聖人君子じゃないけれど

今年の1月、会社を設立した。
それまではフリーのUIUXデザイナーとして細々と仕事を請けていたが、親戚が零細企業の経営者だらけなこともあり、自然な流れで経営者となった。
節税5割・なんか面白そうだから5割の、勢いだけで創業した会社。スタートアップがよく掲げる「世の中を変えたい」とか「業界を盛り上げたい」みたいな気持ちはほとんどなかった。

そんな軽すぎる気持ちで会社を作り一年が経とうとする今、やっとスタートラインに立った気がする。


今年の夏の初めから、富士通さん、JRさん、DNPさんが開発した「エキマトペ」というプロジェクトにデザインで関わらせていただいた。
エキマトペとは簡単に説明すると、耳の聴こえない人・聴こえづらい人へ駅の情報を視覚的にわかりやすくするための3日間限定のデジタル施策だ。キューとかシューとか、電車の音がオノマトペみたいに現れるので、エキマトペ。

エキマトペは9月に完成し、JR大塚駅に設置された。
完成した作品を現地でほっとしながら見ていると、たまたま補聴器をつけた子どもとお母さんらしき人が通りかかった。
その子はエキマトペを見るなり目をまんまるにし、ものすごい勢いでぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぎ出したのだ。その瞬間、これまで感じたことのない気持ちで胸がいっぱいになった。

さらにTwitterに何気なくいつものように実績紹介のつもりでエキマトペについてSNSに掲載したところ、すごい勢いで拡散された。その中でも、当事者の方や当事者がご家族にいる方から想像を超える数の反響が届いた。

私は今までの人生で、耳の聴こえない・聴こえづらい人(以下聴覚障害者と書きます)と接したことがなく、このツイートきっかけに絡んだ数人が初めてとなった。せっかく絡めて楽しかったので、もっと聴覚障害者の世界を知りたいと思った。

しばらくして、聴こえる人間たちが作った深い深い溝を知ることとなった。

聴覚障害者とは主にろう者(生まれた時から耳がほとんど聴こえない人)、難聴者、中途難聴者などのことを指す。特にろう者は、普段のコミュニケーションは手話がメインなことが多い。私たちにとって言語が日本語なように、彼らの言語もまた、手話なのだ。(手話にも2種類あります。詳細はこのサイトとかわかりやすそう:https://stnavi.info/dysphagia/hearing-impairment/post-550/)

しかし聴こえる人たちの社会に合わせるために、聴覚障害者は唇を読み取って会話を把握する読唇術を習ったり、口話を身につける人がいたり、手話で会話ができる機会がなかなかないことで、日常生活において大変な苦労を強いられていることが多い

耳が聴こえないだけで、言葉を口で話さないだけで、この社会で生きるのが著しく難しくなる。そういう現実を目の当たりにし、愕然とした。

なぜ聴覚障害者だけが努力を強いられている社会なのかを本気で理解できなかった。聴覚障害者だけではない。全てのなんらかの障害を持つ人たちがきっと経験しているであろうこの社会の難しい側面を、一般的に健常者と呼ばれる私たちは、見過ごすことしかできないのか。
これは絶対何かおかしい、と心の底から思った。

「なんとかしなければ」
私は急な使命感に駆られた。
手元にあるのは・・・ノリで作った会社組織と、いつの間にか蓄積されたデザインの知識。 
もしかしたらこの2つは、社会をなんとかするために持たされているのかもしれない、本気でちょっとそう思った。


先日、ifyoumeet.comというサービスをテスト的にローンチした。

筆談ができるwebサイトである。もちろん聴覚障害者の方にも役立てて欲しいと思っているが、私としてはむしろ、聴こえる人がもし聴こえない人に出会ったら積極的に使って欲しいなと思っている。

聴こえる人が、見える人が、歩く人が、それぞれ想像力を持つだけで、多分世界は少し良くなる。そんな想像力が生まれるきっかけは、デザインで作れるかもしれない。2022年はそんなことを、株式会社方角から発信していきたい。
かつては、誰かの役に立ちたいと公言するような人は心のものすごく綺麗な聖人君子で、そんな人たちに比べるとこんなにフラフラ生きてきた自分とはいる場所が違うと思い込んでいた。単純に、世界を身近に感じていなかっただけだった。別にわたしは今も聖人君子ではない。だからこそ、やる意味がある気がする。


ここまで読んでくださったあなたへ最後、私からぜひお願いしたいことがある。
コミュニケーションバリアフリー推進団体のNPO法人インフォメーションギャップバスターの理事長であり、私にとって初めての(簡単な)手話でお話できる友人である伊藤さんが、現在署名活動を行っている。

厚生労働省が策定中の「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針(案)」について、パブリックコメントが12月に始まった。しかし手話で説明がなく、手話でDVDに入れるなどの方法で意見を提出できない。
前述のように手話は、多くのろう者にとって大切な言語である。したがってこれはろう者を排除することにつながりかねない。
地方自治体では手話による動画の提出などが実際に行われている。同じように国にも対応をお願いしたいというオンライン署名である。
詳細は伊藤さんが開設した下記オンライン署名サイトをご覧ください。
ぜひご協力いただけますと幸いです。よろしくお願いします。

▼聞こえない人も手話でパブコメ(公募意見)を出せるようにしよう!


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