見出し画像

AIはゲームレビューを書けるのか? 確実に変化する未来について考えてみた話

 私はゲームに関する取材/ライティングにも携わっています。ゲーム記者やゲームジャーナリストという肩書きで表現するとより伝わりやすいかもしれません。

 そんな中、テクノロジーの急速な進歩により、生成AIがさらに発達していくと、ジャーナリストやライターの仕事が減るのではないかという懸念をよく耳にします。

 確かに、AIの能力は日々向上していますが、私は広義のジャーナリズムの仕事はそう簡単には減らないと考えています。なぜなら、取材やその他の重要な業務は、まだまだ生成AIには難しいからです。AIには真似できない人間ならではの視点や経験が、ジャーナリズムには不可欠だと信じています。

 それは以前リポストした下記のポストの内容にも似ている部分があります。

 そこで今回は、ゲームジャーナリストの仕事の1つであるゲームレビューをピックアップし、「AIはゲームレビュー記事を書けるのか」という思考実験をしていきたいと思います。


ゲームジャーナリストの仕事の種類

ゲームジャーナリストの仕事は、意外と多岐にわたります。主な業務としては以下のようなものがあります:

  1. ゲームレビュー:新作や話題のゲームをプレイし、その内容や魅力を読者に伝えます。

  2. 関係者へのインタビュー:開発者や声優、ゲーム業界の重要人物にインタビューを行います。

  3. イベント取材:ゲームショウやリリースイベントなどを取材し、最新情報を読者に届けます。

  4. その他の関連業務:その他ゲームに関連する様々な記事の執筆なども行います。

 これらの仕事は、一言で言えば「取材」と呼ぶことができます。共通するのは、現場に足を運び、自分の目で見て、耳で聞いて、そして体験したことを総合的に分析して、わかりやすく読者に伝えるという要素があります。

 このような多様な仕事をこなすゲームジャーナリストの存在は、ゲーム業界と読者をつなぐ重要な橋渡し役となっています。しかし、AIの進化により、これらの仕事の一部がAIに代替される可能性もあると思います。

AIが書くゲームレビューについて

AIはゲームレビューを書けるのか

 それではAIがゲームレビューを書くことはできるのでしょうか。

 結論から言うと、AIはゲームレビューを書くことができると思います。ただし、それが面白いか、人間が書くゲームレビューと同じ価値を持つかどうか、それはまた別の問題だと思います。

 なぜAIがゲームレビューを書けると考えるのか、その理由を挙げていきます。

 まず、既にゲームをプレイする能力を持つAIが存在します。これらのAIは、人間のようにゲームを操作することができます。ゲームのクリアややりこみまでいけるかはわかりませんが、今後さらに進化していけばそれもできるようになるでしょう。

 また、最新のAIはマルチモーダル機能を持ち、テキストだけでなく、画像や音声も理解することができます。つまり、ゲームのビジュアルや音楽、効果音などの要素も分析できるということです。

 そうなると、ゲームプレイの難易度、ストーリーの展開、キャラクターの魅力、グラフィックの質など、ゲームを構成する様々な要素を客観的に分析することができると思います

 当然、AIは過去のゲームに関する膨大な情報を持っているでしょうし、それらと、プレイする新しいゲームと比較することができます。

 これらの能力を組み合わせることで、AIはゲームの要素を総合的に体験し、分析し、そしてレビューとして文章化することが可能になると思います。

Claudeに架空のゲームをプレイさせ、情報を与えレビューを書かせてみました

AIが書いたゲームレビューの魅力

 では、AIがゲームレビューを書けるとして、私たちはそのレビューを読みたいと思うでしょうか? そのレビューに魅力を感じるでしょうか? 私は「それはそれで魅力があると思います」と答えます。

