第四巻 第六章 江戸幕府の安定

〇江戸城・本丸の一室
家康(六十三歳)と秀忠(二十七歳)が会話している。
N「秀忠に将軍職を譲った家康だったが、『大御所』として実権は保持していた」
家康「わしは豊臣家を滅ぼしたいわけではない……秀頼公が、公儀の一大名であることに甘んじてくれるのなら、これ以上戦をしとうはないのじゃ……」
秀忠「しかし、秀頼公はともかく、淀殿がそれを受け入れましょうか?」
家康「問題はそれよ……」
ため息をつく家康。
家康「千は、どうしておるかのう……」

〇大坂城・本丸の一室
秀頼(十九歳)、淀殿(四十三歳)、千姫(十五歳)が会話している。
淀殿「なりませぬ! 京都で家康と会うなど……何かの罠に決まっております!」
秀頼「家康どのがそのような姑息な方とは思われませぬ。ご安心を」
千姫「私もお祖父さまを信じております。それでも秀頼さまの身に何かありましたら……この千も生きてはおりませぬ」
秀頼「よくぞ申した、千!」
千姫を嫉妬の目で見る淀殿。目をそらす千姫。

〇二条城・御成の間
隣り合って座る、正装の家康(六十九歳)と秀頼。家康、秀頼の杯に自ら酒を注ぐ。飲み干す秀頼。
やや肥えてはいるが、たくましく凜々しい秀頼の姿に
家康(M)「これでは……!」
危機感を抱く家康。
家康(M)「せめてもう少し、秀頼公がぼんくらにておわせば……!」

〇大坂城・本丸の一室
秀頼(二十三歳)、淀殿(四十七歳)、千姫(十九歳)が会話している。淀殿、目を吊り上げて
淀殿「家康め! 鐘の銘の『国家安康』が自分への呪いだと!? 言いがかりにもほどがある!」
当惑して淀殿を見る秀頼と千姫。

〇大坂城に入城する真田幸村(信繁、四十八歳)
N「家康は言いがかりとも言える挑発により、大坂方を挙兵させた。大坂方につく大名は一人もおらず、大坂城に入城するのは真田幸村(信繁)ら牢人ばかりであった」

〇勇戦する幸村
N「幸村らは勇戦し、徳川の大軍を大坂城に寄せ付けなかったが」

〇徳川軍・陣地
指揮官「放て!」
大型の大砲が火を噴く。

〇大坂城・本丸の一室
轟音と共に砲弾が飛び込んで来て、部屋を目茶苦茶にする。巻き込まれた何人かの侍女も死ぬ。呆然とする淀殿。
侍女「お方さま、お逃げください!」
侍女に促されて避難する淀殿。
N「徳川軍の砲撃が本丸に直撃したことにより、恐怖した淀殿により講和が結ばれる」

〇大坂城・堀
廃材や岩石で堀を埋め立てていく徳川の足軽たち。それを見た豊臣の足軽
豊臣の足軽「何をする!」
徳川の足軽「講和の条件で『堀を埋め立てること』とあったろう!」
押しのけられる豊臣の足軽。

〇裸城になった大坂城
N「家康は講和条件を自分に有利に解釈、大坂城の堀を完全に埋め立てて、裸城にしてしまった」

〇徳川の大軍に包囲される大坂城
N「翌慶長二十(一六一五)年五月、再度徳川軍は大坂城を攻撃する」

〇茶臼山・家康本陣
家康(七十三歳)、大坂城の見取り図を前に家臣たちと話している。
と、伝令が飛び込んで来て
伝令「真田幸村の隊が、旗本たちを突破してこの本陣に向かっております!」
青ざめる家康。
小姓「大御所さま、早くお逃げを!」
促されて鎧を身につけ、馬に乗る家康。
家康一行が走り去った後、馬印が倒れる。
N「幸村は家康を討ち取るまであと一歩に迫るが、力及ばなかった」

〇燃える大坂城
N「五月八日、大坂城は落城し、秀頼と淀殿は自害した」

〇江戸城本丸・広間
居並ぶ大名に『武家諸法度』を発表する秀忠(三十七歳)。
秀忠「文武弓馬の道、もっぱら相たしなむこと……」
N「豊臣家を滅ぼした家康・秀忠は、『武家諸法度』で武家を、『禁中並公家諸法度(しょはっと)』で朝廷を統制」

〇壊される城
N「『一国一城令』で諸大名に、本城以外の城を破却させる」

〇城から出て行く牢人たち
N「幕府の意向に逆らう大名は、容赦なく取り潰されるか、転封された」

〇死の床の家康(七十三歳)
N「元和二(一六一六)年、これらを見届けて家康は七十三歳で死去した」

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