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観戦記: 2024 J2 第5節 千葉 vs 清水


はじめに

こちらのXの投稿にあるとおり、フクアリに向かっている時に、母親から「祖母危篤」の連絡をもらいました。実はあと10分程度で到着するところまで来ていたのですが、どうしても祖母に会いたくなり、引き返して、その足で病院に向かいました。おかげさまで最後のお別れができました。Xでもたくさんのコメントやいいねをありがとうございました。
現地で勝利を見届けることはできませんでしたが、後半からリアタイができて乾と松崎のゴールを画面越しに見ることができました。これで勝てなかったら本当に悲しい気持ちになったと思うのですが、勝つことができて本当に良かったです。

結果は清水が3-1で勝利!!

まずはこの試合のハイライトを見てみましょう!!

スタッツ的にも、内容的にも、ほぼ互角で、本当にJ2の試合とは思えないレベルの高い、非常に拮抗した良いゲームだったと思います。J1がお休みの中で、J1サポの多くもオリジナル10同士ということで観た人が多かったのではないでしょうか。そうした中で、このような良い試合ができてよかった。素晴らしいファイトをした千葉にも本当に感謝です。

清水と千葉の勝敗を分けたのは?

こちらが千葉対清水のスタッツになります。

千葉 vs 清水のスタッツ

シュート本数は同じ。枠内シュートは清水、一方でパス数やボール支配率は千葉。ほぼ互角のスタッツですし、実際に試合を見ていた体感も、どちらも前線からのプレスをハードワークするし、自ら崩れた長崎戦を除いて、相手の圧力を最も感じた試合でした。
それでも結果は1-3で清水の勝利。もちろん結果論のところもありますが、何が勝負を分けたのか考察をしていきたいと思います。

わずかな差①: 相手の弱点を突くチーム戦術

この試合、千葉も清水も、前線からのハイプレス、奪われてからの攻守の切り替え・ゲーゲンプレス、という戦術は徹底していたし、その実効性も非常に高かったと思います。
ただ、千葉はハイプレスでボールを奪って素早く攻める、という方向性は共有できていたものの、どこからどう攻めるのかという細かい部分についての詰めはできていなかったように思います。リーグ1位の攻撃力を誇る千葉が、前線から良い守備をできていたにも関わらず、小森選手のゴールを除いては決定的なシーンを作れなかった=権田がスーパーセーブするシーンがなかったので。
一方、清水はゴールから逆算して、ボールを奪ったらどのように攻めるかまで選手の間に共通認識があったように思います。試合前に秋葉監督も、「千葉の試合の過去のビデオを見せながら、どこが空くのか、弱点なのかについて話し合った」というようなことを言っていましたので。展望でも書きましたが、私も千葉の弱点は、攻撃的な両SB(特に左SB)の裏のスペース、ペナルティエリアのニアゾーン(スポット)が非常に空きやすいという部分だと考えていました。
前半のブラガのシュート、乾のシュートからカルリのゴール、後半の吉田の空振り、乾のゴール、松崎のゴール、すべて相手左SBの裏のスペースを使ったものであるといのは気づけましたか?
この中でも、本当に狙い通りの形になった乾のゴールについて解説してみます。

このシーン非常に面白いのですが、1次攻撃、2次攻撃、3次攻撃とあるのですが(上記の動画は3次攻撃からなので上のフルハイライトをご覧下さい)、すべて狙いは右サイドなんです。1次攻撃は中村→乾→宮本でおそらく乾は宮本からリターンパスを受けて、右サイドへの進入を狙っている(宮本へのパスが後ろに流れてやり直しになる)。2次攻撃は中村→乾→宮本→松崎→乾→松崎と、最後の松崎の手前でパスカットされますが、これも右サイドを攻めています。三次攻撃は、相手左SBの日高選手がドリブルで上がろうとするところを、宮本と中村の見事なゲーゲンプレスでボールを奪い、ジェラ→松崎→乾で右サイドのポケットを取って、乾がニアにシュートをズドン。この時、日高選手が上がって空いたスペースを選手全員が狙ってるんです。乾は「たまたま」と謙遜しまたが、3回とも同じところ狙ってるんですよ。左SBの日高選手は攻撃が持ち味なので、このように持ち上がって奪われたときの戻りや他の選手によるカバーが遅れるところがあります。まさにこの千葉の弱点を突いた形になりました。
つまり清水は「戦術的に」このスペースを狙うという共通認識があったように思います。そこが、わずかな差を生んだのだと思っています。昨季はこうした「相手の穴をつく」という戦術はあまり見られなかったので、今季獲得した分析チームが良い仕事をしているのではないかと思います。

わずかな差②: 交代策

次の勝敗を分けた差だと感じたのは、秋葉監督の交代策だと思います。この試合秋葉監督は以下の3度の交代をします。

  • 67分 ブラガ→松崎、北川→白崎

  • 86分 山原→北爪、乾→高橋

  • 90+2分 カルリ→千葉

特に、この67分と86分の交代策が、この試合を左右する2点目、3点目に繋がりました。それぞれの交代後のシステムと狙いを解説していきます。まずは67分からのシステム。