 AIによるゲームレビューの魅力は、その客観性にあります。人間の感情や先入観に左右されない、データに基づいた客観的な評価が可能です。

 また、同じ基準で多数のゲームを評価し、比較することができるため、一貫性のあるレビューを提供できます。人間が見落としがちな細かい要素まで、漏れなく評価に含めることができるでしょうね。

 さらに、新作ゲームが発売されたら、24時間365日プレイをして、最速でレビューを生成できるでしょうね。

 一方で、AIによるレビューには課題もあります。最も大きな課題は、感情の表現ではないでしょうか。過去のゲーム体験があるからこそ生まれる感動や興奮を表現することは、AIには難しい可能性があります。あくまでもフラットな状態を持っているだけだと思うからです。

 また、ゲーム業界の歴史や文化的背景など、数値化しにくい要素の理解と表現もAIによるゲームレビューにおいては課題となるかもしれません。

 これらの魅力と課題を踏まえると、AIによるゲームレビューは、人間のレビューとは異なる特徴を持つ、新しい形のコンテンツとして位置づけられる可能性があります。

 今でも、ゲームジャーナリストの数だけ異なるレビューが生まれています。実際に、あるメディアでは高い評価を受けているゲームも、別のメディアではそれほどではないという現象が起きていますよね。

 そのように生成AIが書くゲームレビューは、「あくまでも生成AIがそう感じたんだね」という数あるゲームレビューの1つになるのではないでしょうか。

人間によるゲームレビューの独自性と価値

 ここまではAIがゲームレビューを書けるのか、そしてAIが書いたゲームレビューにはどんな特徴があるかを考えてきました。それではここからは、人間によるゲームレビューの特徴について見ていきます。

 人間のゲームレビューとAIによるゲームレビューの最も大きな違いは、その背景情報と文脈の理解にあると思います。知識量では人間はAIには勝てません。世界中のすべてのゲームに関するレビュー内容やプレイ経験を瞬時に参照できるからです。

 一方、人間のゲームジャーナリストがプレイできるゲームの絶対量は物理的に限られています。どうしても時間の限界がありますからね。また、リリースから長い時間が経っているゲームは、そもそもプレイすることすら難しい場合があります。

 しかし、この「知識の少なさ」こそが、人間ならではの視点を生み出す源になると私は思います。

 人間のゲームジャーナリストは、限られた経験と知識を基に、逆に言うと限られた経験と知識だからこそ、独自の視点でゲームを分析し、評価します。この不完全さが、逆説的にゲームレビューに独特の魅力を与えているのだと私は思います。

 例えば、あるシリーズ作品だけをすべてをプレイしてきたゲームジャーナリストを想像してみてください。そのジャーナリストは、シリーズ全体の変遷を体験してきた個人的な思い出や感情を基に、新作を評価することができますよね。

 これは単なる事実の羅列ではなく、長年のファンとしての視点を反映した、深みのあるレビューです。

 さらに、人間のゲームジャーナリストは、ゲームをプレイする際の感情の揺れ動きを生々しく表現することができます。

 期待と不安が入り混じった発売前の心境、初めてゲームを起動したときの高揚感、予想外の展開に驚いた瞬間、クリア後の達成感や余韻など、これらの感情の変化をリアルタイムで体験し、言葉にすることができるのです。

 人間のゲームレビューの価値は、単にゲームの内容を伝えることだけではないと思います。イベント取材やインタビューなど、ゲームを取り巻く様々な経験を統合し、多角的な視点でゲームを評価できることも大きな強みです。

 例えば、ゲームの発表イベントに参加し、その場の熱気を肌で感じ、開発者にインタビューして制作の裏話を聞き、そしてついに完成したゲームをプレイする。この一連の体験を通じて形成される感情や洞察は、AIには真似できない人間ならではのものです。

 このような人間ならではの「味」は、伝統工芸に例えることができるかもしれません。工業製品と比べれば不揃いかもしれませんし、時に欠点があるかもしれません。普通に使うだけなら工業製品でも事足りるものが多いでしょう。

