最速で顧客に価値を届けるfreeeの仕組みとその思想について。
第一線で活躍するデザイナーやデザインマネージャーを取り上げ、事業や組織の成長をデザインの切り口からお伝えするdesigner’s story by Cocoda。
「SmartHR式、プロダクトデザイングループが実践するプロジェクト推進方法」でもピックアップさせていただいたように、社内にデザインカルチャーを浸透させる流れがより強く、主流となってきています。
しかし、まだまだデザインシステムや仕組みを導入するコストのせいもあり、ハードルが高く、なかなか導入することが難しいといった企業の方の声も多く聞きます。
そのような時代の中で、創業4年目からUXデザイナーの新卒採用をはじめ、クラウド型バックオフィスサービスの開発・販売を行なっているfreee株式会社でUXマネージャーとしてご活躍されている神戸慎一さんに、「最速で顧客に価値を届けるfreeeの仕組みと思想」についてお話をお伺いしました。
神戸慎一
2015年よりfreee株式会社に参画。UXデザイナーとして、サービスのUXデザイン、UIデザイン、CSS設計などを行っている。
◆目次
1.freeeの最速で顧客に価値を届ける仕組みとは?
2.仕組みが新卒デザイナーを強くする。創業4年目で新卒デザイナーの採用・育成に仕組みはどのように役立っているのか?
3.仕組みを大事にするカルチャーの背景にあるfreeeの思想とは?
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1.freeeの最速で顧客に価値を届けるための仕組みとは?
ーー今回は、freeeさんのナレッジの共有方法や育成体制についてお伺いできればと思います。大きく分けると、どのようなナレッジの共有方法があるのでしょうか。
freeeはまだ成長中の企業です、組織の成長に合わせて制度や共有方法も成長させており、大きく2つの仕組みがあります。1つ目は全社員向けのドメイン知識を共有する仕組み。そして2つ目が、デザインシステムです。
ーーなるほど。ドメイン知識を共有する仕組みとは具体的にはどのような仕組みなのでしょうか。
入社時のオンボーディングや、サービスの思想、過去の施策を参照できるドキュメントがいくつか整備されているのです。入社される方が、もともと会計知識を持っていない場合が多いので、「ドメイン知識のインプット」を会社のサポート体制として整える必要がありました。
ーーなぜ、このような取り組みを行うようになったのでしょうか。
お客様とコミュニケーションを取る職種は、サポートする上で会計業務を網羅的に理解しておかなければいけません。それに加えて、お客様が何に困っているのかを把握し、より最適な打ち手を出すためには、相手が何を考えていて、どこで躓いてしまうのか、きちんと文脈を理解しておく必要があります。なので、新入社員の方が入社してすぐに、会計というドメインの知識をしっかりと身につけておいてもらえるよう、インプット体制を作っているのです。
ーーまさに顧客に速く価値を届けるための社員育成方法ですね。2つ目のデザインシステムについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
freeeはデザインシステムのUI/UXガイドライン「Groove」とUIコンポーネントライブラリ「Vibes」の2つのデザインシステムを持っています。
もともとガイドラインは存在していたのですが、あまり網羅性が高くなく、プロダクトやサービスが増えていく状況では利用しにくいものになっていました。
ーーfreeeにも、そのような時代があったのですね。
そうなんです。そうすると、デザイナーごとに作る画面モックのUIの差異が大きくなっていき、デザイナーは同じ見た目でも違う挙動のUIを作ってしまって、エンジニアはそれっぽいCSSを毎回探してコードを書いてしまうなど全体の生産性も低下してしまっていました。
これらの問題を解消するため、UIコンポーネントと、UIを作る上でのガイドラインをデザイナーとエンジニア数名でチームを組み、作り上げていきました。
ーーそういった背景があって、今のデザインシステムになっているんですね。UI/UXガイドライン「Groove」についてもう少し詳しく教えてもらえますか?
Grooveは、プロダクトデザインに関わるチームの属人性を排し、常に高い品質でデザインを行えることを目的として、設計時に念頭におくべきマインドや具体的な設計の方針を策定しています。
デザイナーはもちろん、デザイナーに作業を依頼するプロダクトマネージャーなど他職種がGrooveを介してコミュニケーションを取れるようになっています。
ーーなるほど。UI・UXの基本方針も言語化しておくことで、誰でも高い品質でデザインを行えるようになる仕組みなのですね。UIコンポーネントライブラリ「Vibes」についても教えていただけますか?
