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お薦めマイナー本#5 ほら吹き男爵の冒険

 『ほら吹き男爵の冒険』は、実在の18世紀のプロイセン貴族・ミュンヒハウゼン男爵が語ったとされる奇想天外な物語を集めたものです。この物語の主人公”ミュンヒハウゼン男爵”ことカール・フリードリヒ・ヒエロニュムスは、現・ドイツの実在の人物です。最初の本は18世紀に書かれましたが、19世紀に数多くの作家たちによって加筆され、さまざまな言語に翻訳されたため、物語には100以上のバリエーションが存在します。映画化もされているので、欧米ではメジャーな読み物ですが、日本ではあまり知られていないんじゃないかと思います。

 『ほら吹き男爵の冒険』は、話好きのミュンヒハウゼン男爵が語ったフィクションを交えた体験談が元になっているということですが、話自体は本のタイトル通りに”壮大なほら話”です。そのため、ミュンヒハウゼンという名前は、ミュンヒハウゼン症候群という精神疾患に使われています。ミュンヒハウゼン症候群とは、周囲の関心や同情をかうために懸命に病気と闘っている姿をアピールしたり、精神的満足感を得るために病気や重病であることを装ったりする精神疾患のことです。ミュンヒハウゼン男爵は、この不名誉な命名に天国で憤慨していることでしょう。

 ミュンヒハウゼン男爵とほぼ同時期に、ヨーロッパにはサンジェルマン伯爵という謎多き人物が実在していました。彼が本当の貴族かどうかは不明ですが、爵位だけで言えばサンジェルマン伯爵の方がミュンヒハウゼン男爵よりも格上です。サンジェルマン伯爵は、出自が不明ですが、才能豊かな人だったことは確かなようです。伯爵は、ピアノや絵画などの芸術方面にも通じ、確認出来るだけでもギリシャ語、ラテン語、サンスクリット語、アラビア語、中国語、ドイツ語、イタリア語、英語、ポルトガル語、スペイン語などに堪能だったそうです。

 サンジェルマン伯爵の逸話で、とっておきが不老不死です。伯爵は、自身を老いることが無く、死を超越した存在であると自称していました。サンジェルマン伯爵に会ったことがある人達は、数十年経っても容姿が変わらなかったと証言していますので、若作り(童顔?)ではあったみたいです。次に一つだけ覚えている、サンジェルマン伯爵のエピソードを紹介します。

 サンジェルマン伯爵が、エジプトでクレオパトラと面会した話をしていた時でした。その話が怪しいと思いつつも、伯爵の博識と巧妙な話術のため、誰も論破できませんでした。一計を案じた知恵者が、古くから仕えているという従者にこっそりと「伯爵のクレオパトラの話は、本当ですか?」と聞きました。従者は答えます。「私はまだ400年ほどしか伯爵にお仕えしておりませんので、それ以前のことはわかりかねます」。従者まで教育が徹底していました。

 『ほら吹き男爵の冒険』の記事を書いていたら、ジョージ秋山先生のマンガ『ほらふきドンドン』を思い出しました。たしか少年マガジンに連載されていたと思います。これも”大法螺吹き”の話ですが、主人公”ドンドン”は貴族ではなく、日本のお坊さんです。


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