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紫陽花が咲く庭の涙。

A:園子(そのこ)。19歳、♀。
B:桐人(きりと)。20代後半、♂。
C:桐人の母親。人を馬鹿にする性格。
D:桐人の父親。人を馬鹿にする性格。
E:園子の彼氏。ちょい役。(Dと兼任可))
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(SE:歩いて来る音&紫陽花にシャワーをかける音)

A:わぁ……ここの庭の紫陽花、綺麗だなぁ。

B:ん?何だい、お嬢ちゃん。
B:俺の家の庭に何か用か?

A:あ……すみません!
A:紫陽花が綺麗だな……って思って……。

B:あぁ。
B:庭、入って来て良いよ。
B:こっちに来た方が見やすいだろうし。

A:良いんですか?

B:あぁ。

A:ありがとうございます!
A:じゃあ遠慮なく……。

(SE:足音)

A:うわぁ~紫陽花いっぱい!

B:そうだろう、昔からこの家に生えてんだ。
B:好きなだけ見て行って良いよ。

A:ありがとうございます!
A:(感嘆の溜め息をつき)……綺麗。

B:ふっ……。
B:ほら、お茶用意したから飲んでけ。

A:あ!すみません!

B:ははっ……。
B:お嬢ちゃん、可愛いな。

A:え?可愛くないですよ!?

B:(笑いながら)そう言うとこ、昔の彼女に似てんなー。
B:お嬢ちゃん、彼氏は?

A:えぇ!?急に!!?

B:いや、お嬢ちゃん可愛いからさ。
B:モテんだろうな~と思って。

A:いやいやいや……全然です!!
A:可愛いって言ってくれたの……お兄さんが初めてです。

B:本当か?
B:お嬢ちゃん、歳はいくつよ?
B:高校生か?

A:19歳の大学生です!

B:(笑って)ピチピチだな!

A:ピチピチは死語ですよ!

B:ははは!
B:良いね、お嬢ちゃん、気に入った。
B:(笑いながら)俺の女になれ!

A:えぇ?!

B:(楽しそうに)ははははは!!

A(M):(少し間を空けて)最初の印象は、強引な人。
A(M):でも少しずつそんな彼に惹かれていって、私たちはすぐ男女の仲になった。
A(M):……私が初めて大人の階段を登った、19歳の梅雨の時季。
A(M):朝露で光っている紫陽花の葉が印象的だった。
A(M):濡れたシーツの跡、深く交わしたキス……身体に残る赤い痣……。
A(M):彼に赤い華の痣を付けられる度に惹かれていって……私にはもうこの人しか居ないと思うようになっていた。
A(M):共に朝日を眺め、笑い合った日……。
A(M):幸せだった……あの頃までは。

B:俺、親に「そろそろ結婚しろ!」って言われてんだ。

A:結婚?

B:そ。だから一度さ、俺の親に会いに来てよ。

A:(嬉しそうに)う、うん!!
A(M):(少し間を空けて)そしてその日はやって来た。
A(M):慣れない化粧、慣れないパンプス……着なれない洋服で身を包み、彼の家に向かう。
A:は、初めまして!桐人(きりと)さんとお付き合いさせて頂いています……園子(そのこ)と言います!!

C:こんな子がウチの子と?アンタ、歳いくつよ?

A:え?……もうすぐ20歳ですけれど……。

D:20歳だと!?

C:ウチの子とは釣り合わないわねぇ。
C:それにアナタの通っている大学って……そんな良い所でも無いじゃない?

D:ウチの息子にはもっと将来有望な女性が来て欲しいんだ。
D:孫の未来にも関わるしな。
D:大体アンタ、若すぎるんだよ。
D:世間を知ってから出直しな、嬢ちゃん。

C:本当ね~!

A(M):心無い言葉の暴力に私はグッと下唇を噛んだ。

B:親父!お袋!!いい加減にしろ!!
B:俺が選んだ女のどこが悪いんだよ!!

C:アナタには、もっと相応しい人が居るのよ。
C:この子とは別れなさい。

D:そうだ、別れなさい。
D:どうせ流行りのパパ活かなんかだろう?
D:この子はお前の金が目当てだ。

C:この子と別れないなら……親子の縁を切るわよ?

B:なっ……!!?

A:(静かに冷静に)解かりました、別れます。

B:園子……!!

A:……桐人さん、今までありがとうございました。

(SE:玄関の閉まる音&早足で立ち去る足音)

B:園子!園子!園子ー!!
B:(怒りに震えながら)どうしてだよ……どうして……。
B:(泣き怒りながら)……こうなったのも、てめぇらのせいだ!!
B:(泣き怒りながら)縁を切るなら切りやがれ!!この糞共ぉ!!
B:(泣き崩れるように)う……うぅ……そのこぉ……。

【間】

(SE:雨が強く降る音)

A:梅雨時になると思い出すなぁ……。

E:ん?誰をだい?

A:初めての彼氏のこと。

E:初彼かぁ。どんな人だったの?

A:んー、ちょっと強引な人だったなぁ。
A:よく笑って、よく喋って……。
A:(自嘲気味に笑いながら)結婚出来ると思ってたんだけどね……。

E:……ふーん。

A:ねぇ。

E:ん?何?

A:(笑いながら)別れよ?

E:え?

A(笑いながら)やっぱり私、あの人が良いみたい。

E:そっか……君は、まだ引きずっているんだね。

A:うん……。今まで本当にありがとうね?

E:うん……。

(SE:立ち去る足音)

A:はぁー……何かスッキリしたなぁ。
A:……あの人は……元気かなぁ……。
A:もう6年経つな……。
A:風の噂では……他の女性と結婚したみたいだけど……。
A:私、あなたを忘れられない……。
A:……元気かな……?……会いたいよ……。

(SE:走る足音)

A:(息を切らしながら)……ここだったっけ……。
A:紫陽花……全部枝が切られて……無くなってる……。
A:……引っ越したんだ……桐人さん……。
A:(泣きながら)あ……はは……昔にはもう……戻れないんだ……。
A:(泣きながら)もう……昔みたいに……紫陽花が綺麗だね、って笑えないんだ……。
A:(泣きながら)……戻れないかな……あの日に……。
A:(弱弱しく)……私はずっと桐人さんが……良かったな……。

(SE:雨の音フェードアウト)

END


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