形を変えずに、セクシーさを感じさせるブラジャーを作りたいと思いました。新しい体型を作るのではなく、自分の体型を強調する下着を作りたかったのです。そんな思いから生まれたのが、この「Venus」ブラです。

──ファッション業界が環境に与える影響について、お客様の意識が高まっています。Moons & Junesでは、サステナビリティについてどのような取り組みをしていますか?

環境や持続可能性について考えることは非常に重要だと考えています。私たちは認証されたオーガニックコットンやリサイクル素材を使用しています。スイムウェアラインについてはは98%リサイクルされたペットボトルから作られたポリエステルを使用しています。

私たちは流行を追わず、ファストファッションとは一線を画しています。私たちは、製品が長く使えるように品質を優先しています。さらに、原料の調達から制作までの全体の流れを完全に把握するために、すべての製品をヨーロッパの家族経営の工場で製造しています。これらの工場は全体の流れの透明性を証明できる工場です。

しかし、それは入り組んだジャングルのようなもので、私たちはその複雑さを理解するために数え切れないほどの時間を費やしてきました。グリーンウォッシュ(上部だけの環境配慮)が蔓延していますが、なにが実際に環境に影響を与え、なにが単なるマーケティング上の演出なのかを見分ける必要があります。

Moons & JunesのMedusa swimsuit、Brizo top、Iris bottom

──Moons & Junesは、体型、サイズ、年齢を問わず、非常に多様な製品が揃っています。さらに、モデルの画像を無編集で使用していますよね。これは、女性が自分の肌に自信を持つためとても取り組みなのでしょうか。また、このことは、キャンペーン「Unapologetic」の目的だったのでしょうか?

「Unapologetic」の意図は、自分のセクシュアリティを恥ずかしがらずに表現することでした。お客様を第一に考え、男性からの目線を消し去りたかったのです。セックスは、一夫一婦制や異性愛の枠の中だけに存在するものではありませんし、送り手と受け手が同じであるようなセックスはどうでしょうか?  私たちは、セクシュアリティに力を与え、そのパフォーマンス性を取り除くことを目指しました。だからこそ、「Unapologetic」と名付けたのです。私たちは9人のモデルを起用しましたが、全員がそれぞれまったく異なる個性を持っています。彼らには、どんな形であれ、堂々と自分を表現する場が与えられました。

──メディアで多様性や自己表現について目にすることが増えれば、女性の自身の体型への認識が大きく変化すると思われます。これについてはどうお考えですか?

表現力は非常に重要です。メディアが描く身体の理想像は、非常に狭いものです。私たちは視野を広げ、さまざまな形、サイズ、色、年齢の人がいて、理想像に縛られる必要がないと伝えていく必要があります。そのために、私たちは常に幅広い層のモデルを撮影していますし、モデルに修正をかけることもありません。私たちのキャンペーンを見た人が、モデルの体型の美しさではなく、モデルの態度や自信に刺激を受けてくれることを願っています。どんな体型でもありのままで美しく、自信を持つことはセクシーであるということを私たちはアピールしたいと考えています。

Moons & Junesの作業を進めれば進めるほど、これは自分自身を助けるためののプロジェクトであることがわかります。それまで私は何年もの間、大きくてハリのある丸い胸を美しいものだと思い、プッシュアップできるブラジャーを必要としていました。しかし、プッシュアップをしても、夜にブラジャーを外すときにがっかりするだけでした。しかしいまでは、鏡に映る自分の姿を見てもがっかりすることなく、「これが私だから大丈夫」と思えるようになりました。

多くの人が、特に女性がセルフイメージに悩んでいますが、簡単に解決できるものではありません。「自分を愛しなさい」「自分の肌に馴染みなさい」と自分に言い聞かせることはできますが、問題はもっと複雑です。私自身、自分の体に不安を感じたことはありますが、外見で差別されたことは一度もありません。私はストレート、シスジェンダーで、スリムな白人です。これらは特権なのです。ボディポジティブは、#girlpowerのハッシュタグで解決できるような単純なものではなく、まだまだ道のりは長いです。Moons & Junesを通してセルフイメージに対して積極的な役割を果たすことはとてもやりがいがあります。

──自己受容といえば、女性たちが自分の体の加工していない画像をお互いに見たり・共有できる「Bits and Boobs」という場を提供していますね。このプロジェクトについて詳しく教えてください。

Bits and Boobsは、私が10代後半の頃、自分の胸に不安を感じていたことをきっかけに始めたプロジェクトです。私は友人たちに、自分の胸の写真を送ってもらえないかと連絡しました。すると、多くの人が自分の胸の写真を送ってくれました。そして体の形がこんなにも違うということを実感し、人々の体型の多様性を知ることができました。そしてそれは私にとって心強いものでした。ビジネスを始めてからは、このプロジェクトが「Moons & Junes」の一部にもなり得ることに気づき、私が知ることができた美しいものすべてを、より多くの人に知ってもらえるような場を作りました。そしてもちろん、彼らの同意を得て、その素材をオンラインで共有し始めたところ、みなさんが気に入ってくれたようです それがひとつのムーブメントになりました。

──中小企業やデザイナーをサポートすることは重要です。なぜそれが重要だと考えていますか?

独占企業ではなく、個人をサポートできるからです。小規模ビジネスをサポートすることで、ファストファッションを排除し、ファストファッションによる環境破壊を減らすことができます。通常、中小企業のサプライチェーンは、目先の利益や多くの人からの搾取だけではない、独自の価値観に基づいて構築されていることが多いのです。

──作品にはどんな名前をつけていますか?

自分自身にインスピレーションを与えてくれる人やものの名前を製品につけることが多いです。たとえば、オードレ・ロルドにちなんだ「オードリー」、ココ・シャネルにちなんだ「ココ」、スパイのマタ・ハリにちなんだ「マタ」などがあります。私は、歴史上で力を与えてくれた人の名前を商品につけるのが好きです。他にも、私の親友の名前から考えた名前のブラジャーや、フェミニンで生き生きとした印象を与えるVenusというブラジャーもあります。

──現在、アンダーウェアとスイムウェアを提供していますが、なにか他の分野に進出する予定はありますか?

Moons & Junesを、ランジェリー以外のものも提供するコミュニティのようなものにしたいと考えています。ランジェリーを作ることは私の絶対的な情熱ですが、Moons & Junesのクリエイティブなビジョンをランジェリーだけに限定したくはありません。

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧

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Design Matters Tokyo 22が来年5月に開催

Design Matters Tokyoは世界のデザイントレンドが学べる、コペンハーゲン発のデザインカンファレンスです。次回は2022年5月14日-15日に開催予定です。GoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、今年はWhatever、みんなの銀行など国内のデザイナーも登壇予定です。イベントに関する情報はSNSを中心に発信していきますので是非フォローください(カンファレンス参加しない方も大歓迎です)。

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