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Liebe Nelly -親愛なるネリーへ-

Tokyo, 18.03.2022 Liebe Nelly, この間はWhatsAppでメッセージをありがとう。日本で起きた地震と、停電の中で夜を過ごすのはどんなに恐ろしいか、と心配してくれたのね。そして最後に、ウクライナで起きていることはあなたに聞かせるのは耐えられないだろうから、今は書かない、と書いてあった。あの夜、ぐらぐらと長く続いた揺れの後に、我が家も、窓から見るとご近所も真っ暗な中にあって、頼りないような頼りになるような懐中電灯の明かりを見ながら、私はマリオポリや

    • 手のひらいっぱいの...ドメーヌグラムノン

       手術には1時間ほどかかる予定です、と言われてストレッチャーに載せられて扉の奥に入っていった母は2時間過ぎても病室には戻らず、父と私はナースセンターの前や手術室の前をうろうろと行ったり来たりしながら、何か不測の事態が起きたのではと心配せずにはいられなかった。まだ麻酔から醒めきらない母がようやく戻ってきたのは、八月の終わりの、北海道の初秋の日が翳り始めた頃だった。意識を取り戻した母が焦点の定まらない目で私を見てまず言ったのは、「お父さんはどこ」。呼ばれた父は、まるで生まれたての