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友人のこと

コロナにかかって云々というここ2回ほどの投稿を読んでくださる方がおられてさらに「スキ」までしてくれたことはとてもうれしいことでした。ありがとうございます。

コロナその後ということならば(求められてないけど)68㎏あった体重が64㎏まで落ち込んでさすが39度台の熱が出ると違うなぁと妙な感心をする。と同時になんだか歩くのにふらつく。家の中でもちょっと緊張する。「まさか、そんな年でもあるまいに」とは思うもののやっぱりどこか頼りない。

ご近所には毎日アップダウンのある小山を上り下りし、なんだかんだで1時間以上歩いているというアスリート風の面構えになった50代と推測される奥さんもいれば負けじと(ではあるまいが)ひたすら歩き続ける70代のジイサン(と呼んでいいのかの境界線の方)も居る。糖尿病を克服した由。みな元気である。
私はと言えば普段は全く運動しない。
中学生の時は水泳部、高校生では陸上部で走高跳で190㎝を超えた「僕」だったとは思えない「私」になっている。大学時代は酒と喫煙に明け暮れ必要最小限の単位を辛うじて取得するほかは本と映画しか見なかった。仕事に就くや中身が最悪だったんで逃避行動から近所にあった空手道場に通い始めた。これがたまたま性に合ったのか3年間で日本空手協会の黒帯に。徐々に段位を取得して4段にまでなった。各種大会にも出場させてもらい、こちらは「殴ったり・蹴ったり」ではなく専ら「殴られては・蹴られる」ばかりだったが楽しかった。組織上のいろいろもあったけど空手道連盟の段位も併せて取得してそちらは審判資格の下限の3段まで取得した。で、ありながら…
全くである。運動する気になれない。近所のアスリート奥さんを見ても糖尿病克服ジイサンを見ても一向に刺激されない。

コロナ受診の時に酸素飽和度を計測していた医者が「低いね」と言う。ドキッとするがだからといってどうしようもない。「息苦しくないか?」と訊くので「感じませんね」と答えると「喫煙は?」「かれこれ40数年くらい…」これを聴いて彼はニヤリと笑い「それだね!」と嬉しそう。「肺炎にはなってませんか?」「肺炎になってたらね、こんな能天気な会話、してないよ」
果たして飽和度がどのくらいの数値だったのか聞くのを怠ってしまったが、まぁいい。

私の運動への無気力はもしかしたらこの「酸素飽和度」と関係があるのかもしれない。と思ったのである。

無気力と言えば酸素飽和ではないが私の友人にここ数年の「コロナ禍」で都内から一家で引き揚げてきた(まるで敗戦帰国者みたいな言い方になってすまない)ジャズ・ピアニストのMがいる。

ピアニスト「M」

3年前、何年かに1度程度の連絡(ライブの通知など)してこなかったMがいきなり電話をよこしライブの一切が取り消された東京を引き払って地元に帰ってきた。グランドピアノは運ぶ予算が取れなくて楽器屋に預かってもらったままだけど。と言うのである。落ち着いた低い声の持ち主なのだがどこかせかされた感じのあるあわただしさをその時は感じた。もう一つに音楽や芸能関係でのコロナ被害が深刻な事態なのだと思い知らされもした。
やがてMは月に1度くらいの割合で私に電話をよこし、東京との暮らしの違いや(例えばゴミの分別が細かすぎるとかだった)コロナ対策での行政の不備をぽつぽつ訴えるようになる。何度目かの電話の時だった。亡父の遺産相続を巡って実兄と裁判になったという、身内の話だけどと言いながら切々と語っていたことがあった。口調からは怒りというよりは何と言おうか、困り果てた人間がただ天に向かって(もちろん私が天だというわけではない)呟くような響きがあった。私も応答のしようがないのでほぼ黙って聴くだけであった。内心これは相当堪えているなとは感じながら的を射た応答が思い浮かばないのは我ながら情けないことだった。
そのMから昨年は一切連絡がなかった。


ライブ会場となった喫茶室

先月SMSで市内の喫茶店でライブをやるからよかったら聴きに来ないかと知らせが入った。そくチケットを予約し当日を迎える。
演奏後、短時間だったがMの話を聴くと例の実兄とのもめごとも決着がつかずいろいろなことが重なって1年半くらい前から鬱病を患い、全くピアノが弾けなくなってしまったということであった。地元の国立病院の心療内科に通院し、半年くらい前からようやく少しずつではあるが弾けるようになりどうにか今日を迎えられたと。人間関係の確執、就中肉親の関係悪化は心理的負荷が大きい。少し雰囲気まで老け込んでしまったMを見て抱きしめずにはいられなかった。
ピアノは昔とほぼ変わらず切れのいいタッチで心地よかった(もっともジャズピアノの識別にさほど長けているわけではないが)

こうして書いていたら少し気力が湧いてきた。Mも(相続問題は未決着だが)コロナ情勢の変化から、都内も視野に入れて活動のしやすい場所を求めて引っ越しを考えているとのことだった。グランドピアノも預けっぱなしだしね…

運動・睡眠・酸素飽和…気力。
さて、私のコロナもほぼ全快。
湧きたつ気力は何に注入すれば花開くでしょうか。