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観戦記: 2024 J2 第6節 清水 vs 秋田

今週は仕事があまりにも忙しかったため、観戦記がこのタイミングになってしまいました。需要はないかもしれませんが、一応書き残しておきます。


はじめに

まずハイライトを見てみましょう。

前半26分に生まれた北川選手のゴールで見事1-0の勝利。清水は今年最初の3連戦を3連勝で終えます。これで通算5勝1敗の勝ち点15の2位となりました。岡山が5勝1分で1位ですが、両チームともに優勝ラインを上回るペース。現時点での順位は気にしなくていいでしょう。

清水の勝因はなんだったのか?

さて清水の勝因は何だったのでしょうか。昨季の清水は「自分たちのサッカーをすれば相手がどこだって勝てる」という強気の考えの元で戦っていたように思います。秋葉監督からもそのようなコメントが多くありました。
昨季J1昇格を逃したことで、秋葉監督もオフに反省・振り返りをしたと思うのですが、その際の大きな気づきのひとつが「相手をリスペクトして、相手を分析して、相手の嫌がることをすること」だったように思います。
「もともと強いチームが、さらに相手を研究して嫌がることをすれば、更に強くなる」そう考えたはずです。(他にも、戦術に合う選手の補強、フィジカルの強化、ビルドアップの修正などあったと思いますが、それはまた別の機会に触れるようにします。)この考えに基づく、秋葉監督は分析担当のスタッフを2名加えて、3名体制にします。

清水エスパルスの分析担当スタッフ

この3名体制というのはJ2としては異例だと思います。佐藤さんは水戸時代の秋葉監督の知恵袋。竹内さんは24歳と若いですが、優秀なサッカーアナリストを多数生み出している、筑波大蹴球部の出身です。この2人の加入が今季の清水の戦術の底上げに大きく寄与しているのは間違いないでしょう。

こちらの方のnoteによると、分析担当スタッフは、J1 20クラブで29名(1.5名/クラブ)、J2 20クラブで18名(0.9名/クラブ)ですので、3名所属というのはやはり多いですね。
前置きが長くなりましたが、まさに勝因は秋田対策が成功したこと。秋葉監督も以下のようにコメントしていますね。

選手たちがスカウティングどおり、われわれが対秋田という部分で、事前に思い描いていたゲームプランどおりに戦ってくれたと思います。彼らのロングボールへの対処方法、そこからセカンドボールを拾ってどう攻撃を仕掛けていくかといった部分を、90分間集中しながらやってくれました。

H秋田戦後 秋葉監督

その対策は3つあったように思いますので順にみてみましょう。

対策①: 逆サイドチェンジ

一つは秋田の守備戦術である、同サイド圧縮に対する対策。秋田は、守備時に非常にコンパクトな陣形を取ります。相手(清水)の最終ラインではある程度簡単に回させますが、中盤に入った瞬間に人数をかけてサイドライン際に追い込み、ボールを奪いにかかります。そのため、例えば、清水の左サイドにボールがある際に、秋田の左SBは、ほぼピッチ中央に位置するくらい絞ります。結果、秋田の左サイドには広大なスペースが生まれます。

秋田の同サイド圧縮によって生まれる逆サイドのスペース

この状態を、カルリとブラガがそれぞれの特徴を活かして攻略するシーンが何度もありました。カルリが縦パスを受けた際、秋田は同サイド圧縮を発動して人数をかけてカルリからボールを奪いに行きます。普通の選手であればそのプレッシャーに負けてボールをロストするかもしれません。しかしカルリは狭い局面でも高い技術でボールをキープできますし、逆サイドに正確なサイドチェンジを蹴ることができます。
そしてそのパスの受け手はブラガ選手。ブラガが面白いのはブラガ自身も右サイドに残って待つのではなく、相手の左サイドバックについて中央に絞っています。ただブラガは走力が非常にあるため、カルリが逆サイドに大きく振ったボールを、よーいドンで追いかけても相手DFを置き去りにできます。これによって、相手のゴール前まで持ち込むシーンが何度もありました。
得点が生まれたシーンのCKの獲得も、ブラガによる持ち込みから奪ったものだったと思います。
それにしてもこの試合の、特に前半のブラガは素晴らしかったですね。スペースがあれば、ある程度孤立しても一人で持っていくことができる。これは今後も清水の強みになりそうです。一人で守備ができる吉田選手との相性は抜群ですね。

対策②: ロングボール対策

秋田の攻撃戦術は、とにかく早めにボールを前線に送って、トップが競り合い、そのセカンドボールを奪って、一気に陣地回復するというものです。清水は長崎戦ではロングボールにやられてしまいましたので、その次の大分戦からはこのロングボール対策が徹底できているように思います。

秋田のロングボールに対する清水の守備

この試合も前半だけでも7-8本GKや最終ラインからのロングボールがあったように思いますが、清水はロングボールの落下点にCBのうち1人がいくこと(この図の場合は蓮川選手)、最終ラインの裏を1人がケアする(この場合は住吉選手)、セカンドボールを1~2人がケアする(この場合は中村選手と山原選手)という守り方が徹底していたように思います。

対策③: セットプレーを与えない

秋田の攻撃で脅威なのはセットプレーです。それにはロングスローも含まれます。そもそもの対策として、清水はこの試合、意識してセットプレーを与えないようにしていたと思います。スタッツを見てください。

J2 第6節 清水 vs 秋田のスタッツ

秋田のCK数はなんと1。FK数も5です。展望でも書きましたが、秋田はこの試合までCK数はJ2 20クラブ中1位でした。その秋田にCKを1本しか与えなかった。これは地味にすごいことです。またFKも、前節の千葉戦は21本、大分戦は16本与えているのです。でも秋田戦は5本。これはあえてプレスで厳しくいかずにファール数を意識的に押さえていた証拠だと思います。素晴らしいですね。

乾不在時のシステムは機能したか?

