高校3年生の頃の話
<文字数:約4800字 読了目安時間:約9分>
友達と友達の邂逅
今回のクラスは、高一の頃のゲマ君と、高二の頃のナンバ君が一緒にいる。別の友達が同時に存在する…あのゲマ君とあのナンバ君が…あの頃の恐怖を思い出してしまう。中一の頃に、別々の友達を引き合わせる気まずさを。しかし、実際には普通にゲマ君とナンバ君は普通に話している様子だ。僕は、変にいたたまれないような気持ちになってしまう。だけど現実には大きな問題はなさそうだった。それにしても、ゲマ君の強烈なネガティブさをナンバ君はどう思うのだろう?そんな事をついつい考えてしまう。
受験勉強
ここでの勉強が一生の幸福度に関わると信じている。だからひたすら勉強の事ばかり考えている。最近は絵の練習もしていない。勉強するのもテストを受けるのもいいけど、進路について本気で向き合うのは結構憂鬱だった。この高校内ではトップクラスだとしても、京都大学のレべルには全く届きそうにない事がわかってきた。「赤本」という過去の受験問題を収録した問題集があるらしい。どうしてこんな良いものを早く教えてくれなかったのか。もっと早くこれに出会っていれば。
ネットと創作
勉強ばかりやっていてしばらくネットに触れなかったが、いろんなサイトを巡ってみると、素人の作るものが面白くて仕方がない。MIDI音楽、RPGツクール、フリーゲーム、FLASH動画、そしてWEB漫画。混沌としたコンテンツに溢れている。インターネットでしか見る事ができないフザケっぷりが好きだ。既存のパターンをぶち壊す作品群。面白過ぎる。そのうちのひとつ、面白いサイトを運営しているある人がいた。彼の名前は「ベンビロンブバンボ」。心の中で憧れのアニキ的な存在の一人だ。絵も上手で、漫画も描いていて、ギャグも面白くて、音楽も作っていて、驚く事にゲームまで作っていた。ブログの発言は為になるし、面白く共感できる。カリスマを感じた。時々その人の文体を真似るようになった。自分でもそのうち、彼のように大きなコンテンツを作ってみたい。受験が終わったら動き出そう。
知られざる神曲の作者
匿名掲示板「ちゃんねるぼっくす」の「音楽投稿スレ」で、何気なく投稿された音楽をクリックしたら、震えるほど美しい音楽が流れた。音色はチープだが、そんなのがどうでもよくなるほどに、メロディやハーモニーのセンスに深く感動を覚えた。ジブリのような景色が連想される。作曲者は中学三年生だという。音楽科の受験に合格したばかりらしい。その掲示板の反応としては叩きコメントもあったが、絶賛の書き込みも数件寄せられていた。僕はその曲が本当に気に入った。曲名で検索して、作曲者のブログを見つけ、コメントを送ってみた。
「偶然2ちゃん系のスレで見つけました。素晴らしい音楽だと思います!」
「ありがとうございます!嬉しいです!是非、今後ともよろしくお願いいたします!」
憧れの作曲者と少しだけ交流してみると、満たされてしまって、以後交流しなくなってしまった。
妹のハマっている漫画
近頃、妹は「鋼の錬金術師」や「銀魂」にハマっている。ハマり過ぎて、雨が降ると「無能!」と言ったり、マヨネーズを見るだけで「マヨラーじゃん!」と言って、よくわからないツボに入って笑い続ける。そんなレベルでハマっている様子だった。
漫画ミュージアム
そんな中、家族5人が揃って車に乗って田舎に遠出して、帰ろうとしていた。運転手は父だ。田舎の方を車で走っていた時、目的地とは違う方向に、「漫画ミュージアムはここから10km」という看板が見えた。信号が赤になって車が止まっている間、妹がそのミュージアムとやらに行きたいと言った。母が難色を示した。
「えー…そんなに行きたい…?」
母の声色から、行きたくない気持ちが伝わって来る。妹が言った。
「行きたい!」
兄が母に同調しているのか、こう言った。
「多分、サザエさんとか、手塚治虫とか、のらくろとか、そういう古いのかと。最近の漫画は無いと思う。」