 ただ、その不完全さゆえの温かみや、作り手の思いが込められた一点物としての価値がありますよね。

 人間のゲームレビューもまた、そのような存在と言えるでしょう。客観的なデータや事実だけでなく、レビュアー自身の主観や感情、そして長年の経験に基づく直感的な評価が織り交ざることで、読者の心に響くレビューが生まれると思うのです。

 AIの台頭によって、ゲームジャーナリスト、いえ、広義のジャーナリストやライターの仕事が変化していくことは間違いありません。

 ですが、それは人間のゲームレビューの価値がなくなるということではありません。むしろ、AIと人間それぞれの特性を活かしたレビューが共存し、読者がそれらを比較しながら、自分にとって最適な情報を選択できる時代が来ると思います。

 人間のゲームジャーナリストには、自身の経験と感性を最大限に活かし、AIにはない「人間味」のあるレビューを書き続けることが求められています。それこそが、AI時代における人間のゲームレビューの存在意義だと思うのです。

AI時代におけるゲームレビューの未来とは

 AIがゲームレビューを書く能力を持つことで、人間のゲームレビューにも独自の価値があることを見てきました。最後に、AI時代におけるゲームレビューの未来について、私の考えをまとめたいと思います。

 まず、AIによるゲームレビューは確実に現実のものとなると思います。AIは膨大な知識と分析能力を持ち、客観的で詳細なレビューを迅速に生成することができます。これはこれで、ゲーム業界や読者にとって新たな価値となるでしょう。

 例えば、発売直後の包括的なレビュー、複数のゲームの詳細な比較分析、あるいはプロンプトによるコントロールでプレイヤーの好みに合わせたカスタマイズされたレビューなど、AIならではの特徴を活かしたコンテンツが生まれるでしょう。

 一方で、人間のゲームジャーナリストによるレビューも、その存在意義を失うことはないと思います。むしろ、AIとの差別化を図ることで、より独自性の高い、価値あるコンテンツへと進化していくのではないでしょうか。

 人間ならではの感性、経験に基づく洞察、そして文脈を踏まえた評価は、AIには真似できない魅力です。

 将来的には、AIと人間のゲームレビューが共存する世界が訪れると予想しています。それぞれの特徴を活かしたレビューが並び立ち、読者はその両方を参照しながら、より豊かな情報を得ることができるようになると思います。

 さらに、AIによる客観的なデータ分析と、人間による主観的な体験レポートを組み合わせることで、これまでにない多面的なゲーム評価が可能になるかもしれません。

 こういったAIによるゲームレビュー、AIと人間の協業によるゲームレビュー、そして人間だけが書いたゲームレビュー。このように複数の方法で生まれたゲームレビューが並ぶ未来が来ると思います。ゲームレビュアーの1人としてAIが増えるだけ、そうとも言えるかもしれません。

 AIの発展は、ゲームレビュー、そしてゲームジャーナリズム、もっと言えばジャーナリストの世界に大きな変革をもたらすことは間違いありません。しかし、それは人間の創造性や感性の価値を否定するものでもありません。むしろ、AIと人間がそれぞれの強みを活かしながら共存し、より豊かなゲーム文化を築いていくのではないでしょうか。

 技術の進歩に伴い、ゲームレビューの形は変わっていくと思います。しかし、ゲームの魅力を伝えるという本質的な役割は変わりません。AIと人間、それぞれの「味」を活かしながら、この役割を果たしていく。そんな未来が来るでしょうし、それは意外とすぐ先の未来なのかもしれません。

ジャーナリスト / ライター:咲文でんこ

ここから先は

0字

■ このnoteについて AIやメタバースといった未来技術があなたの日常生活やキャリア、そして人間関…

ゆるふわサポートプラン

¥500 / 月
初月無料

もうちょっとサポートプラン

¥980 / 月
初月無料

もし、記事が面白かったらサポートをお願いします。日々の活動費に使わせていただきます!