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彼女のこと~母の心配性日記~

これは離れて暮らす娘に起こった心身の不調と再生を見守った母のひとり言日記です。


みんな辛い時は多かれ少なかれそうだと思うのよ。
頭で分かっていても心はついていかないし、身体が不調だとうまく考えが及ばないものよ。
若い女性だとホルモンバランス、自律神経、栄養バランス、ストレスなどに影響されて、気分が上がったり、下がったりするのは当たり前。
でもさ、揺らぎながら打ちのめされながら、前を向いて生きていく。私たちだってそんな時あったよね。
そしてね、自分で越えていくしかないのよ。

2020年4月のこと

「緊急事態宣言が出たね、一体何だろうね?
娘はさあ、今までは毎日誰よりも早く出勤、仕事が大好きで、若い社員さんが多い会社は活気に溢れ、帰りは必ず会食。楽しくてしょうがないとキラキラした目でそりゃ充実した日々を送っていたの。
ところが一転、在宅フルリモートワークでしょ。毎日家で仕事ができるってすごいよね。今のところは全く誰とも会わない毎日をさほど苦には思っていない様子だけど、これからどうなるんだろうね。
ほらっ、アーティスト星野源さんが「うちで踊ろう」、三浦大知さんがそれに合わせてのダンスパフォーマンスを発表したじゃない。
これこれ。
https://youtu.be/j-lj3NPB-RY?si=cheLATkqZ50y4CWy

ダンスが得意な娘にリクエストしたら、早速に動画を送ってくれたわ。楽しそう踊っていて、保存して毎日観てる親バカよ。
仕事ね、実はこのタイミングで志願しての部署異動になってて、リモートで指導や指示を仰ぐ難しさや体温の感じられない新しい人間関係がどうもしっくりこないみたい。そりゃそうよね、今までとは真逆だもんね。
まあなんとかプライベートは仲良しの同期と部屋で過ごしたり、おしゃべりしてるみたい。それで細身の彼女をうらやましくなって、『ダイエットを始めてみた!』だって。うーん。

2020年5月のこと

「最近は毎日のようにLINEがくるわ。新業務には慣れないみたいだし、リモートだとなかなか聞けないしで、煮詰まってるみたい。もともとコツコツ与えられたことをやるタイプなのよ。意外とまじめ。新しい部署は華やかなイメージの割には数字にも強くないとダメらしくて、悪戦苦闘しているみたいよ。まあ慣れるにはまず3ヶ月と伝えてあるわ。
ダイエット?ああっ、順調みたいよ。油を使ってないもの中心のダイエットプレートの写真がよく送られてくるわ。肉はサラダチキンみたいよ。当然だけど外食しないから、カロリー計算もしやすいみたい。大好きなチョコレートやお菓子は我慢してるみたいだけどね。
そうそう、ランニングも始めたらしい。あの子がよ、あんなに走るのが嫌いなのに。おまけに筋トレもしているらしいのよ、運動嫌いなのにね(笑)YouTubeで憧れのモデルさんたちと一緒にがんばってるって。コロナ禍でも都合いいことあるものね。」

2020年7月のこと

「暑い日が続くね。仕事は相変わらずグジグジ言ってるわ。あの手この手で先輩をおだててみるけど、なかなか丁寧には教えてもらえないらしい。『分からないところ聞いて。』って言われて、『分からないところがどこか分からないんです。最初から教えてください。』と言いたいらしいわ。まあがんばりなさいと伝えといた。
それよりダイエットはうまくいってるらしい(笑)ブツブツが付いたゴリゴリするローラー使ってるらしい。熱中してがんばれることがあるって、こんな時期だからいいことなのかな。それにしても自分に厳しくないとできないよね。好きなもの我慢して、食事管理してなんて。四六時中カロリーや運動や筋トレのことばかり考えているんじゃないかしら。」

2020年8月のこと

「どこかへ出かけた?そうよね、買い物くらいよね?マスクあった?どこにもないよね。うちは布マスクせっせと母が縫っているわ。それに今私のフィールドは田舎の畑だから、密もほとんどないしね(笑)
娘?ダイエットだけが順調、仕事は壊滅的にダメらしい。ゼロか百なのよ、考え方が、適当にやればいいのにね。リモートだから寝転がったり、アイス食べたらいいのに、きちんとパソコンの前に座って、就業時間はきちんとしているらしいのよ。そこにダイエットの管理もして、どこで気を抜いてるんだろうね。パパ似のまじめだから仕方ないわ(笑)」

2020年9月のこと

「あの子、先日久しぶりに帰省したのよ。今少しコロナ禍も落ち着いているし、逆に祖父母たちに会える時に会っておかないとね。それがね、ダイエット成功して1番痩せているらしいんだけど、私からするとちょっと細すぎる、干からびて鶏ガラ感があるかな(笑)以前でも充分いい感じだったけど。ダイエットアカウントも作って、発信して、フォロワーも増えて、刺激しあって。すごい世の中になったものね。感心するわ。ただ、母としてはそろそろダイエットはストップして欲しいのよ。何か栄養が足りていない感じ。生理も止まっているってそれは驚くでしょ。ダメだよね。あの覇気のない顔みたらかなり心配になってきたわ。

2020年10月のこと

「みかんの繁忙期なのよ。青くて少し酸味のある極早生みかん。畑は誰とも密にならなくて助かるわ(笑)あれっ、この話前にもしたね。
ああっ、彼女のことね。ちょっとヤバくて心配なのよ。どこかで緊張が途
切れたのか、燃え尽きたのか、過食が始まったみたい。だからそれは今までの我慢のダイエットの反動だと思うよって話したわ。ランニングも筋トレもストレッチも全くできなくなったらしくて、サラダチキンを見るのも嫌らしい。栄養を取り戻すためにもバランスよく食べなさいって話したけど、甘いものやお菓子ばかり食べているみたい。困った。
仕事も相変わらずがんばれないらしくて、ダブルパンチみたいね。
声にも元気がないし、イライラしてて、感情もコントロールできないみたいだし、どうしちゃったんだろう。