Vibesは、Sketchを利用したUIコンポーネントライブラリとCSS/React Compornentで実装しています。これにより、統一されたブランドイメージの担保、ユーザビリティの向上、デザインに対してアクセスできる人を増やすことが可能となっています。
その結果、どのデザイナーでも「freeeの統一されたUI」をデザインできるようになり、新入社員でも「freeeの統一されたUI」をできるだけ早く実装できるようになりました。デザイナーとエンジニアの生産性を向上させ、今までより速く機能を開発できるようになってきています。
2.仕組みが新卒デザイナーを強くする。創業4年目で新卒デザイナーの採用・育成に仕組みはどのように役立っているのか?
ーーfreeeさんでは、創業4年目から新卒デザイナーを採用しているとお伺いしました。何がきっかけだったのでしょうか。
創業3年目に、ビジネスサイドやエンジニアの新卒採用を始めていたんです。その当時僕も入社したのですが、最初に入って来た新卒メンバーがすごく活躍していったんです。
「新卒採用でUXデザイナーを採用しても、同じように活躍する人が出てくるんじゃないか」という話になり、UXデザイナーの採用もやってみようか、といった形で始まりました。
ーーUXデザイナーの育成方法についても教えていただけますか?
先ほどお話しした、デザインシステムのUIコンポーネントを新卒に渡し、使ってもらっています。「標準的なUIを組めるようになるということ」をまずは目指してもらうのです。最初のうちは、デザインの細かいところを気にするのではなく、情報設計力を身につけることを優先しています。
いずれは新卒デザイナーにもUIコンポーネントを0から作れるようになってほしいので、現在は社内でワークショップを開催するなど、試行錯誤しながら進めています。
ーーUXを重視にすれば、体験設計や情報設計は理論や思考力が求められるので、新卒のオンボーディングがしやすそうですね。
デザイナーというとグラフィックデザイナーがイメージされることが多いと思うのですが、グラフィックに起こすまでの工程もデザインだと考えています。例えば、整理が得意、計画を立て実行するのが得意というのも、デザイナーとして活躍できるスキルです。
情報設計をUIに落とし込むのは、やはり経験豊富な中途の方が優れていると思うのですが、最初の情報整理、設計段階では新卒でも「すごい上手だな」と思う子はいますね。
ーー神戸さんがプロダクトサイドのキャリアを辿ってきたということが影響し、UXに強い組織体制が生まれていったのでしょうか。
それもあると思います。freeeはプロダクトの性質上、情報設計の優先度が高いので。
組織作りにおいては、freeeのコミットメントである”本質的な価値をユーザーに届けきること”を実現出来るよう設計しています。
「ユーザー理解を深めにリサーチやインタービューの実施」「理想のユーザーシナリオを定義し、それを実現するソリューションの提案」「リリース前のユーザーテスト実施」などプロダクトを通し本質的な価値・体験をユーザーへ届けています。
3.仕組みを大事にするカルチャーの背景にあるfreeeの思想とは?
ーーデザインシステムや仕組みを導入するコスト・ハードルが高く、なかなか導入することが難しいといった企業の方の声も多く聞きます。freeeでは、どのようにその壁を乗り越えたのでしょうか。
そもそもfreee全体として、プロダクトに投資するカルチャーがあります。プロダクトカンパニーとしての自負を強く持っているのです。プロダクトに投資するようになった背景は、プロダクトのフェーズが変わってきたことにあると思っています。
というのも、リリース初期は、機能を用意する必要がありますよね。しかし、現在freeeは8年目になります。8年も経つと、必要最低限の機能は揃ってきている。でも揃っているだけでは駄目で、より継続的に利用してもらう方法を考えるフェーズに来ています。
今のフェーズで何が必要なのかを考えると、やはりサービス体験。
freeeの会計プロダクトを使うことで、「お客様はどんな体験ができるのか?」「どんな風に業務が回っていくのか?」を常にチェックしていかないと、長く使ってもらえるプロダクトにはならないと思っています。
ーー長く愛されるためには、サービス体験が重要、だと。
そうです。だからこそ、「freeeには、こういう機能があるよ!」ではなくて、「こういう風に使ってもらいたい」「こういう世界になるんです」という体験を提供していこう、という結論になりました。
これは、UXデザインに限らず、会社全体で価値を提供していく必要があります。プロダクトマネージャーやUXデザイナーが中心となって「何がfreeeのプロダクトの価値なのか」を考え、体験設計に対して真摯に向き合う重要性が増しています。
ーーありがとうございます。企業の思想が組織に反映され、組織が仕組みをつくる、非常に一貫性のあるfreeeさんのシステムのお話をうかがうことができました。サービス体験を突き詰めていくfreeeさんに、今後も注目していきたいです。
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