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デジタルデザイナーがNFTやAIに目を向けるべき理由

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Why Should You Give a Damn About NFTs and AI as a Digital Designer

NFTとAIが世の中のメインストリームになるにつれて、一体それは良いものなのか悪いものなのかという議論がいま盛んにされています。どちらも進化し続けているものなので、明確な答えはありません。しかし、どちらもより広いマーケットに進出しているものであるからには、私たちデザイナーはそれらについて真剣に考える必要があると思います。

アートとデザインはもはや、2Dや3Dの実体のある体験にはとどまりません。門外漢な人でさえ、このふたつが人間による仕事から、機械や人工知能の仕事に変わってきていることを感じているでしょう。NFTについて聞いたことはあるでしょうが、NFTとは一体どんなもので、デザイナーにとって良いものなのでしょうか、悪いものなのでしょうか? さらに重要なことは、NFTが私たちのアートとデザインに対する向き合い方をどのように変えるのかということです。

NFTはNon Fungible Token(非代替性トークン)の略語で、ブロックチェーン上で取引可能なデータであり、替えの効かない唯一無二のものです。ブロックチェーンは分散型の改変できない台帳なので、私たちは分散された台帳上で取引を追跡することができます。一義的には、ブロックチェーンは最初の所有者から始まったすべての取引と投資の記録として機能します。NFTは通常、仮想通貨を通じて売買されます。NFTはさまざまなデジタルアートの形を取ります(GIF、音楽、動画、アニメーション、グラフィックなど)。

「Signs of life」Ghost Machine(NFTアーティスト)

アートとデザインの世界のデジタル化が進むにつれて、実体の無いアートの価値についての議論が盛んになってきました。まだ世に出ていないアーティストやデジタルデザイナーがいままでにないルートで作品を売ることができるプラットフォームとしてクリプトアートが非常にポピュラーにものになっています。長い間、アートの市場から得られる利益が白人とブルジョワジーに独占されていたことは周知の事実です。Instagramのようなアプリの登場によってデザイナーたちの作品に人々が触れやすくなったとは言っても、それが有名なアートの団体の目に止まったり、美術館に展示されたり、雑誌に紹介されたりするような例は依然として稀です。だからこそ、誰もがトークンを作ってクリプトアートを売ることができ、その見返りとしてリアルの世界で知名度と報酬を得るための新たな道を開いたNFTの枠組は画期的なのです。

「PANIC ATTACK 4. DOOMSDAY BOSS FIGHT」Pussy Riots

仮想通貨とクリプトアートの負の側面

昨今、仮想通貨とNFTは良い面でも悪い面でも多くの注目を集めています。よく言われる反論のひとつは、どちらも環境にとって非常に良くないものだというものです。これまでのところ、イーサリアムがもっともよく知られている仮想通貨のひとつであり、クリプトアートのプラットフォームでもっとも使われている仮想通貨です。誰かがイーサリアムを使ってNFTを作るか、売るかすると、その人はマイナー(採掘者)の採掘によって生じた二酸化炭素排出量の一部に責任を持つことになります。マイニングとはブロックチェーンにトランザクションを追加する作業であって、NFTを作るプロセスの一部である通貨生成とは別のプロセスです。イーサリアムを使うたびに、通常はNFTを発行したアーティストに手数料が課されます。その手数料はイーサリアムに流れ、トランザクションを検証するために使われたコンピュータによる作業の対価となります。イーサリアムは、著しくエネルギーを必要とするプルーフオブワーク(PoW)という仕組を採用しています。イーサリアムでトランザクションを生成するための手数料は皮肉にも「ガス」と呼ばれます。

イーサリアム単独で、その登場以降排出したと考えられる二酸化炭素は96.2百万トンに上り、これは全世界で二酸化炭素排出量の少ない国84ヶ国の年間し総排出量に匹敵する (Art News

AIとNFTの正の側面

「AI Generated Nude Portrait #1」Robbie Barrat(出典:Plexi)

そこに人工知能が参入してNFTを作り始めても、人間と機械がそれぞれどれだけのエネルギーを消費したのかを見極めることは簡単ではありません。機械学習と人工知能は多くのデジタルデザインに使われるようになっていますが、NFTの世界ではまだ新参者なのです。上と下に示したふたつのNFTはAIによるものですが、下のNFTは「Unevolved Celebrities」と題されたもので、MicExp-AI x NFTというプロジェクトの一環です。このプロジェクトは人間の顔、仕草、微妙な表現や抽象的な表現にフォーカスし、古典的な人口知能のアルゴリズムとパブリックな人間の顔のデータを使っています。

Unevolved CelebritiesCanKocagil

デジタルデザインを作るためにコンピュータがより多くのエネルギーを使うのであれば、人間が同じものを作るよりも一層悪いと言う人もいるでしょう。AIとNFTが持つさまざまな可能性の中で、私は「AIが作ったNFT」と「AIが組み込まれたNFT」というふたつの可能性に注目しています。AIが作ったNFTについて考えてみましょう。もし私たちのデジタルデザインのNFTを作れるようなアルゴリズムを作るためのツールを機械に与えたとしたらどうでしょうか。もっと言えば、もし私たちが、言語を流暢に使いこなし、ユーザーと対話し、質問に答え、特定の環境にうまく対処できるほど高性能なAIを作れたとしたら、それはAIが組み込まれたNFTのひとつの可能性です。

