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北越雪譜 鈴木牧之

天保8年(1837)鈴木牧之、魚沼塩沢在の67歳の商人が紆余曲折の末に出版にこぎ着けた豪雪地帯・北越の生活を著した世紀の名著。
この岩波文庫版でも旧来の版を味わいを残そうと、漢字を新しくした以外は出来るだけ古い版での出版となっている。
それ故、正確に意味を取ろうとすると非常に読むのに時間がかかるが、そこは関係諸氏の意向を汲んで時間をかけてでもしっかり読むべきと思われる。
遅読の私は丸一月かかったが、大変満足し感動すらしており、多くの方に是非読んで頂きたいと切に願う。
旧版の書は味わいと共に共感と深い感慨がある。
私が北越・魚沼に近い長野民である故、江戸末期の生活でさえページをめくる度に頷くものも多い。
江戸末の教養ある文人の博識にも驚くが、考えればこの地方在の鈴木牧之を支える、教育と社会的安定を思えば江戸時代の中期以降の日本的ルネサンスの力強さは一体どうだ。

特筆すべき点が1点ある。
それはP302「××の娘なり」という差別用語がそのまま活字されている。
この理由を益田勝実氏はこのように語る、この部分は牧之が書いたのではない、「当時の権力が仕向け、社会の多くが盲従した差別を江戸文人が無批判に呼吸し当然と考えていたに筆に現れた言辞である。これを伏せて結果としてわれわれも隠蔽に加担するのではなく、京山の意識のその部分を批判し・・われわれの体内にも同種の意識を温存するしくみが生き残っていないか、手がかりにしたいと考えた。単純な原文主義でこの問題は解決できない。」
素晴らしい考えに共感したため長い引用ではあるが、略はあれどそのまま記す。