千葉戦 清水のシステム(67分~)

すごく驚いたのですが、最初の交代で秋葉監督は北川を下げます。まだ同点の比較的後半の22分と早いタイミングでFWを下げて、MFを入れ、FWが一人もいない状態になります。正直私は「大丈夫かな」と思いました。
この交代によって、カルリを左WGからトップに移し、白崎を左WGに配置します。松崎は順当にブラガのポジションに入ります。
私は気づきませんでしたが、この交代には明確な狙いがありました。一つ目はカルリを前線に置くことで、ロングボールの受け手にして千葉のプレスを回避することと、前線からのプレスの強度を増すこと。カルリは攻撃が目立ちますが、実は守備もものすごくうまい選手です。連戦の中で千葉戦も前線から走り回っていた北川の疲労を考慮して、ここでカルリを最前線に。カルリはボールも受けてキープできるため、この交代によって、清水のボール保持の位置が上がり、前線からのプレスがかかるようになりました。
もうひとつは、白崎を左、松崎を右に配置し、清水の攻撃戦術である「左起点・右展開」の狙いを明確にしたことです。白崎がタメを作りながら、中村や乾とパス交換をして、機を見て松崎のいる右サイドに展開するイメージが共有されたと思います。
実際に2点目のシーンも、カルリが最前線左でプレスをかけ、宮本・山原でカットして、山原→カルリ→白崎→中村とパスをつないだところから、1次攻撃が始まっています。この選手交代と配置変更がもたらしたゴールともいえると思います。

次に86分の交代(乾→高橋、山原→北爪)後のシステムを見てみましょう。

千葉戦 清水のシステム(86分~)

システムを4-2-3-1から、3-4-2-1の3バックに変更。高橋をアンカーにいれて、北爪を右WB、右にいた吉田を左WBに起用。乾が抜けた中盤は、両WGが中に少し絞り、白崎が左MF、松崎が右MFとなります。
この交代、もちろん最大の目的は、1点リードしている状況での守備固め。CBを2枚から3枚にし、守備時には吉田と北爪が下がって5バック気味で守ることが可能になり、相手にスペースを与えずに固い守備ができます。
ただ実は守備だけではなく、このシステムは攻撃時には、北爪が走力を活かして機会をみて攻撃に絡むこともできます。長崎戦では北爪は4枚の右SBで出場し、攻撃に上がった際にカウンターを受けやすいという問題がありました。でも、この3-4-2-1のシステムであれば、CB(この場合ジェラ)が右サイドにスライドしてスペースを埋めることもできるため、北爪は思い切って上がることができます。
このシステムの長所を生かして生まれたのが、松崎の3点目でした。

左サイドで吉田から中村にバックスパスが放たれた瞬間に、逆サイドで手を挙げた北爪が右サイドを一気に駆け上がります。それを見た中村が、見事なサイドチェンジ。北爪も相手の左SB日高が中途半端に中にポジションをとっていることを見逃しませんでした。ニアゾーンに進出した北爪は中村からのボールをダイレクトでマイナスに落とします。少し前に行き過ぎたかなと思ったのですが、松崎が左足のアウトサイドで見事なシュート。ゴール左隅にきれいに流し込みました。この時清水が3-4-2-1にシステムを変更したことで、相手左SBの日高選手が、松崎につくのか、北爪につくのか、整理がなされていない隙をついた形になりました。

わずかな差③: 選手の個の質

最後は全く戦術の話ではないのですが、ここぞという場面での選手の個の質の高さ、ここが際立ちました。2点目の中村のプレス、ジェラのタックルからの繋ぎ、松崎のスルーパス、乾のニアハイのゴラッソ。3点目の中村のサイドチェンジ、北爪の折り返し、松崎の左足アウトサイドでのシュート。どのプレーも決して簡単ではなく、質の高いものでした。これだけ質の高いプレーが繋がればゴールは奪える、逆にいえば一つ一つのプレーのどれかが、cm単位でずれていたらゴールは奪えていなかったと思います。

スパイアが提供しているスタッツですが、全体のパス成功率は74.5% vs 75.4%とわずかに千葉が上回っているのですが、アタッキングサード(ピッチを3等分したときの千葉のゴール側の1/3のエリア)のパス成功率は74.3% vs 70.0%と清水が大きく上回っています。つまりプレッシャーがかかる中、勝負所で選手が正確なプレーをしていることがわかります。
例えば中村選手のヒートマップを見てみましょう。ピッチのいろいろな場所で顔を出してプレーしていることがわかります。

千葉戦 中村選手のヒートマップ

そして攻撃の個人スタッツ。

千葉戦 中村選手の個人スタッツ(攻撃)