前半5分という早い時間に乾がケガにより交代となります。代わりに松崎が同じ位置に入ります。清水は残りの85分間を絶対的な司令塔である乾抜きで戦うことを余儀なくされます。これによりある意味強制的に乾抜きシステムをいきなり実践しなければなくなりました。おそらく、秋葉監督及びコーチ陣には乾がいない場合どうするかということについて、既にシミュレーションはあったでしょう。この後のシステムと選手配置についてみていきましょう。

4-2-3-1で松崎トップ下

まず秋葉監督が採用したのは、乾→松崎を置く形の4-2-3-1です。この乾に代えて同じポジションに松崎を置くというのは、ホーム大分戦など前節までの試合でも見られました。

4-2-3-1 松崎トップ下

面白いのは乾と松崎のキャラクターの違いです。ホーム大分戦の乾と、ホーム秋田戦の松崎のヒートマップを比べてみましょう。

H大分戦の乾選手のヒートマップ
H秋田戦の松崎選手のヒートマップ

まずわかりやすいのは、乾選手は左サイドでのタッチ数が多いのに対して、松崎選手は右サイドが多いです。また全般的に乾の方が中央の低い位置でパスを受けることが多く、松崎選手はパスを受ける箇所がライン際に集中しています。
これによりブラガのヒートマップにも影響が出ます。

H大分戦のブラガのヒートマップ
H秋田戦のブラガのヒートマップ

松崎選手が左に流れてくる分、ブラガ選手のボールタッチ位置が若干ではありますが、中央よりにシフトしています。

4-2-3-1 カルリ1トップ

後半22分に2回目の交代カードを切り、北川選手・ブラガ選手を下げ、白崎選手・西原選手を投入して、カルリを1トップに据えます。以下のようなフォーメーションにします。

清水 vs 秋田の後半22分からのフォーメーション

千葉戦の後半にもありましたが、カルリを1トップに据えることで前線からのプレスの強度を上げ、またある程度ラフなボールでも前線でボールをキープしてもらえるという効果があります。
また左サイドには白崎を置くことで、乾不在でも、左起点のサッカーが可能になります。更にこれまで左サイドで起用していた西原選手を右サイドに起用。確かに、後ろには変わらず吉田選手が控えているので、西原は右サイドでも全く問題なくプレーをできていました。
私自身は当初このメンバーならば、松崎を右、西原を左、白崎をトップ下の方が機能するかなと思っていましたが、考えを改めました。
カルリの負担は大きいものの、個人的にはこのカルリワントップ、白崎左サイド、そして万全であれば、トップ下の松崎のところに矢島を置く(松崎は交代カードとしてベンチに置いておく)のが乾不在時の有力なメンバーのように思います。

3-5-2-1 蓮川・高橋・ジェラの3バック

終了間際の後半42分。山原・松崎に交代して、高橋・北爪を投入し、3-5-2-1にシステム変更(選手たちは4バックのままか混乱していたようですが)。以下のようなシステムになります。

清水 vs 秋田の後半42分からのフォーメーション

これも前線の選手の並びこそ違いますが、これまでの試合でもクロージング用に使ったもの。前節の千葉戦では松崎選手のダメ押しゴールにもつながりましたね。特徴は右WB(ウイングバック)に北爪選手を起用することで、カウンターの脅威を相手に与えられること。
それにしても吉田選手は最終版で左サイドにポジションチェンジするなど、忙しい試合になりました。

総括

乾不在のシステムは機能したか?これは正直答えることが難しいですね。昨年と比較すれば、YESだと思います。これは、乾がいてもいなくても、チームとしてやるべきコンセプトが明確になっているため、守備ではゲーゲンプレス・同サイド圧縮はチームとしてできていましたし、乾がいなくてもワンタッチで繋いでボールを前に運ぶことができるケースも増えました。
一方で乾不在の影響も色濃くあったのは事実。それは最後のアタッキングサードの崩しの部分で、ここで崩し切らずに、安易にシュートを打つというシーンが特に後半は多かったように思います。結果、シュート本数は18に対して、枠内シュートはたったの4本。
シュートで終わることはいいことですが、何度かに一回はシュートをフェイントにしてさらに深い位置に入って、決定的なチャンスを演出するようなことができれば、枠内シュートの数は増えたかもしれませんね。

最後に

この試合も、現地観戦に行けず、また仕事が多忙につき、簡単なレビューとなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
既に日付は3/30。山形戦当日。私は出張先の名古屋から直接山形に飛ぶ予定です。試合開始までには展望を書きたいですがどうなるか。
この試合で負傷した乾選手に加えて、北川選手も出場が難しいという憶測が出ています。北川・乾・原という主力3枚をおそらく欠く中で、去年のライバルである山形との対戦。昨季は私も現地に行きましたがアウェイで負けている相手です。またPOでホームアイスタで何とか引き分けたことも記憶に新しいですね。
東京でも桜がようやく開花しました。A山形→H徳島→A甲府の3連戦。気持ちを新たに必ず勝ち切りましょう!

こんな桜が今年は見たいです

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