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【要約】ブラック・スワン 第13章 画家のアペレス、あるいは予測が無理ならどうする?

予測を扱った第10章からの締めくくりとして、教訓を二つ挙げましょう。ひとつは小さいこと向け、もうひとつは、大きい、大事な意思決定向けに、やや長めに説明します。

一つ目は、小さいこと向けで、人間たれ! ということです。人間である限り、自分の知識にうぬぼれをもつこと、予測をさけようとしなくていいということです。正しいときにバカになれ、と。

一方、二つ目の教訓は、大掛かりで害の多い予測を不必要にあてにすることはやめたほうがいいということです。将来を左右する大きなことで予測に頼るのは避けるわけです。小さいことではだまされても、大きいことではだまされないということです。

信じることの優先順位は、確からしさの順ではなく、それで降りかかるかもしれない被害の順につけるべきなのです。

このように、私たちには一般的に未来が読めないのを書き連ねてきますと、読者の皆さんは不安に感じて、それじゃどうすればいいんだろうと思うかもしれません。

肝心なことは、「身構えろ!」 深刻な万が一のことには全部備えておくのです。

良いほうの偶然というものもあります。病気の治療においても、生活一般においても、 #セレンディピティ を最大化するわけです。そういう中で試行錯誤は大事です。しかしながら、試行錯誤、あるいは人生をやっていくには何度も小さな失敗をしないといけない、ということを受け入れるには、私たちの心も頭も抵抗します。

また人は損をすると恥ずかしく思うことが多いものです。だからボラティリティがとても小さく、でも大きな損失が出るリスクのある戦略をとりがちです。たとえば、シリアやサウジアラビアといった独裁政権は不安定には見えません。でもイタリアに比べて無秩序に陥るリスクは高いのです。なぜなら逆にイタリアは第2次大戦後ずっと政治の混乱が続いているからです。

金融業界でも同じです。「保守的な」銀行家がダイナマイトの山の上に座って自分で自分にだまさせれているわけです。

タレブは、自分がトレーダーとして使ってきた「バーベル」戦略を日常生活に一般化しようとしていると言います。「バーベル」戦略とは、黒い白鳥のせいで、自分が予測の誤りに左右されるのがわかっており、かつ、ほとんどの「リスク測定」に欠陥があると認めるなら、とるべき戦略は、可能な限り超保守的かつ超積極的になることです。

「中くらいのリスク」の投資対象にお金を賭けるのではなく、85%から90%をものすごく安全な資産に投資をして、残りの10%から15%はものすごく投機的な賭けに投じます。

こういう投資戦略をとれば、間違ったリスク管理に頼らずにすみます。どんな黒い白鳥が来てもひどい目にあうことはなく、安全な資産には被害が及びません。平均すると中くらいのリスクになりますが、黒い白鳥に対していい形でさらされています。専門的にはこれを「凸結合」と言います。

この「凸結合」の作戦を考えてみましょう。

1)まず、いい偶然と悪い偶然を区別する。

黒い白鳥にはいいものも悪いものもあります。悪い方は、軍隊、災害保険、銀行の貸付など、思いもしない結果がでたら悪いほうの可能性が高いわけです。一方で、映画、科学的研究、#ベンチャーキャピタル などは、よいほうの黒い白鳥の事業であり、損失は小さいが利益は大きいと言えます。こういう商売では、何もわからないのはいいことなのです。一番うまくいくのは、自分は何がわかっていないのか、自分でわかっているときです。つまりよい方の黒い白鳥にはめいっぱい自分をさらし、悪い方の黒い白鳥には被害妄想みたいな態度をとるわけです。

2)細かいことや局所的なことは見ない。

杓子定規になるなということです。 #パストゥール は、運は準備を怠らない者に味方すると考えました。毎朝何かが見つかると思ってはいけないわけです。また、黒い白鳥を厳密に予想しようとなんてやめた方がいいわけです。すべてを警戒し続けるのはまったく不可能です。だから予測より備えに資源を費やすことです。

3)チャンスやチャンスみたいに見えるものには片っ端から手を出す。

チャンスなんてものはめったに来ないものです。思っているより稀なのです。人生で運のいいことがあってもそれに気づかない人があまりにも多いと言えます。チャンスが舞い込みそうなら、予定なんて全部放り出すことです。

4)政府が持ち出す、こと細かな計画には用心する。

政府が予測をするというならやらせておけばいいいのです。でも彼らが言うことを当てにしてはいけません。公僕の連中の目標は生き延びるとか自己保存とかです。真理にたどり着くことではありません、

5)「世の中には、わかっていないけどそう教えちゃいけない人たちっていうのがいるんだよ」

予想屋、株のアナリスト、エコノミスト、社会科学者、そういう連中とけんかしても時間の無駄だからやめておいた方がいいということです。バカはバカらしくいつまでもバカな予測を続けるし、それが連中の生業ならなおさらだ、とタレブは言います。

こうして書いてきたお勧めの行動には一つ共通したところがあります。非対称性です。有利な結果のほうが、不利な結果よりずっと大きい状態に自分を置くわけです。未知なものがわかることは決してないが、そんな未知でも、自分にどんな影響があるかを推し量ることはできます。

とても稀な事象の確率は計算できません。しかし、その事象が起こったらどんな影響があるかはちゃんと把握できることがあります。たとえば、地震のオッズはわからないが、起こったらサンフランシスコがどんなことにあんるかは想像できます。意思決定するときは、確率よりも影響のほうに焦点を当てるべきなのです。不確実性の本質はそこにあります。

第10章より、予測について見てきました。まとめると、私たちには何がおこっているかわからいないのは、①知識に関するうぬぼれのせいで未来を見るのに不自由だから。②プラトン的な型のせい、つまり人は簡略化したものにだまされる。③欠陥のある推論の道具のせい。