パス数40に対して成功は36。つまり成功率は90%です。先ほどの平均値から考えてもこれがいかに高い割合かわかると思います。
これに対して相手の千葉は、中盤の要である田口選手が欠場したことは、個の質という意味では大きな影響があったように思います。
守備においても、大分戦に続き、ジェラ選手が圧倒的なパフォーマンスを見せてくれました。

千葉戦 ジェラ選手の個人スタッツ(守備)

7つのクリア、4つのブロックと、小森選手のゴールのシーンを除いて、本当に固い守備を見せてくれました。特に、ドゥドゥ選手からノーファールでボールを奪ったシーン、後半の小森選手をコーナーに追い込んだシーン、乾のゴールに繋がったタックルのシーンなど、ディフェンダー流れ見せ場がたくさんありました。こうした選手は攻撃的な選手より地味な守備陣にあって、本当に貴重な存在ですね。またゴールを挙げた試合よりも地味でしたが、山原選手の守備も素晴らしかった。千葉のストロングである右WGの田中選手に対して何度もデュエルで勝っていました。この両チームの左SBの守備の強度の差が勝敗を分けたといっても過言ではないです。もちろん吉田選手も右SB、左WGとして獅子奮迅ならぬ、猪突猛進の働きでしたね。(空振りはご愛敬)
最後に乾選手の試合後のコメントです。

僕自身も今日はすごく調子が悪くて、全然良くなかったと思っています。その辺はチームに迷惑をかけてしまいましたし、素直にもっとうまくなりたいなとも感じた試合でした。

千葉戦後 乾選手コメント

突っ込みどころしかないコメントですが、でも乾選手にとっては、謙遜でもなく本音なんだと思います。それだけ乾選手(おそらく他の清水の選手も)のスタンダードが高いんだと思います。

清水のMVPは?

最後に「でし的」MVPについて書きますね。この試合、ゴラッソで貴重な決勝点を挙げた乾選手、短い出場時間で1G1Aの松崎選手、豊富な運動量と正確なパスで百人力のプレーをした中村選手、圧倒的なフィジカルでデンジャラスゾーンを制圧したジェラ選手など、候補はたくさんいるのですが、個人的なMVPは(ドラムビート)

カルリ―ニョス!!!(チャントを脳内再生しましょう)
はい。今季の推しというひいき目はありますが、この試合、本当にカルリが清水に残ってくれて良かったと感じさせる試合でした。

まずは前半のゴールですが、左サイドから中央のバイタルにポジションを取り、北川選手からのパスを乾選手にスルーパス(トラップが大きくなっただけかもしれませんが)、乾選手のシュートの弾きを良く狙っていました。相手DFよりもいち早く反応して右足を一閃。非常に苦しい展開の中での貴重な貴重な先制ゴールでした。その後小森選手のゴールで追いつかれましたが、このゴールがなければかなり劣勢な中で後半を迎えることになっていました。
さらに67分からは、北川選手の交代で、トップの位置にポジションを変更します。既に左MFとして、献身的に守備して走り回っていたので、体力的にも簡単ではなかったと思いますが、トップに入ったカルリはさらにギアを挙げて、全然からボールを追い続けます。秋葉監督がハーフタイムで千葉の前線のプレスの前向きな矢印の折り方を指示したとのことですが、私は、ある程度ロングボールを蹴ることだったと思います。その実践にはカルリ―ニョスのように走力もフィジカルもある選手が必要だった。最前線である程度孤立している中でもボールを追いかけ、難しくてもマイボールにしたシーンがありました。乾のゴールもカルリの前線へのチェイスがきっかけでしたね。
彼が残ってくれたからこそ、ブラガ選手もチームに早く溶け込むことができました。また、タンキ選手も、カルリがうまくつなぎ役をして、チームにフィットしてきてくれるでしょう。本当に清水の10番としてふさわしい選手だと思います。

最後に

これで清水は5戦4勝1敗の勝ち点12。岡山に次いで自動昇格ポジションの2位になりました。J2優勝に向けて、5試合で勝ち点10が一つの目安でしたから、これで「2」の貯金をためることができました。しかもアウェイの長崎・千葉という難しい試合があるなかでの勝ち点12はスタートダッシュに成功したといってもいいかと思います。
一方でまだまだリーグは始まったばかり。次も昨季勝てなかった秋田戦が控えます。非常に守備とセットプレーの強いチームであり、清水の嫌がるロングパスを多用してきます。中村選手や蓮川選手などフル出場が続いている選手もおり、疲労も溜まってくるタイミングでしょう。次の5試合に向けて、またゼロからの始めるつもりで、頑張ってほしいですね。
残念ながら私は祖母のお通夜ということで、アイスタに行くことができません。それでも遠くから魂を送りたいと思います。
千葉戦の後にきれいな虹がかかったみたいですね。相方が写真を送ってくれました。私にとっては祖母が天国に渡る橋に思えました。次の試合でもきっと力を貸してくれると思います。

千葉戦後の虹

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