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「反脆弱性」講座 9「予測を無視して大金を得る方法」(デブのトニーの場合)

ここで、 #ブラック・スワン でもお馴染みの、愛すべき「デブのトニー」の登場です。ブルックリン生まれ、ニュージャージーに住み、(無駄な)読書はせず、スポーツクラブではトライアスロン(サウナ、ジャグジー、スチームバス)をこなし、イタリアン・レストランで熱烈に歓迎されるトニーです。

もう一人の登場人物、ネロは、趣味は読書、1万5千冊の蔵書に囲まれ、ウエイトリフティング・クラブに属し、専門分野は #統計学#確率論 、旅には #ランダム性 を取り入れスケジュールをつくらないで行く人物です。

2008年の経済危機のあと、二人の共通点が明らかになりました。二人とも、脆いカモたちの危機を予測していたのです。彼らは、現代の経済システムが前代未聞の規模で雪だるま式に崩壊していくと踏んでいました。

トニーは、仕事バカ、役人、そして銀行家をカモだと思っていました。トニーには、そういう崩壊寸前のカモを見分ける天性の才能があったのです。

ネロの関心も、知的な様式を身にまとっているという点を除くと、トニーと同じでした。ネロの考えでは、確率の理解という幻想の上に築かれたシステムは必ず崩壊する運命にあるということでした。

トニーは #経済危機 で大金を得ました。ネロもトニーほどではないが利益を得ました。

カモたちの崩壊に賭けるという行為の #倫理性 は後ほど論じるとして、あらかじめ警告すべきかどうかで、二人の考えは異なります。

ネロは「君たちはカモだ」と警告すべきだと考えています。一方トニーは、「(警告しても)笑われるだけだ。言葉は臆病者のためにある」と言って、それには反対なのです。

トニーは言葉より行動を重視します。だから、ネロに対して「戦利品」(銀行口座の明細書)をちゃんと見るように、とアドバイスします。

また、言葉でなく行動を重視する理由として、他人の評価に依存するのは健康によくないからということもあります。人間が他人を評価するやり方はいつも残酷で不公平なものです。

ネロは、一流の科学者たちが、評価ばかり気にしていて、自分の評価が低かったり、格下の者が評価されたりするだけで、たちまち精神的に参ってしまうことを知りました。そんな大物もトニーのような心の余裕がないのです。

ネロは、経済危機が起こるまでの日々はつらかったと言います。「自分がおかしいのだろうか?それとも世界がどうかしているのか?」と悩みました。そんなとき、トニーと会うと「少なくとも自分だけがバカじゃない」という安心感を得たと言います。

経済活動にかかわる、100万人近い専門家、たとえば、政府、学会、マスコミ、銀行、企業、そして個人たちの中で、この経済危機を予見できた者はほんの一握りにも満たなかったし、その中でも被害の全容を予見できた者は、そのまた一握りしかいませんでした。

そして、危機を予見した人々の中でも、それが「現代性」の産物であることに気づいている人はひとりもいなかったのです。

デブのトニーは予測を信じていなかったが、予測屋が破たんすると見て大金を賭けました。 #サンタフェ研究所 の学者は、予測を信じて、高度なモデルを作っていました。しかしその予測を使った事業はうまくいかなかったのです。トニーは予測を信頼していなかったのに、予測で富を築いたわけです。

一般的に言って、予測は不可能です。しかし、予測に頼る人々が高いリスクを冒し、何らかのトラブルに陥り、最悪の場合には破産する、というのは予測でき来ます。それは、予測する人々は予測ミスに対して脆いからなのです。

デブのトニーが反脆い理由は、脆いカモたちと正反対の行動を取っているからです。トニーのモデルはとても単純です。脆さを見つける。そして脆いシステムの崩壊にかける、ということなのです。