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№279 正しい「人喰いトラ」の取り扱い。前編


「人喰い虎」というのがいます。

文字通り、人間を食用にしている虎のことです。

そして
こうした物騒な呼び方が成立しているのは、
そんなことをするのは
虎の中でも特殊な存在なのだ!という事情が
そこにあるからです。

一般の虎が、一般に人を喰うのなら、
「人喰い虎」などという呼び方は必要ではありません。

それらはただ「虎」と呼ばれ、
動物図鑑の《習性》の項目に、
「彼等は人を喰うよ」という注釈をつけておけばいいだけの話しです。

しかし、そうでないところをみると、
やはり「人喰い虎」は特殊な存在であって
恐らく、一般の虎より希少な存在なのでしょう。

何故なら、「人喰い虎」の方が
一般の虎より多い場合、
ボクたちはそっちを「虎」の名において総称して、
そうでない虎の方を
「人を喰わない虎」と呼ぶはずだからです。

そしてまたこの「人喰い虎」は、
特定の地域に棲息するそうした特性をもった集団を、
総称するものではありません。

それは常に
一般の虎から選び分けられて使われる呼び方であるように、あらゆる特定の地域においても
そこから選び分けられて使われる呼び方です。

つまり、
この地域に棲息する虎がすべて「人喰い虎」であり、
他の地域に棲息する虎が、
すべてそうではない、ということはあり得ないのです。

これは集団の特性ではなくて、
個の特性なのであり、
もっと言えば、集団が集団として成立するため、
それが選び出した特定の個に課した特性なのです。

もちろん虎は群棲しないと、
一般には信じられています。

彼等はそれぞれ個別に、もしくは最小の家族単位で、
密林の中の生活を楽しんでいるように見えます。

そして「人喰い虎」も、
そうした中の一頭であるかのように見えますが
実はそうではないのです。

彼等はいっけん!そのように見せながら、
実際上は常にゆるやかな集団を形成しつつあるのであり、
その目に見えない圧力が、
選び出された特定の一頭を「人喰い虎」となるべく、
強制しつつあるのです。

しかしそれでは、
「人喰い虎」の特性とはどのようなものでしょうか?


何度も言うように、
「人喰い虎」というのは、人を喰う虎のことです。

そして、一般の虎は、
皆さんの期待値ほど高くなく、そんなことはしません。

何故か?

それは、「不味い」からです。

人肉が食用として耐え難い代物であることは、
公にこそされていないものの、
古来よりよく知られた事実です。

「ガリバー旅行記」を書いたスイフトが、
「幼児を食用に供すべし」と主張したのは有名な話であり、他にも、これに類する主張は度々くり返されてきました。

にもかかわらず
遂にこの建設的発言が実行されなかったのは、
ボクたちのセンチメンタリズムによるところも
大きいのですが、
それ以上にそれが「不味く」て、
「とても食えたものじゃない」という代物だったからなのです。

かつてポリネシア地方には、
「人喰い人種」と呼ばれる人種が棲息していました。

人喰い虎がそうであるように、
かつて彼等も人を喰っていたのです。

もちろん、今はそんなことはありません。

彼等が種族として滅ぼされたのではなく、
かつてそうであった同じ種族が、
反して今はそんなことはしなくなったのです。

何を反省したのでしょうか?

この地域を調査した或る民俗学者によると、
かつてこの地域の人々が人を喰ったのは、
「どうしてそんなことをしてはいけないのか、わからなかったから」なんだそうです。

だとすれば彼等は
「人を喰うのは悪いことである」という、
文明人特有のセンチメンタリズムに感染して
それを反省し、その結果
人を喰うことをやめたのでしょうか?

どうやら、そうではないようなのです。

実に長いこと彼等は、
ボクたち文明人に接していたにもかかわらず、
そのセンチメンタリズムには感染しませんでした。

これに感染するためには、
彼等はあまりにも健康すぎたせいかもしれないのです。

というのも実に彼等は、
その文明人を喰ってみせたから。

それに感染する前に、
めっちゃ慌てて喰ってしまったのではありません。

記録によりますと、
彼等は来訪した文明人をかなり長期に亘って観察し、
文明人の主張するところもよく聞き、理解し、
その上で喰っているのです。

従って、文明人の教育が、
彼等に反省を促したのではないことは、
充分に明らかなのです。

歴史によりますと、
彼等に人を喰うことを反省させ、
やめさせたのは、
彼等に文明の恩恵を施そうとしてやってきた
多くの宣教師たちではなく、
実に一人の豚肉輸入業者であったそうなのです。

これはいったいどういう事なのでしょうか?

さて、この続きはまた明日に書きますね。

現場からは以上でーす。





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