正論オ〇ニー
1年前、俺は新しいバイクを購入した。
SUZUKI ジクサー250である。
このバイクは元々インド向けに開発されたもので、フェンダー(泥除け)が2つている。
バイクに乗っている人なら大体分かると思うが、こうしたフェンダーはデザイン的に野暮ったくて邪魔くさい。
ライダーの中でもフェンダーを外している人は多いだろう。
もちろんフェンダーを外すことには、雨天走行等で水や泥を歩行者にはねてしまうリスクや、自らの背中に水がかかってしまうといったデメリットがある。
しかしそれでも
フェンダーが無い方がカッコイイ。
分かりづらい写真で申し訳ないが、フェンダーが無い方がスッキリして見えるだろう。特に大型二輪は後輪のサイズが大きいので、むき出しのリアタイヤには迫力がある。
実際にフェンダー無しのバイク(特にリアタイヤ)を見ると本当にカッコいい。
飛ぶぞ。
「お洒落は引き算」とはよく言ったものである。
で、話に戻るが。
俺は先ほどのジクサー250のフェンダーを外したかった。特に2つ目のフェンダー、タイヤにくっついている方だ。
なぜなら、ボルトを回すだけで簡単に取り外せるからである。(一つ目のフェンダーを外すには、専用のキットを購入しないと行けない上に作業も大変。)
さて、フェンダーを外したい。
しかし、どうしたものか。
家の工具箱を探しても、ボルトを外せそうな工具が無い。
かといって、このためだけに工具を買うのも気が引ける。
作業としても、わざわざお店に持って行くほどのものでもない。
そこで、俺は工具を借りるという選択をした。
幸い、工具を持っている知り合いは沢山いた。
その中でも、家が近く、かつバイクも所有しており、乗り物に詳しい知り合い「J」に借りることにした。
(Jに借りに行ったことを激しく後悔するのは、まだ先の話である。)
とりあえず、LINEを送る。
そして、Jから更なる返事が来た。
まるでワケが分からなかった。
「馬鹿にしてるわけじゃないけど」 という前置きの意味が分からない。
ただ単に工具を貸してほしいという話をしているだけなのに。
ただ、「何でトルクレンチが必要だと思ったの?」という所で、俺が工具の名前を間違えていたのかもしれないと思った。
ここでようやく意思疎通が叶った。
どうやら俺が工具の名前を間違えていたらしい。
しかし。やっぱこいつ面倒くさいなと思った。
工具の名前が何であれ、俺はただフェンダー外しを手伝ってほしかっただけなのだ。それに応えてくれるのかそうでないのか、そこが問題だ。彼は一言もそれに言及していない。
キモい。
(Jは元々ちょっと面倒くさい。以前彼の家に用事があった際、J宅の場所を忘れたために住所を聞いたのだが、なぜか渋って答えてくれなかった。いや、お前の住所なんか知って誰が得すんねん。誰も興味ねぇから安心しろ。)
まぁ、なかなか文章だけだとこの言いようのない面倒くささは伝えられないが、実際に関われば分かる。
で。
話に戻るが、結局貸してもらえることとなった。
こうしたLINEのやり取りに絶妙な不快感を覚えながらも、フェンダーを外したい気持ちの方が上回っていたので、早速彼の家へ向かった。
彼の家へ到着すると、彼は玄関先でSwitchをやりながら待っていた。なんかちょっと可愛かった。
そして、挨拶もせず彼は言った。
・・・・・。
え。なにこいつ。
きしょい。すごくきしょい。
びっくりした。
いやまぁ、彼の言っていることはもっともなんだが。何とも形容しがたい不快感があった。
(いやなに?「言いたいことが2つある、1つ目は〜。2つ目は〜。」って。ESでも書いてんのか?就活生か?
結論ファーストか?あ?)