父は運転手として、決断を迫るようにはっきり言った。
「どうするん?行くのか行かんのか!決めて!」
青信号に変わると、父の運転する車は目的地にまっすぐ進んだ。妹の意見は通らなかった。いつも騒がしい妹は黙ってしまっていた。僕は何も言えなかったが、内心では思う所があった。もし残念な施設だったとしても、行ってみればよかったのにな、と思った。
自作漫画破り事件
こっそり描いていた自作漫画があった。A4用紙を折ってホッチキスで止め、鉛筆で描いたようなオリジナルの漫画だ。内容は、小学校の頃に自由帳でクラスの皆に見せたものをリメイクしたもので、自己満足でこっそりと描いていたものだ。ある日、棚の上に隠していたのに、妹に見つかってしまった。
「スゲー!これ、みんなに見せよう!」
よりによって、親戚が家に来ているタイミングだった。僕は断固として見せたくなく、拒否の姿勢だった。こんなものは見られたくない。何故なのかはわからないが、見せるものでは無い。僕は妹の手から無理やり自作漫画を奪い取った。そして、今までに見せた事のない態度で妹を睨んだ。そして漫画を両手で持ち、自作漫画を破るフリをした。
「どうせ、破れないんじゃね?」
妹が言った。それを聞いて僕は少し感情的になってしまい、自分の漫画をビリビリ破りまくった。そして、ゴミ箱に捨てた。妹は驚いた。
「おかあさーん!」
と叫びながら母のいるリビングへと向かった。変になっていた。自分の手で自分の漫画を破ったのだ。冷静になり、自分の異常な行動を認識した。ごみ箱の中にある自分で破った漫画の欠片を拾い上げた。紙切れをひとつひとつ、セロテープで繋ぎ合わせた。どうしてこれほどまでに、自分の漫画を自分の家族や親族に見せたくなかったんだろうか。どうしてこれほどまでに不快で苛々するのか。本気で描いた漫画を家族には見せたくない理由はわからない。
難関大学
受験勉強に毎日取り組んだ。本当は東京大学か京都大学に行けるくらいに学力アップしたかった。しかし、「ベネッセ」の評価ではE判定が続く。到底無理そうだ。そんなわけで、今現在のレベルで進路を決めなければならない。僕は進路を具体的に決めるのがなんとなく嫌だった。渋る僕に父親は言った。
「わかるよ。自分の選択肢が狭くなっていく感覚があるんだろう?ワシも昔そう思った事がある」
確かにその通りだった。父にしては的確に僕の内面を言い当てたと思った。
志望大学
「大阪大学」を受けようと思った。模試の点数から出された予測では、大阪大学は合格圏内だった。多分、物理系の学部を受験すれば、65パーセントくらいの可能性で合格可能だ。もし合格すれば、ようやく過保護な親と離れてひとり暮らしができるようになる。僕は大阪大学の物理系の学部を第一志望にした。
親による志望大学決定
その事を親に伝えた時、父も母も、全然嬉しそうではなかった。
「でも、お金が…」
そんな事を言っていた。親の意向で、僕の大阪大学を志望したいという意思は却下された。
「でも、一人暮らしは大変よ。心配だわ。」
父が言うには、
「お前は一人で買い物もできない、電車にも乗れない、アルバイトもできない。そんな子を一人暮らしさせる親の気持ちになってみろ。獅子は我が子を千尋の谷に落とすとも言うが、さすがに心配なんよ。わかってくれ。」
その結果、大阪大学を受ける事はできず、地元である岡山の「岡山大学」を第一志望として受験する事になった。親の判断だ。親の一存によって、自分の人生がいとも簡単に決まってしまう事が、ここで強烈な形で突き付けられた。今まで、親孝行の為に勉強してきた気持ちは、全部裏返しの形になって、完全に否定された形になるのだった。
合格
そして「岡山大学」には、なんの張り合いもなく、あっけなく合格した。
ネットをやろう
いくら勉強をしても、親の一声でいとも簡単に全てが無駄になると言う事がわかった。ならば、親に関係の無いなにか、もっと別の事をやろう。そう、インターネットで本格的に活動をしよう。
ゲームを作ろう!