Refik Anadol氏は、すでにこれを自分のやり方で実践しています。下に示した彼の作品「Melting Memories」は記憶することの重要性に着目し、画面にビジュアルを描く際のアルゴリズムを構成するデータセットにEEG(Electro Encephalo Gram、脳波図)から得られた認知における神経のメカニズムを示すデータを用いて、捉えどころの無い記憶というプロセスを描き出しています。また、Fetch.aiのような人工知能のブロックチェーンや、AIethea AIのような知能を持つメタバースといったプラットフォームもあります。

Melting Memories」 Refik Anadol

Nadia Piet氏のAI ideation card deckは、デザイナーや経営者、イノベーターが社会にとっての、ユーザーにとっての、ビジネスにとっての価値という面からAIの能力を理解しやすくなるために作られたものです。これは、将来のプロジェクトにどのようにAIを取り入れるかというアイデアを生み出すために役立つでしょう。これらのNFTとAIを取り巻くさまざまな意見をどう発展させるかはそれぞれのデザイナーのモラルと、自らこの領域に1歩踏み出すかどうか決めるためのリサーチにかかっています。

デザイナーがNFTのポジティブな面に目を向けるべき理由

NFTの負の側面については十分に見てきたので、ここからはポジティブな面を取り上げ、デザイナーがなぜこれに目を向けるべきなのかという最初の疑問に立ち返りましょう。デジタルデザインとテクノロジーは切っても切れない関係です。テクノロジーが無ければ、デジタルのデザインや作品を生み出すことはできません。デザインとアートがどのように変化したかを考えてみましょう。以前ではアーティストと呼ばれる人は、画家やイラストレーター、写真家などごく一部の人たちだけでしたが、20世紀が始まって以降、アーティストが手がけるものは実体のあるものから実体のないものに広がってきました。実体の無いアート作品について、私たちはどうやって価値を決めれば良いのでしょうか? また、私たち自身がそのデザイナーとして市場価値を作るにはどうしたら良いのでしょうか?

誰か他の人の作品の価値を決めるという作業は完全に主観的なものです。今日(こんにち)では、10百万ドルから100百万ドルほど払えば、どこででもJean-Michel Basquait氏の原画を手に入れることができます。Basquiatのキャリアの初期、その事情は異なっていました。同じことがデジタルアートにも言えます。それは時代の風潮によって決まるものなのです。クリプトアートにはデジタル署名がされており、唯一の作品であることが保証されていて、なにか別の似たような、希少であるが故に市場価値の高いものと交換することはできません。自分でNFTを作れば、作曲におけるロイヤルティのように、誰かがそのNFTを取引するたびにNFTの作り手に利益が入るようにすることもできます。NFTに関わるすべての人に開かれている可能性は、まだほんの一部しか実現していないのです。

Asian Cheetah #032」絶滅の危機に瀕している動物や植物を描き、その所有権を地球に返そうというアートプロジェクト、Not to be Goneの一環

多くの人が、よりエネルギー効率の良いやり方でNFTの売買ができる可能性を生み出そうと努力しています。主なものはプルーフオブステーク(PoS)とクリーンエネルギーですが、実際にうまく行くのかそれとも夢物語に過ぎないのか、まだ不透明です。PoSによる取引の枠組は、大量のエネルギーを消費することのインセンティブを下げ、クリーンエネルギーを生み出そうとするものです。自分が達成している二酸化炭素のオフセット量を追跡することができる新たなWebサイトが作られてきています。Offsetraはビジネスとそれが排出している二酸化炭素量を関連付け、carbon.fyiでは現時点でもっともポピュラーなイーサリアムのアドレスごとの二酸化炭素排出量を見ることができるユーザーフレンドリーな機能を提供しています。今年の2月、Grimes氏がいくつかのNFTを発行しましたが、その結果122トンの二酸化炭素が排出されました。また彼女の別のNFTである「The Bitcoin Angel」は468トンを排出しました。クリプトアートと仮想通貨の取引をもっとエネルギーの面で効率的にするための取組について詳しく知りたいなら、以下のリンクをご参照ください。

この記事では、デジタルアートの変容とその重大さに対する考え方のほんの一部をご紹介しました。私も皆さんと同じように、NFTには非常に関心を持つようになっています。自身の作品をこのプラットフォームで売るべきかどうか、まだ決めかねています。多くの人の関心を引いているのは、これが認知度を上げるための新たな方法であるという点、そしてなによりも、自分の創作のため、お金持ちになるための新たな方法である点でしょう。多くの名のあるアーティストがこの流行に飛び乗っていますが、このゴールドラッシュの機会を捉えられない負け組も生まれるように思います。

「Swamp City」2021、Alice Bucknell

Written by Adrienne Hayden (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧

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