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夜 私のつまさきは なだらかな半音階の稜線をなぞる 雨が踝を流れる 私は裸足だ 足指の爪は黒い 陽に焼かれた印画紙のように いんがし と声に出してみる その言葉をどこで覚えたか 思い出せない 私の黒い爪 私の穢れた足跡 私という印画紙に残された ただ忘れてゆくための焦げ痕 その黒い痕を ひとさし指で なぞり 私は倒れ 眠る なぜ 眠りに落ちる というのだろう 私は 眠りに浮かぶ 背中を 黒い水が流れる 浮かんだまま 私は 水音を聴く そして不意に思う 春が来るのだと 春もまた黒いのだと 風に吹かれ 花を散らし どこまでも黒いのだと 私は浮かぶ 眠る 夢は黒い 私の爪のように


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