恋心はクリームソーダに堕ちてそのまま溶けました。
A:女。(M)あり。
B:男。(M)あり。
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A(M):盆休み。高校生の彼と私は電車に揺られ、何処へやら。
A(M):私たちは今、宛も無く電車に乗り、行き当たりばったりの小旅行をしている。
B:あ、おい、海見えてきたぞ!
B:この辺で降りるか!
A:一番高い切符を買ってるんだから最後まで行けば良いのに……。
B:最後の駅なんか多分山だぞ?
B:俺は海が見たいんだ。
A:まぁ良いけど……。
A(M):こうしてやって来た名前の知らない海。
A(M):電車を降りると薄い潮風の匂いがした。
B:やぁ~……最高!!空気も美味いし!!
B:夏の匂いがするな!!
A:(冷静に)そうだね。
B:何だよ、釣れない奴。
B:まぁ、早く海行こうぜ!
A(M):駅から海まで歩く。
A(M):彼は途中立ち止まっては大きく息を吸い込み、潮風を堪能する。
A(M):私も真似して、立ち止まっては大きく深呼吸をした。
A:(深呼吸)
B:気持ちいいだろ?
A:本当ね。
B:にしても、あちぃ~!!
B:お!古いコンビニある!!行こうぜ!!
(SE:駆け出す音)
A:あ!待ってよ!
(SE:駆け出す音)
A(M):彼は古びたコンビニでアイスを二人分買うと、一つ私に渡してくれた。
A:あ、ありがとう。
B:良いって!
B:早く食え、溶けるぞ?
A:うん……。
A(M):アイスを食べながら歩き進める。
A(M):駅から結構距離あるなぁ~と思いながらも、時折立ち止まっては写真を撮る彼が可愛らしかった。
【間】
(SE:海の音)
B:ひぃ~……やっと着いた!!
B:駅から結構距離あったな!!
A:そうだね、疲れたよ。
B:さて、海入るぞ~!
A:馬鹿、盆は海に入ったらダメだよ。
A:それに水着もないでしょ。
B:ちぇ……。
A:まぁ、波打ち際で遊ぶ分には良しとしましょう。
A(M):私がそう言うと彼は目を輝かせて、サンダルを脱いで砂浜を駆けていった。
A:私もサンダル脱ごう……熱い……!
A(M):砂浜が熱くて足を忙しなくばたつかせていると、彼が可笑しそうに笑う。
B:お前も早く来いよ!
B:こっちは熱くないぞ!
A(M):薄っすらと汗を掻いた彼がまた笑う。
A(M):私も走って波打ち際まで行くと、先程の砂浜とは打って変わって冷たかった。
B:はははっ、ほら、水かけてやる!
A:ちょっと、止めてよ!
A(M):彼は私の脛目掛けて水をかける。
A:そんなことしてると転ぶわよ?
B:ははは!……って、うわっ!?
A(M):そう言った途端に、ざばっという音と共に彼が波に足をとられ転ぶ。
A(M):彼は尻が濡れなくて良かった、と一言言う。
A(M)それがまた可笑しくてつい声をあげ笑ってしまった。
【間】
B:疲れたな、ちょっと海の家行こうぜ。
A:うん。
A(M):彼の提案にちょうど疲れていた私も乗る。
B:腹減った……焼きそばと、コーラ。
A:私、たこ焼きと、クリームソーダ。
(SE:店員の「はいよ!」の声)
A:ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど……。
B:何だ?
A:何で私なの?小旅行の相手なんて誰でも良かったじゃない。
B:まぁ、そうなんだけどさ。
B:俺はお前が良かったんだよ。
A:ふぅん……。
(SE:店員の「お待ちどう!」の声)
B:ま、良いから食おうぜ!
B:(SE:飲む音)くぅ~!コーラが美味い!!
B:焼きそばも美味い!!
A:(SE:啜る音)クリームソーダ、美味しい。
B:どれ?
A:あ……。
A(M):彼は私からクリームソーダを奪うと、一口、間接キスをした。
A(M):自分の顔が熱くなるのが分かる。
B:お、本当に美味いな!
A:も、もう!止めてよね!カップルじゃないんだし!!
A(M):意識しているのは私だけなのだろうか。
B:何だよ、照れてんのか?可愛い奴!
