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【要約】ブラック・スワン 第17章 ロックの狂える人、あるいはいけない所にベル型カーブ

1987年の株式市場の暴落があり、 #タレブ#黒い白鳥 というアイデアを積極的に追及できるようになったと言います。彼は、シグマ(つまり標準偏差)でリスクやランダム性を測るのはインチキだとしました。金融の世界がガウス的ならば、ああいう暴落(標準偏差20個分の事象)は、宇宙の一生が数十億回繰り返してやっと一回起きる程度だ、と。

1987年の暴落を振り返ると、稀な事象は起こりうるもので、不確実性の主要な源は稀な事象だとみんなわかっていたが、実際には彼らは、ガウス分布を計測のツールの核として使うのをやめませんでした。それは、人は常に何か手がかりになる数字がほしいからなのです。

#ノーベル経済学賞 の選考委員会は、エセ科学とインチキ数学で作業に「厳密さ」を持ち込めた人に与える癖があります。株式市場が暴落した後、彼らは、二人の理論家、 #ハリー・マコーヴィッツ#ウィリアム・シャープ に賞を与えました。ガウスの流儀に則って見目麗しくプラトン化を極めたデルをつくり、 #モダン・ポートフォリオ理論 なるものの発展に貢献したというわけです。ただし、選考委員会は、彼らのモデルを検証してみるべきでした。

1997年スウェーデン・アカデミーは、  #マイロン・ショールズ#ロバート・C・マートン にノーベル賞を与え、またしてもガウスの流儀にお墨付きを与えました。この2人は前からあった数学の公式をいじくり回して、ガウス分布にもとづく既存の金融一般均衡大統一理論に適合させました。しかし、彼らは、ガウス分析に頼って公式をつくりましたが、彼らの先駆者たちはそういう条件は付けていなかったのです。

マートンとショールズは、 #ロング・ターム・キャピタル・マネジメント   ( #LTCM )の創業時からのパートナーでした。世間は彼らを天才だと思っていました。ポートフォリオ理論の考え方にもとづいて、ありうる結果のリスクを管理していました。

1998年の夏、ロシアの金融危機をきっかけに大きな事件がいくつかおこり、彼らのモデルがまったく想定していなかった事態、つまり黒い白鳥がやってきました。LTCMはぶっつぶれ、金融市場も道づれにする勢いでした。彼らのモデルは大きな外れ値が出る可能性を無視していて、だからこそ膨大なリスクが取れたのでした。マートンとショールズの考えも、モダンポートフォリオ理論も崩れ落ちました。

マートンのやり方は、ガウス流の確率分析をはじめとして、ガチガチにプラトン化した仮定を山ほど立てていきます。数学は厳密で流麗です。細かいいろいろなルールで固められた、完全に閉じた世界なのです。こんなやりかたをする学者は、ロックの言う狂える人、つまり「間違った仮定にもとづいて厳密な議論を展開する人」なのです。

流麗な数学は99%正しいのではなく、完璧に正しいわけです。世界を完璧な数学に合わせようと思ったら、どこかでインチキ、つまり都合のいい仮定を設けないといけなくなります。インチキな仮定をもってきて「厳密な」理論を構築しているわけです。

懐疑的実証主義は、全くその逆のやり方で、理論よりも仮定の方を重視します。理論にできるだけ頼らずに、いつも身構えていて、できるだけ不意をつかれても驚くことがないようにします。間違ったことを几帳面にやるよりも、正しいことをおおざっぱにやるほうがいいわけです。また、華麗な理論は往々にしてプラトン化しているので、華麗さはむしろ弱点なのです。