まぁ言い方が気持ち悪いのはさておき、俺は以前彼にバイクのオイル交換を手伝ってもらたことがあった。
そしてその時に、これからは自分で工具を買って自分で整備をしろという旨の話を彼は俺にしたらしい。(普通に忘れてた、すまん)
とまぁそんな背景があり、工具を借りに来た俺に文句を言ってきたのだ。
さらに、当時はもう夜になっていたので、こんな暗い時に作業をしたらボルトなどを失くてしまうというのが彼の2つ目の文句だった。
まぁ彼の文句に対して一応マジレスすると
1つ目に関しては
「1回ボルトを外すだけなのに、わざわざ工具を買うわけないですね。それに、君の足りない脳みそでは想像が及ばなかったかもしれませんが、あれ以降オイル交換等はお店でやってもらってます。工具は買ってませんが、買っていないなりの手段をとっております。安心してください。」
2つ目に関しては
「うん。じゃあ何で断らなかったの?。」
特に2つ目の部分に関わるが。
根本的におかしいことが1つある。
何故最初から断らなかったのかだ。
彼はスタンスとして、「バイクの整備は自分で工具を買って自分でやるべき(それかお店に行け!)」という姿勢をとっている。
彼のそういったスタンスからすれば、そもそも工具を貸してほしいなんていう俺の依頼は断るのが普通であろう。普通というか、彼のスタンスから想定される帰結である。
しかし、彼は俺のフェンダー外しを手伝った。
何故だろうか。
これは恐らく
決して、なんだかんだ友達だから手伝ったというわけではない。
そもそも、Jとはそんなに親しいわけでもないし、彼はそんな情に厚いタイプでもない。
むしろ逆で、ロジカル(笑)なタイプである。
恐らく彼は自分でそう思っているだろう。
(彼の中学時代の口癖は、「で、結論を言うと?」だった。)
なので、手伝った理由はやはり俺に正論をぶつけて当たり散らしスッキリしたかったから。
これ以外に考えられない。
だって、嫌なら最初から断るだろう。
普通に考えて。
しかし、俺に正論をぶつけて当たり散らすには、これ以上無い状況だっただろう。
形はどうあれ、彼はわざわざ工具まで用意して、暗い時間にフェンダーを外してあげている。
俺はフェンダーを外していただいている。
そのため、俺は下手に出ることしかできない。
このように、彼が言いたいことを好き放題に吐き散らすには十分な状況であった。
俺はどんなに不快な気持ちされても、彼に感謝するべき立場であり、何も言い返すことはできなかった。
彼は、あの時点においては、絶対的に正しく優位な立場にいたのである。
彼の正論ラッシュはこれだけに留まらなかった。
フェンダーを外してもらっている最中も
・・・。
という気持ちをなんとか抑えた。
そして外し終わった後、フェンダーを持ち帰るために大きなリュックを持って行ったのだが、それがそのリュックに入りきらず。
・・・。
という気持ちを抑えつつ
滅茶苦茶イライラしながら帰った。
(礼は言った。まぁ、あれほど怒りを込めた「ありがとう」は無かっただろうが。)
いや、普通に凄い。
ボルトを外す。たかだかこの数分の間で、ここまで人をイラつかせることができるとは。
もはや才能である。
本当に、あれほど人を殴りたいと思ったことは無い。
しかし、それはできなかった。
決して俺が非暴力主義者だからというわけではない。
先程も述べたように、言葉や思考、感情という非物質的なものを取り除き、単に事実だけを直視すれば、彼はフェンダーを外してくれたのである。
だからこそどんなに頭に来ても、彼を殴ったり、バイクで轢き〇すということは出来なかった。
あくまでも、俺にできなかったことを彼がやってくれたのである。それは、本来報酬を払うべきことだ。感謝をするべきことだ。
まぁ。とてもそこまではできなかったが。
しかし、これこそロジカルな行動というものだろう。
一方、彼の行動はエモーショナル、感情的なものだ。
俺のためにわざわざ工具を用意してフェンダーをはずす、その不満を俺に浴びせた。
(ちなみに彼のあまりの態度に、俺は怒っているのかと聞いた。そしたら彼は、怒っているとのことだった。・・・。)
そんなに不満なら最初から断わればよかったのに。
そればかりか、俺の「フェンダーを外したい」というそもそもの意向を否定するような主張をし始めた。
こちらはフェンダーを外すことによる不都合など承知の上なのに。てか、何で断らなかったんだ。
(彼はバイクに詳しい。それは間違いないだろう。
それなら、フェンダーを取り外したり、マフラーを交換するといったライダーの趣味趣向も理解している。そう思っていた。
しかし、今回の件でそうではないと分かった。
どうやらJは、バイクという「道具」には詳しくても、そこにバイクを楽しむライダー(=「人間」)がいるということにまで想像が至らなかったようだ。
そして、その人間に対する理解も足らないようだった。)
ここまで来ると、彼の行動はもはや俺をオカズに正論を浴びせて気持ちよくなりたいだけだったとしか思えない。
他に彼がフェンダーを外してくれた動機があるなら、教えて欲しい。
あれは、もうオ〇二ーである。
精液…いや正液がドピュドピュである。
自分が絶対的に正しく、優位な立場から好き放題に文句や正論を吐き散らす。
これ以上の快感はそう無いだろう。
人に話を聞いてもらうのは、気持ちが良い。
自分が正しい主張をしているときは、もっと気持ち良い。
なおかつ、相手を完全に悪者にできたり、逃れようのないロジックで追い詰められた(いわゆる論破)のだとしたら、もう正液ドピュドピュ脳汁ブシャーである。
俺も、これを読んでいる君も、ロジックを用いる際には気をつけないといけない。
理性によってロジックを立てているのか。
感情によってロジックを立てているのか。
ロジックは大抵、なにか問題を解決する際に用いられるものだ。
そしてその場合は、理性によってロジックを立てる。
そして、問題を解決する。
しかし、必ずしもそうではない。
感情によってロジックを立ててしまう場合もある。
目の前の問題を解決するためではなく、相手を追い詰め、その時の鬱憤を晴らそうとするためのロジックだ。
もしそのようなロジックを相手に振りかざしていたのだとしたら
それは正論オ〇二ーかもしれない。
誰だって、勝手に自分をオカズにされたり、身勝手に正液をかけられることは不快である。
自らの言動が正論オ〇二ーになっていないか。
今一度、見つめ直すべきなのかもしれない。
最後に
俺はフェンダーを外してくれた知り合いを「J」と呼んだ。
しかし、それは彼のイニシャルではない。
Jとは。
JUSTICE
の「J」である。
おしまい。
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