2020年11月のこと

「最近は時々泣きながら電話がかかってくることがあるのよ。食べるのを止められないとか、買ってきたものを一気に食べてしまったとか。今は心が求めてるし、脳は止められないんだから、好きなだけ食べなさいって言うんだけど、せっかく痩せたのにブクブク太っていくし、食欲がコントロールできないし、自己嫌悪がひどいし、仕事はうまくいかないし、毎日泣いてばかりだしどうしたらいい?って。非嘔吐過食っていう接触障害だよね。心の緊急事態宣言だから帰ってきなさいって言っても、私が行こうかって言ってもとにかく県外への移動ってリスクが大きいよね。引っ越しして気分転換したいとは言ってるみたい。ちょっと物件見がてら顔を見に行ってみようかな。」

2020年12月のこと

「内見がてら娘に会ってきたのよ。11月22日誕生日だったの。あの娘いい夫婦の日に生まれたのよ。最悪の誕生日って泣いてたわ。娘のこととなると私も片腕もがれたようで辛いね。私と居ると少し安心感もあるのか、気が紛れるのか、いい感じなんだけど、ひとりになるとダメみたい。バースデープレゼントもすぐ食べ漁ったし、友人はどうしてあんなに少しだけ食べられるだろうとか、四六時中押さえられない食欲のことばかり考えてるって。リモート会議以外の時間はそんな自分が嫌で涙ばかり出てくるって。もう自分ではコントロールできない病気の域になってしまってるよね。
近くにいたら抱きしめてあげられるのにね。自分を見失っているようでとても心配。

2021年1月のこと

「クリスマスに引っ越したらしいわ。チキンもケーキも食べずに済むからって。何とか自力でできたらしい。焼き芋ばっかり食べてるって。毎日今日は過食しないと決めるのに結局食べてしまう自分が情けなくて辛くてと泣いてるし、もう消えてしまいたいと言うのよ。ひらがなばかりの体温が感じられない虚無感満載のLINEが届くと私も泣けてくるし、人って追い込まれると何も考えられなくなるんだよね。思考が止まってるわ。ベッドから起き上がれないし、涙は止まらないし、辛くてたまらないって。とうとうどこでもいいから心療内科を探して欲しいって言われて、急ぎピックアップして送ったわ。たどり着いてくれるといいんだけど。」

2021年2月のこと

「駅ビルにある心療内科へ行ったみたい。先生に『摂食障害とそれに伴ううつ病』と診断されて、薬を何種類か出されたらしい。まあひと安心ではあるんだけど、仕事も休みたいとか辞めたいとか嘆いてるし、他人なんて気にする必要ないのに、優しくしてくれるのに感謝できないとか、誰にも会いたくないとか、生きてる意味が分からないとか…。もう聞かされる度に私も吐きそうで胃がキリキリするし、自分のことのように苦しいし、変わってあげられないし、どうも何もしてあげられない。

2021年3月のこと

「心療内科の門をくぐったことで、たくさんの患者さんがいることに少しは安心したのか、ひらがなばかりのLINEは落ち着いてきたね。自分が太っていることなんて回りはさほど気にしていないし、リモートだからほぼバレてないし、体重計は捨てたって。もう好きなものをバランスよく食べることにしたって。そうしたら生理も戻ったって。義父が亡くなったので、葬儀にはとんぼ帰りできるらしいわ。顔を見られると安心するね。
とにかく身に起こったことを少しずつ整理して考えれるようになった兆しがあるといいな。

2021年4月のこと

「辛いピークはやっと越えたんじゃないかな。終わったことや起きたことは仕方ないし、生理が止まるほどのダイエットはかなり無理があったわけだし。身体と心と脳は連動しているから、健全な身体に豊かな思考が宿るってことよ。まだまだ仕事も不満だらけみたいだし、いつまた自分の気持ちがコントロールできなくなるやも知れないけど、ひとまず気持ちは落ち着いてきたみたい。ホント浮かれて調子に乗って勘違いした半年とそのおかしな思考のせいで心を失くした半年のちょうど合わせて1年、今は振り出し以上の体重だけど、これからバランスの取れた幸せな食事をすればいいし、笑顔で人に会えばいいし、太っていることをがっかりする必要ない。ましてや痩せていることを美化し過ぎて身体を壊して、心まで壊れてしまったら、私が懸命に育てた意味がないと伝えたの。
私の宝物だもの。いつでもどこでも健やかでいて欲しい。
自分で乗り越えていかないと本当の自分を取り戻せないよね。
きっと治るし、希望はある。



これがコロナ禍に起こった娘の摂食障害の顛末。見たこともないような表情の娘に私まで細胞が壊れてしまうような気がして、本当に辛かったのは本人なのに心配しかできず、何か助けになっていたのか、やっと今になって振り返ることができた気がします。
このことを経て、弱い心との付き合い方も身につけたようです。
まだまだ仕事や恋に悩んだり、苦しんだりしているようですが、それが人生を豊かにする経験だと信じて、彼女らしく生きていって欲しいのです。

私も私らしく生きてきたつもりですが、色んなことが色褪せてしか思い出せないようになり、記憶が彼方になるような今日この頃。そこで娘に了解をもらって、書き記してみました。ちなみに本人はYouTubeでこのことについて話しているようです。
この一連の気持ちがどこかの母娘のお役に立つことを願って。


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