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驚きの発想#1『重力への挑戦』

 小説は、ストーリーが面白くなければ印象に残りませんが、状況や主人公の設定自体が面白いと思った本が、結構あります。何回続くかわかりませんが、個人的に面白いと思った作品を少しづつ紹介したいと思います。

 サイエンスフィクション(SF; 空想科学小説)は、それこそ発想が自由で、色々な状況や主人公が設定できます。しかし、ホモサピエンスであるSF作家は意外と保守的で、宇宙人(異星人)にもその保守性が色濃く残っています。確かに、多種多様な○○星人がいますが、バルタン星人やメトロン星人など、基本的にはどれも”二足歩行”です。スターウオーズに出てくる異星人たちも、ほとんどが二足歩行です。二足歩行以外の異星人は、ほとんど見たことがありません。

 『重力への挑戦』は、ハル・クレメントの書いたハードSFです。原題は『Mission of Gravity』なので、直訳すれば”重力の使命”です。実際、旧訳版では『重力の使命』となっていますが、内容がわかりやすいように新訳版になって『重力への挑戦』と改題されました。タイトル図は、旧訳版『重力の使命』の表紙の一部です。

 この小説では、巨大惑星・メスクリンが物語の舞台です。ちょっと似ていますが、バスクリンではありません。メスクリンは特殊な惑星で、メスクリンの赤道付近では地球の重力の3倍(3G)、極地では700倍の重力(700G )がかかります。やわな体を持つ人類では、赤道付近がギリギリ耐えられる限界で、極地方には足を踏み入れることができません。しかし、事故のため地球人を乗せた調査ロケットが、不幸にも南極地域に落下してしまいます。そこで人類は、現住生命体であるメスクリン人に協力を要請します。

 メスクリン人は、体長40センチでハサミを持つ36本肢の異星人です。我々の感覚だと、到底”人”とは呼べない外見をしています。この物語は、メスクリン人チームによる、『ミッション・インポシブル』です。重力に適応した体を持つメスクリン人ですが、体長が小さいだけに、さまざまな困難に直面します。はたして、メスクリン人達は人類を救出することができるのか?。

 高重力の環境下では、一体どのようなことが起こり得るのかを、想像だけで書いた本作品は、まさにSFの真骨頂です。


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