A(M):そう言って悪戯が成功した子供のように笑う彼が愛おしかった。
【間】
A(M):一頻り遊んで、日が傾いてきた頃。最後にもう一度海に入る。
A(M):彼も私も疲れ果て、水を掛け合う元気も無かった。
B:そろそろ帰るか。
A:うん。
B:今日、お前と来れて良かった。
B:絶対に忘れない、大人になっても。
A(M):真剣な顔でそう告げる彼。
A(M):大袈裟な……と言おうと思ったけれど彼の目が本当に忘れまいとしている様で。
A(M):私は言葉を飲み込み、ただ、うん。とだけ笑った。
A(M):夕日に照らされた彼が消えてしまいそうで、怖かった。
【間】
(SE:歩く音)
B(M):俺は駅までの帰り道、彼女の手を引いて歩く。
B(M):今日一日、楽しかった。そんな話も無くただ歩く。
B(M):俺は彼女と小旅行に来れて本当に良かったと思っている。
B(M):俺が波に足をとられ転んだ時の彼女の笑顔。
B(M):クリームソーダを一口飲んだ時の紅潮した顔……。
B(M):全部、全部、この目に焼き付けた。
B(M):絶対、大人になっても忘れない……。
A:ねぇ……手……。
B:え?あぁ……悪い……。
B(M):俺が慌てて手を離すと彼女は俺に、
A:(泣きそうな声で)ずるいよ……。
B(M):と泣きそうな声で言ってきた。
B(M):ずるい?何が?……そう聞く前に彼女は
A:帰ろう。
B(M)と前を向いて歩いて行く。気まずくなる空気。
A:アンタはやっぱり……ずるいよ……。
B(M):前を歩いていた彼女のスカートが翻る。
B(M):駅まであと少し。でも俺たちは足を止めた。
A:私、今日一日ずっとドキドキしてたのに……。
A:何で小旅行の相手が私何だろう、とか、間接キスとか……。
A:全部全部ドキドキしてたのに……。アンタはよく分かんなくて……。
B(M):泣きそうになってきた彼女の手を引き、自分の方へ抱き寄せる。
B:俺だって、ドキドキしてた。お前、最初の方、何言っても冷静だし。
B:かと言って急に笑ったり……照れたり……。……お前の方こそずるいよ。
A:だって……。
B:だって、何だ?
A:(震える声で)私はアンタが好きだから……。
B(M):彼女の声は震えていた。
B(M):俺も彼女に答えるように言う。
B:俺も好きだ……。今日、相手がお前だったから良かったんだ。
B(M):ぎゅっ、と彼女の肩口に顔を埋める。
B(M):彼女は間抜けな声を上げたがお構いなし。
B(M):夏の夕日に照らされた彼女が消えてしまいそうで、怖かった。
B(M):だから彼女への告白は夏の夕焼けのせいにしたかった。
B(M):でも違う。好きだと伝えた後の喉の奥が熱い。
B(M):これは全て彼女への愛しさのせい。
B(M):だから、俺は言う。
B:俺、絶対忘れないから、今日のこと。
A:うん……私も。
【間】
B(M):俺たちが家の付近に着いたのは、もう空が群青に染まりきってからだった。
A:また、休み明けに会おうね?
B:おう。
B(M):電車の中、安堵した様に俺の手を繋ぎ眠っていた彼女が眠気眼で言う。
A:それじゃあね。
B:待ってくれ!
B(M):俺は彼女を呼び止め、改めて言う。
B:俺の彼女になって下さい。
B(M):俺の告白に彼女は、
A:海の駅に居た時から、彼女だったよ。
B(M):と綺麗に笑った。
【間】
A:あ~……疲れた……。
(SE:携帯の音)
A(M):帰宅すると、彼から写真が何枚か携帯に送られてきた。
A(M):その中に、クリームソーダを飲む私の姿が写った写真があった。
A:アイツ……いつの間に……!
A(M):写真を撮られていたことにも驚きだが。
A(M):何よりも、彼を見ている私の目が優しかったこと。
A(M):愛しそうにしているところ……。
A(M):彼を好きだと言うのが全てこの写真に表れていること。
A(M):それが恥ずかしくて、思わず顔を覆った。
A(M):盆休み、彼と私の小旅行は、ハッピーエンドで終わりを告げる。
A(M):夏休み明けが楽しみだ、なんて。
A(M):柄にもなく鼻歌を歌い、今日飲んだクリームソーダの味を思い出すのであった。
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