「反脆弱性」講座 19 「破綻するヤツの見極め方」
どうすれば脆さを見極めることができるかについて考えてみましょう。
ファニー・メイという米国政府系金融会社がありました。彼らの内部のリスク報告書の中にある計算方法によると、ある経済変数が上昇すると大きな損失が生じ、反対に下降すると小さな利益が生じるという仕組みになっていました。更に大きく上昇すれば、加速度的に被害が大きくなることが明らかでした。経済変数に対して非常に脆い、負の凸型の非対称性を表していました。
重要なのは、非直線形的なシステムは、極端な事象の影響を強く受けるという点でした。ところが誰も極端な事象に目を向けようとはしなかったのです。また当時、ほかの機関や銀行も同様の状況に陥っていました。
それから時間は少しかかったが、ファニー・メイはほかの銀行を道連れに破綻しました。
ここで「脆さ(反脆さ)」を測るひとつの指標がはっきりしました。まずは、計算ミスや予測ミスが全体的に利得よりも損失をもたらすかどうかを調べます。そのうえで、その被害がどれくらい加速するのかを確かめるのです。
たとえば、ある町が過度に最適化されているかどうかをたしかめたいとしましょう。測定の結果、自動車が1万台増加すると所要時間が10分延びたとします。ところが、更に1万台増えると所要時間はもう30分延びた場合、このように所要時間が加速するということは、この交通システムが脆いということがわかります。この加速が緩やかになるまで交通量を減らす必要があるわけです。加速と言うのは急激な負の凸型効果を引き出します。
同じことが企業にも当てはまります。売上が10%増加したときの利益の増加分が、10%減少した時の利益の減少分より小さくなる場合、脆い企業だと言えます。
また次に、間違いの影響を考えます。私たちの構築するほとんどのシステムや、脆弱なシステムに関連する間違いでは、負の凸効果が働くので、この種の間違いは一方向(悪い方向)にしか影響を及ぼさないのです。飛行機の到着は遅くなることはあっても、早くはなりません。戦争は悪化することはあっても改善はしません。交通の所要時間においても変動(ばらつき)によってプラスに働くことはまずありえません。
この偏りこそが、ランダム性やその被害の過小評価につながるところなのです。間違いによる利益より害のほうが多いからです。従い、長期的に見て、ランダム性による変動が両方向に同じくらいずつ働くとすれば、実際には利益より害の方が圧倒的に多くなるはずなのです。
これが三つ組(トライアド)のキーポイントで、すべてのものは次の3つに分類できます。長期的に見て変動(間違い)を好むもの。変動に対して中立的なもの。そして変動を嫌うものです。
進化のプロセスや発見のプロセスは変動を好みます。また予測は不確実性によって害をこうむることがあるので変動を嫌うため、一定の余裕が必要です。ちなみに福島の原発の微小な確率の計算がいかに脆いかも分かります。一般的に微小な確率は間違いに対してとても脆いのです。仮定がちょっとでも変わると、100万分の1から、100分の1に簡単に変わります。ただ、それは一万倍の過小評価なのです。
この方法で、経済モデルの数字に潜むインチキを暴くことができます。脆いモデルとそうでないモデルを明らかにできるのです。単純に仮定をわずかに変えてみて、どのくらい大きな影響が出るのか、その影響には加速度性があるのかどうかを確かめるのです。ファニー・メイのように加速性があれば、そのモデルに頼っている連中は、ブラック・スワンが起こるといとも簡単に吹っ飛びます。
次に、非直線形性の効果において、平均値(一次的影響)が意味をなさない話をしましょう。
たとえば、こういうことわざがあります。「川の深さが平均で4フィートなら渡ってはいけない」
あなたが、「あなたの祖母はこれから2時間、とても快適な平均気温21度の場所でお過ごしになります」と言われたとします。あなたは、これを聞くと、そりゃいい、と思うでしょう。ところが、あとでわかったことは、あなたの祖母は、最初の1時間をマイナス18度、次の1時間を60度の中で過ごすのです。平均は21度になります。祖母は亡くなってしまいます。
つまり、二つ目の情報(ばらつき)の方が、最初の情報よりはるかに重要だったわけです。平均という概念は、変化に脆い場合(祖母は気温の変化に脆い)には、何の意味もなさないのです。この二つ目の情報のことを「二次的影響」または単に負の凸効果と呼びましょう。
オプション性のある性質にもとづく手法が、いわゆる「賢者の石」に一番近いのではないかと思われます。一般的に、ペイオフが直線形的な場合は、全体の5割以上で正しい判断をしないと儲かりません。
ところが、ペイオフが凸である場合、それよりずっと少なくて済むのです。反脆弱性の潜在的な利益は、当てずっぽうより予測の精度が悪くても、当てずっぽう以上の成績がでる可能性があることなのです。ここにオプション性の威力が潜んでいるのです。「バカであっても反脆ければ好成績をあげられる」のです。
この隠れた凸バイアスは、イェンゼンの不等式という数学的性質に由来します。この点こそ、イノベーションに関する一般的な議論で見落とされている点なのです。
一方で、負の凸効果がある場合は逆で、これは当てずっぽうよりもはるかに正確に予測し、未来を理解しない限り、負の影響を打ち消すことはできません。これが脆弱性の潜在的な損失なのです。
まとめると、よい非対称性か正の凸性が存在しているという特別なオプションがある場合、長い目でみるとまあまあうまくいき、不確実性があれば平均を上回ることができます。また不確実性が増すほど、オプション性も増して、成績は一層よくなります。この性質は人生にとっても重要なのです。