パソコンに詳しい兄は、ゲームを作る方法を知っているらしい。是非、自分も作ってみたいと思った。兄の作ったゲームは非常に簡単なもので、ボタンを押せばキャラが移動するようなものだった。「HSP」というゲーム制作の方法があるらしい。僕は衝撃を受けた。兄はパソコンに詳しいのは分かっていたが、まさかゲームすら作れる技術を持っていたのか。ゲームを作る事なんて、夢のまた夢だと思っていた。現代、技術の発展した今では素人にも作れるらしい。
もしも自分自身でゲームを作る方法があるのなら、昔から抱いていた空想を形にしたい。僕はゲーム作りに没頭した。難しいアルファベットの文字列に圧倒されていたが、頑張って理解しようとした。一週間くらいで、ようやく作り方がわかってきた。簡単なシューティングゲームを作ってみたら、兄の大学で紹介してもらったらしい。
兄から簡単なスクリプトによるゲーム開発の良い解説サイトを教えてもらったのだ。自分一人ではそんな世界を知らなかっただろう。作る事を覚えると、構造やパターンを分析する癖がついた。平凡なものがますますつまらなく感じる。聞いたことが無いような手法に面白さを感じる。非凡なものを面白く感じ、平凡なものをつまらなく感じるのだ。
サイトを立ち上げよう!
ホームページを作ろう。やり方を調べ、「インフォシーク レンタルサーバー」と呼ばれるサイトに登録し、ホームページを記述するための文法であるHTMLを自分で書いて、ネットにUPした。未来のためになると思うと、わくわくしながら作業できた。自分の想像を形にできることに心の充足を感じる。音楽を作りまくり、気が変わったら絵を描きまくり、気が変わったらゲームを作りまくった。常に作りたいものを作れる。ネットでの創作活動は退屈しなかった。
最近よく観る夢
最近、定期的に家族が死んで泣く夢をよく観る。母が死んだ、と思ったら夢だった。父が死んだ、と思ったら夢だった。家族のだれかが死んで泣く夢をよく観る。気が付くと枕が濡れている。一週間に一回くらいの頻度で見る。つくづく夢でよかったと毎回思う。
人生をどう考えるか
受験勉強をする必要はもう無い。自由な時間は増えるのではないか。ネットの面白さを追求する時間はあるはず。
将来どうするかといえば、大学がどういうものか次第だ。大学ってどういう感じなんだ?
高校の友達レビュー
卒業式という儀式が終わった。もう高校は終わりだと思うと、なんだかんだ思う事はある。高校の三年間で、友達がどれだけできただろうか。6人くらいかな。まずはゲマ君。次に川野君。だけど彼は僕を友達と思うだろうか。高二では、ナンバ君、ホリヤ君、タケウチ君。…食堂メンバーもいる。高二の頃の事を思うと悪くない生活だったと思う。そして高三ではなんだかんだで、ゲマ君とナンバ君がたまたまいてくれたからやっていけた。そんな高校生活も、今日で最後だ。
最後のゲマ君
最後の日は、ゲマ君と一緒だった。二人自転車で学校の校門から離れた。客観的に見れば学ランの男子生徒二人が自転車を漕ぐというごく普通の珍しくもなんともない風景も、僕とゲマ君にとっては少し特別な瞬間となる。彼と距離感が分かっているからこそ成立する会話のテンポで、いつもと同じようでいて、違うような事を話す。卒業式を終えた僕とゲマ君との会話だ。
「うん」
「だよな」
踏切のところでお別れだ。お互いに自転車を止めた。
ゲマ君は言った。
「ここでお別れか?ま、もう二度と会う事もないだろう。」
「…それはどうかな?」
「進路が全然ちがうだろ。」
「…最後までネガティブだな。」
「……」
「お互い生きている限りは、会う可能性があるだろう。」
「どうだかな。」
「……」
「じゃな。」
「フッ」
踏切のバーがあがってしばらくした時、お互いに手を上げて合図をした。
「じゃ。」
「じゃあ。」
大学 https://note.com/denkaisitwo/n/n5cd55453f8d3
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