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なぜ私たちの給与がちっとも増えないのか?(2/2) 日本の労働者の一人負けの理由

エレファントカーブで、グローバリズムの進展する中で、明らかに先進国の中位から下位層の所得が増えなかったことを見てきました。

それでは、なぜそういうことが起こったのか、またその状況の中で、先進国によって違いが生じているのはなぜなのか?

この点について、いくつかの仮説を述べたいと思います。

1.労働者の地位の低下

欧米および日本において過去20年間、一貫して労働組合に加入している労働者の割合が減ってきています

グローバリゼーションが進むにつれて、国内に安価な労働者が増加してきました。特に定型的な業務に関しては、多くの外国人が就労しています。これは、確実に賃金の低下をもたらしました。

また、高度の技術力と海外の安価な労働力をベースに、iPhoneや工作機械などのハード類、またビジネスをカバーするソフトウェアが競争力のある価格でつくられるようになりました。そのため、より広範囲に業務の効率化が進みました。そして、それらの業務に携わる人々を不要にしました。安価な機械やソフトが人に代わったのです。

基本的に労働と資本は収益の取り合いを行います。しかしながら、明らか非熟練労働者の立場は弱くなっています。しかも、資本はより高い収益性を求めてグローバルに移動もできます。それらの理由から、全世界的に先進国における労働組合、そして労働者一人一人の地位が低下していると考えられます。

2.資本所得と労働所得

「資本」対「労働」という対立について、過去の完全な対立関係と異なってきています。米国においては、労働所得の上位1%の個人が資本所得においても上位10%に入っている確率は63%という研究結果も出ています。

つまり、同一個人によって、資本と労働の両方から高い所得を得ているのが、新しい資本主義なのです。エレファントカーブにおいて、高い伸びを示している最富裕層の多くがこの資本所得を得ている層であるわけです。

ピケティは、そのベストセラー「21世紀の資本」において、資本所得が長期にわたって経済成長を上回り、これが所得格差を拡大させてきたことを指摘しました。

3.賃金格差

日本は米国に比べ賃金格差は小さいと言えます。長年年功序列での給与体系でしたが、最近は実力にあった給与を払うということで、結果的に賃金格差は広がる傾向にあります。しかしながら、日本の社会では突出するような賃金はまれで、多くの企業ではトップマネジメントの報酬も比較的低いレベnルに抑えられているのが現状です。

特に日本の場合は、低賃金化の傾向にある定型的な業務と、高度な熟練者や経営的な業務との給与の差が欧米ほど大きくないことが特徴です。これは大企業に多く見られますが、これにより低賃金化の傾向の定型的業務にほかの人たちの給与が大きく離れないため、全体の賃金をどうしても低く抑えがちにならざるを得ないと言えます。

4.資本所得への抵抗

資本所得を得るためには、資本をもつことが必要です。資本と言うのは、もっとも分かりやすいものは企業の株ということになります。

米国においては、株式市場が出来てからその長い歴史の中で、インデックス(株価の指数)に投資した人は長期的には必ず利益を上げることができました。これはたいへん大きな事実です。つまり株(指数)に投資した人は絶対に損をしない、と言うか、複利的に増えることで全員が長期的に大きな利益を上げることができたのです。そのため、米国においては、長期的な株式投資は貯金に代わるもの(しかもリターンは貯金以上)という意識が強くなり、株式投資に対するハードルはたいへん低いのです。

一方、日本においては、1980年代から90年代のバブルが大きな影響を与えることになりました。バブル崩壊を経験した層は、ほとんどの人が株式で損を経験することになりました。そのためそれがトラウマとなり、株式投資について決して楽観的な考えを抱くことが出来なくなりました。また、バブル崩壊後も一進一退を繰り返し、2010年代半ばまで株への投資は決して満足できるリターンを生み出すことは無かったのです。

そのため、日本人は観念的に株式投資のリスクを必要以上に意識することになりました。株式投資はある意味でギャンブルであり、真面目な勤労者が手を出すべきでない、というイメージまで出来てしまったのです。

5.日本の労働者の賃金の低迷

日本の労働者の賃金の低迷に関しては、総論として、グローバリゼーションの進展により、全世界的な先進国の中位の労働者の所得の低迷によるものと言えます。

しかし、日本以外の諸国、たとえば米国と比較して、より深刻な低迷を続ける日本の労働者の賃金は、エレファントカーブに加え、上記のふたつの原因、つまり賃金の格差の少なさ、また、資本収益への抵抗があります。

米国においては、一部の労働者における資本収益の増加、また企業内の高賃金の従業員の存在により、平均的な労働者の収入を上げています。しかしながら、日本では前述したようにどちらもその規模で存在しておらず、全体の収入金額を上げる効果はありません。

6.労働者収益を上げるための対策

日本は米国に比べて企業内の賃金格差が少ないが、これは明らかに一般的な労働者の平均給与を上げるという意味ではプラスに働くので、この社会的な状況は維持すべきだと考えます。

問題は、資本所得です。

資本主義が進展する中、ますます労働者との対比において資本側への収益が拡大しています。その中で、日本において株式投資に関するリスクの過大イメージから、決して貯蓄に代わる資産として認識されていません。

個々の企業への投資は、株価が大きく変動し決してリスクの低い投資とは言えません。しかしながら、指数、インデックスに対する長期的な投資は、もちろんリターンを約束するものではないが、今後も長期的には安定的に拡大していくものと想定されます。

結論として、このようなエレファントカーブに晒されいて、労働所得が伸びない状況におかれている日本の労働者の所得の増加は、資本所得を組み入れるほかありません。

そんなお金があったら苦労せんわ、ということかもしれませんが、ポイントは資本投資が必ず長期的に儲かるというイメージをもつことです。それならば、少しでも余裕が出たら資本投資を考えるのではないでしょうか。無税で投資ができる仕組みもあります。

私は証券会社の回し者でも、証券取引所の関係者でもないので、株式投資を単に活性化させたい訳ではありません。

私たちは皆、たとえ望んでいないとしても、どっぷりと「資本主義」という世界に生きています。すでにマルクスは、150年以上も前に、この資本主義の本質を看破していました。私たちは、資本主義の世界において、いかに「労働所得」が危ういものかを理解すべきなのです。しかも、それがここ20年の間にグローバルに露呈してきています。それがエレファントカーブそのものなのです。

「資本所得」はひとつの解決方法かもしれません。しかしながら、そう簡単ではありません。私たちは、さらに別の「所得源」を探す必要があるかもしれません。それは「知識所得」のようなものなのか、あるいはSNSのようなネットワークを活用した仕組みなのか、いずれにせよ新たな所得源が今後生まれてくることを期待したい。資本主義の深化によりますます危うくなってくる「労働所得」に頼らないために。

               (完)