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【Mets】June flight

 "ベースボールの詩人"ことRoger Angell氏はかつて、「ベースボールが真に開幕するのは6月だ」と書きました。いうにそれは、毎日野球を見るわけではない普通の人が「今年の〇〇は強いらしいねぇ」と世間話をし始める時期だと。確かに6月に入ると順位が乱高下することも少なくなるし、そうでもないならば、「今年は接戦だぞ」ということです。さらに熱心な野球ファンについて言うなら、それは敗戦への対処に現れるでしょう(上位チームのファンは1つ負けたくらいでは動じなくなり、下位チームのファンは1つ負けたくらいでは何も感じなくなっている)。

リーグ屈指の強豪と互角以上

 Metsにとって開幕から6月までの2ヶ月少々は、「今年の先発陣は頼りがいがあるエースが3人もいる」「固い守りと強固な中継ぎ陣で接戦を守り切る」という去年までとは全く違うチームカラーを印象づけるのに十分な期間でした。どうやら新しいデータ解析部門はよく機能しているし、いくらFrancisco Lindorがシフトに反対しても、大胆なポジショニングは勝利の可能性を高めているようです。そして何よりも、どうやら現在貯金9を得ている2021年のMetsはそこそこ強いらしい。スター軍団のPadresを相手にしても、4月にはNo-Noを投げた好投手J. Musgroveを二度打ち砕き、一度は手ひどくやられたB. Snellにはきっちり仕返し食らわしてビジター・ホームともに五分以上にやってのけたし、絶好調のCubsもスウィープする寸前まで追い詰めて見せました。

 特にCubs戦の2勝はどちらも印象深いものでした。1戦目はTaijuan Walkerが序盤の失点に動揺せず1ダースきっかりの三振を奪い、Pete Alonsoがしぶとく打点を稼いで、最後は今月に復帰してエンジンが乗ってきたSeth Lugoがイニング跨ぎで締めました。9回は得点圏にランナーを許すも、空いた一塁を見て勝負を急がず、同点のチャンスにカーブに狙いを定めていた「可愛くない」ルーキーS. Alcantaraを高めの速球で圧倒してめでたく勝利。このセーブではかつて怪我でほとんど試合に出なかった元Mets戦士Jake Marisnickの失態(というか腕をブン回したサードコーチャー)にも助けられたのであるが(動画内では、敵味方問わず考えの浅いミスに対して「激しく動揺」することで有名なKeith Hernandezがまさに"upset"する様子が見られる↓)。

 2戦目はJacob deGromが故障を訴えて降板しても、緊急昇格した入れ墨男Sean Reid-Foleyが1HRを許しつつもなんとか試合をつないで、エースが心配で試合どころではないファンの前で6人が順繰りに投げてリードを守りました。特に、このところ打ち込まれていたTrevor Mayが3三振で鬱憤を晴らしたのが好材料です。こういう「不測の」試合を落とさないのが今年の強さなのです。

 3戦目の敗戦はある意味今年のMetsを象徴するようなもので、Marcus Stromanが好投し、好守備が盛り立てるも、K. Hendricksに手も足も出ず。唯一目につくのは、攻守ですっかり欠かせない選手になったBilly McKinney(今回のカバー画像)で、こういう試合でも一本打って好調をアピールしています。このような典型的な敗戦は補強ポイントの明確化に繋がるのではないでしょうか。ともあれdeGromが何より心配です。MRIで異常は見つからなかったとのことですが、あれだけの投球を続ければ体に負担がかかるのは仕方ないのかもしれません。ポストシーズンを視野に入れて、焦らず調整してほしいというのが正直なところです。

「6月」が意味するもの

 どのチームも現時点でだいたい70試合を消化しています。これくらいの試合数が「今年の我が軍はこういうチームなのだ」と、ファンが理解するのに必要なのでしょう。これは前に紹介した、MLBにおいて運に起因する勝敗のばらつきははだいたい70数試合分の勝敗のばらつきに相当する」という数学的な理屈と符合するという点で興味深いと思います。だいたいこの時期になれば、どのファンも開幕前に有識者がこぞって行う戦力分析がいかにあてにならないか(現在まで長打率リーグワースト3のMetsが屈指の打撃チームと評されていた)ということに気づき、先入観を排して目の前の試合を味わえる準備が済むでしょう。すると同時に、贔屓チームの新たなスターに対して「なかなかやるな」と顎を触りながらではなく真にリスペクトを払えるようになり、やっと目が冴えてきたファンをオールスターゲームが熱狂させ、トレードデッドライン、灼熱のポストシーズン争い、と怒涛のごとくシーズンが加速していくのです。

これからのMetsの戦い

 6月までのMetsは故障者を続出させながらも途中加入の選手が日替わりのヒーローを演じ、ゾンビ状態で5割付近を維持していました。そして一部が戻ったタイミングで一気に貯金を作り、現在に至るというわけです。故障離脱中の選手たちの多くは月末や来月の復帰が予定されていて、中でもJeff McNeilは今週末、Michael Confortoも一週間程度での昇格が期待されています。もちろん実績を考えれば彼らの加入は打撃力を向上させると強く期待できます。ただし両者とも離脱前はいまいち調子が上がっておらず、本調子に戻るまでにしばらく時間がかかるかもしれません。その間、"Bench Mob"たちが作ってきた勢いを失わないように互いをカバーし合えるかが肝心です(画像はgothambaseball.comより; 左からVillar, Pillar, Nido, Guillorme, Almora)。

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 また、万全の戦力であっても補強すべき点はどこかを見極め、トレードデッドラインで勝負を仕掛けることも必要になるでしょう。必然的にニュースを追う私たちも緊迫感が高まります。

 加速していくシーズンの最中でようやく、プレーを見るだけではない「ベースボールのファン」としての日々が始まります。

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