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[奇談綴り]サソリ

ある日のこと、遠くに住んでいる友人が泊まりに来た。
事情があってホテル代わりに使わせてほしいとのことで、2日ほど泊まって、特に問題なく帰っていった。

数日後。
件の視える友人が「旅行の土産を渡したいから」と遊びに来た。
土産を受け取って、せっかくなので開けてお茶と一緒に出そうとゴソゴソやっていると、なんだかしきりに呼ぶ声がする。

「ねえ、友達来てたって言ってたよね…。もしかしてそこに座ってた?」
どうしたのかと思ってそちらを向くと、居間の一点を指差して、かなり真剣な顔で見つめている。

「日中は仕事で居なかったから分からないなあ。
夜はもうちょっとズレた位置にいたけど、ちょうど座椅子のある場所だし、そこに座っていたかもしれないね。」

友人はなおもじーっと同じ場所を見ている。
そして、こんな人だよね、と風体を完全に言い当てた。もちろん会わせたことも、写真を見せたこともない。

「あのね…いいにくいんだけどね。
そこに膝を抱えて座ってる姿が見えるの。この部屋が羨ましかったんじゃないかなあ。
生霊とかじゃなくて残留思念とかそんなのの強いヤツだと思う。」

「それでね…これが本題なんだけど、その人、サソリっぽい何かに腰から下を食べられてる。
まとわりつかれてて、徐々に食べられてる状態なんだけど、思い当たることある?」

ちょーーーーーー!!!!
いやまって…なにそれ、半分食べられてるってなに?!
普通だったけども。ゼロ感には見えない何かを害されてるってことか!!!

実は思い当たることがないでもない。
仲良くなったきっかけがお見舞いなのだけど、その病気は原因不明で、確かに腰から下だった。
「ないこともないけど、なんでそんな事に? すごく怖いんだけど、なんか対処方法ある?」

「うーん…これ家系に関係する何かじゃないかな。簡単にどうこう出来ないんだよね。今見てるのも残像だし。
今すぐなにか起きるわけじゃないから、どうにかして影響を薄くできればいいんだけど。」

話を聞いて真っ先に思い浮かべたのが『蠱毒』。
ザックリ説明すると、まずツボに様々な毒のある生き物、たとえばサソリとか蛇とか蜘蛛とかそんなものを大量に入れて蓋をし、食べ物を何も与えず中で争うがままにしておき、最後に生き残った一匹を使って呪いをかける、というものだ。
素人ができる呪法ではないので、仮に蠱毒だとしたら完全にプロの仕事になる。
友人はどこからどう見ても一般人で、プロに呪われるような事は全く思い当たらない。そもそも日本にサソリはほとんどいない。
なるほどご先祖由来かも知れないな、と考えた。

気にしなければいいだけかもしれないが、他人ながらに病気の他にも細々と思い当たる節があり、考えれば考えるほど怖くなる。
とはいえゼロ感の一般人なので、出来ることはものすごく少ない。
「旅行に行った」という体で、憑き物払いを得意としている神社の「一代守り」という生涯取り替える必要のないお守りと御神水を買ってお土産として渡す程度になった。
もうひとつ、アロマが邪なものを多少は退ける、という話を聞いたので、それっぽいブレンドのルームフレグランスもつけた。

贈り物は普通に受け取ってもらえたつもりでいたのだが、突然すぎて疑問に思ったらしい。
結局、数年後に問い詰められて理由を話す羽目になった。
縁切り覚悟でサソリ云々まで話したのに笑っていたので、やっぱり気にしすぎだったかな、と安心したら、実は思い当たるフシがあるそうで、こちらが言う前に「蠱毒っぽいよね」と言ってきた。

なんでそんなレアな呪法の名前がすぐ出てきますか…? いやそういえばオカルト大好きだったっけ。

「他人に話すことじゃないから言ってなかったけど、ご先祖がかなりやらかしてるんだよね…。
そういう呪いがかかっても不思議じゃないくらいにやらかしてるからさ。
自分でも調べて対応してみる。」

!!
ちょっとー!!!
ここにもオカルト属性強いのいたー!!!

その後どう対処したかはわからないが、その友人は今でも元気に過ごしている。
怖いので対処方法は聞いていない。

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