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ご存知 JIS第1・第2水準漢字

フォントざっくり解説⑫

フォントに興味はあるけれど細かい事が不安で何となく購入に至ってない方、仕事で入手する必要ができてしまったけどイマイチ選び方に自信がない方のための、ざっくり解説。
厳密すぎる説明で途方に暮れてしまわないよう、選ぶ・買うのに必要な知識を、ほどほどに端折りながら解説します。
※2016年11月時点の情報です。


フォント用語の中では比較的よく知られている「JIS第1・第2水準漢字」。これをざっと復習しつつ、第3水準もあるのか? JIS2004というものとは別物?など、少しだけ知識をプラスしましょう。

ほとんどの用途をまかなえる、漢字6,300字あまり

JIS第1水準漢字・第2水準漢字は、日本語の情報処理を標準化する目的にJIS (日本工業規格) が定めた定義で、JIS基本漢字とも呼ばれます。
これは平たく言えば「漢字の集まりとその番号(コード)づけ」であり、その最初の規格は1978年に公開されました。

  • JIS第1水準漢字 : 2,965文字

  • JIS第2水準漢字 : 3,390文字 (1990年改訂前はこれよりやや少ない)

これら約6,300の漢字のうち、誰もが知っているような漢字はことごとく第1水準漢字に含まれ、第2水準漢字は主に馴染みの薄い字で構成されています。
細かな字形違いなどにこだわらなければ、日常的な意思疎通はこれら第1~第2水準漢字でほぼ事足りると言ってよいでしょう。

※JISでは漢字の他にひらがな・カタカナ・英数字・記号類なども同様に定義しており、時代にもよりますが約500字~1000字程度が規格済みとなっています。

細かな異体字の表現は重視されず

JIS基本漢字の表を調べてみると、例えば「璽 悉 箆」といった馴染みの薄い文字が第1水準漢字に含まれている一方で、「はしご高」「立ち崎」など普通に使いたくなる文字が第2水準漢字にも選ばれていません。
中には「龍」と「竜」などの例外もありますが、全般にJIS漢字は「本来同じ漢字と見なせるもの (異体字) はできるだけ重複収録しない」という方針でもともとの制定が始まっており、「はしご高」のような細かな異体字表現は重視されませんでした。

制定当初の目的や当時の貧弱なコンピュータ能力を考えると無理もない現実的な選定だったとも言えますが、結果としてはこの時のJISの枠組みが、今日までコンピュータの世界に長く影響を残す事になりました。
パソコンを使った年賀状印刷から携帯電話でのメールまで、誰もが当たり前に日本語の情報処理を行う現代の視点で眺めると、少々物足りなかったり不可解に思える部分もあります。

物足りない分を各社が独自に拡張したためにトラブルも

前述のとおり、JIS基本漢字では人名の細かな字形違いなどは重視されておらず、その後のコンピュータ普及で当たり前になってきたビジネスや日常使いにおいては少々の我慢も必要でした。そこでパソコンやプリンタのメーカー各社は、独自に文字を追加することで、この物足りなさ・不便さを解消するようになりました。その代表例が、Windowsで標準採用された400字弱の「IBM拡張文字」です。

IBM拡張文字には、はしご高・立ち崎・内田百ケンのケンなど便利に使える字が多く含まれており、Windowsパソコンの普及とともに広く使われるようになりました。
ただし、あくまで「Windowsの機種依存文字」ですので、メールのやりとりなど環境次第では文字化けも起こし易く、今でも使用には注意が必要な文字です。(文字化けを確実に避けるためには、Unicodeを扱える環境と対応フォントが必要です)

※なお、上記の図でいえば、「立ち崎」から「黒」の異体字までの9文字が、のちにJIS第3または第4水準漢字に採用されています。しかし「はしご高」以降の漢字は「高」などの包摂つまり同じ文字と見なされ、JISでは個別の文字コードを与えられてはいません。

フォント界では影の薄い、JIS第3・第4水準漢字

1978年に最初に定められて以来、漢字など日本語の文字情報にまつわるJIS規格は、大小の更新を何度も繰り返してきました。主な変更だけ抜き出すと以下のとおりです。

  • 1978年 ─ 最初のJIS漢字を制定

  • 1983年 ─ 漢字250字程度(※)を略字風に変更 (一時期はこれを「新JIS」と呼んだ)

  • 1990年 ─ 第1・第2水準漢字を補うための、JIS補助漢字 5,801字を制定

  • 2000年 ─ 前述のJIS補助漢字とは関係なく、第3・第4水準漢字 3,685字を制定

  • 2004年 ─ 漢字168字を再び旧字風に変更 (いわゆる「JIS2004」)

※当時のJISでは字形の定義そのものが曖昧なことや、字形変更とは別に第1水準と第2水準の入れ替えもあるなど、資料や数え方によって数字が異なります

これら改訂過程の中には、前後の互換性を完全に確保できないような改訂も含まれていて、度々混乱を招きました。
例えば1990年に制定された補助漢字もそのひとつで、せっかく第1・第2水準漢字を補う文字群として定義されておきながら、従来の文字コードの延長では使用できないなど実用性の問題もあって普及せず、その後、それとは別に (補助漢字とは互換性のない) JIS第3・第4水準漢字が定義されるに至りました。

こうやってJIS規格が紆余曲折をしている間に、UnicodeやOpenTypeフォントなど、フォントに関する技術的な環境にも変化が訪れます。

そこで多くの日本語フォントメーカーがJIS規格のかわりに拠り所としたのが「Adobe-Japan1」規格です。この規格は、細かな字形違いの漢字にCIDと呼ばれる独自の番号を割り振るなどより実用的な選定となっているのが特徴で、出版の世界で使われていた活字をデジタルに置き換えるのに好都合でした。
結果的に、JIS第3水準・第4水準漢字という区分けの仕方は、現在のフォント製品においてはあまり意識されないものとなっています。

※端的に言えばAdobe-Japan1-4でJIS第3・第4水準漢字のうち実用的な文字の大半をカバー、Adobe-Japan1-5ではJIS第3・第4水準漢字を完全にカバー、Adobe-Japan1-6ではさらにJIS補助漢字もカバー、という関係になっています。

JIS2004で、実質上の内容変更は一段落?

紆余曲折の繰り返されたJISコード改訂による混乱のうち、一般ユーザーに特に影響のあったのが、ご存知の方も多い、2004年の改訂です。この改訂では、これまで使っていた漢字の形が変更され、フォントによって漢字の形が異なるという不都合を生んでいます。

もっとも、2004年の改訂は、混乱の発生を承知した上でもあえて行われたものです。この改訂により、技術的・国語政策的にそれまでの問題の収拾がある程度は図られているようですので、このあとしばらくはこれまでのような大きな改訂は行われないかもしれません。

※2012年にも規格の改訂は行われましたが、常用漢字表の改正に伴い注釈をアップデートした程度のもので、実質的な内容変更ではありませんでした。


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