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短編小説 『あんた、あの娘の何なのさ』

 大都会の繁華街も、表通りから一歩入れば、別世界が待ち構えている。ゴミゴミした狭い路地の、何かが腐ったようなえた匂いのする別世界は、余所者よそものを排除するかのような負のオーラを放っていた。

 俺は、数年前に実家を飛び出したキョウダイの有紗ありさを捜している。有紗は、ある事情が元で両親と喧嘩し、それ以来、音信が途絶えている。俺は有紗と仲の良かった女友達から聞いたわずかな情報をもとに、この町に来ている。有紗はこの町のバーで働いていたと、その女友達から聞いた。有紗というのは両親が付けた名前ではなく、そのバーで働いていた時の源氏名げんじなだ。

 そのバーの名前は、ハードロックの王者の名前を冠した”レッド・ツェッペリン”だ。派手な装飾の入口に反して、中は地味な作りになっていた。カウンターが6席だけある小さなバーだ。照明は薄暗く、常にBGMにロックが流れていた。

「いらっしゃい、お客さん。ここは初めてですね」
「客じゃないんだ。ちょっと人を探しているんだ」

 カウンターの奥にいたマスターが、客じゃないことを知って、怪訝そうな顔をした。俺は構わずに、ポケットから写真を取り出して、マスターに切り出した。

「この有紗というを知らないか?」
「いつ頃の話だい?」
「一年くらい前らしい」
「半年くらい前なら覚えてるが、一年前だとちょっと自信がないなぁ。写真をもう少しよく見せてくれないか」

「ストレートヘアの髪の長いなんだが・・・」
「髪の長い娘はたくさんいるからなぁ・・・。悪いけど、他を当たってくれないか」
「もう少しよく見て下さい。確かにここで働いていたと、知り合いから聞いたんです」
「ところで、あんた、あのの何なのさ?」

「有紗は、俺のオトウトだ!」

 しばらくの沈黙の後、有線から懐かしい『ダウン・タウン・ブギウギ・バンド』の『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』が流れてきた。

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