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数値で押さえるカーボンニュートラル/脱炭素 -- 実際問題、頻繁に電気を消したらカーボンニュートラルを実現できるんだっけ?

この記事の趣旨

この1~2年でカーボンニュートラル/脱炭素というキーワードがメディアでも頻繁に取り上げられ、最もホットなキーワードの一つになっています。
その中で、政府にて野心的な目標が掲げられたり、企業も様々施策を打ち出したり、一般市民に対して省エネが促せたり等しております。
一方で、素朴な疑問として「結局何が実現されれば良いんだっけ?」という問について、全体感を持って語られることが少ないように感じています。
例えば、一般市民が頻繁に電気を消すことをすれば、それで「カーボンニュートラル」のキーワードで掲げられる実現したいことは実現されのか?など。(もちろんこれ自体重要であるという点について異論はないと思いますが)

その上で、カーボンニュートラルという文脈で「結局、何が実現されれば良いんだっけ?」という問を「定量的に」考えたい、というのが本稿の主旨です。
(ちなみに想定読者は、地球温暖化対策の政策検討者や、センセーショナルな感情論に振り回されずに"ちゃんと温暖化について考えたい"方々です。主旨としては「非常にわかりやすく書かれた一般市民向け記事(一方で定量的な難しさは省かれている)」と「詳しく正確に書かれた専門記事(一方で専門家以外には理解が難しい)」の間という意図です)

サマリ

長くなってしまったので、最初にサマリです。

  • カーボンニュートラルの議論も、会社の経営目標等と同様に、大きな目標からKPIに落とし込み、具体的なアクションに紐付けるのが大事

  • あと我々に許されるCO2排出量は、大体500GtCO2ということがわかっていて、現状40GtCO2/yrを出している点に鑑みると、2050年CO2排出量0にやや急いで向かう必要がある(遠い将来の話ではない!)

    • 例えば、4%程度=1.6Gt程度を毎年減らしていけば25年で(2045年に)CO2排出量0を達成でき、おそらく目標達成できる

  • この40GtCO2/yrという数値と、我々が例えば、冷蔵庫で消費している電力量(年間約600kWh)は紐付けて考えられる

    • 具体的には、40Gt/yrのうち、日本は3%弱の1.1Gt(11億トン)/yr

    • そのうち、14%(家庭部門)×66.7%(電力割合)×14%(冷蔵庫割合)=1.3%が、家庭の冷蔵庫によるCO2排出

    • ゆえに、例えば、全日本国民が冷蔵庫の節電を20%頑張ると、0.26%程度の削減効果がある。

    • 同様に、照明も20%節電を頑張ると同程度の効果が得られて、あわせて0.5%程度の削減効果になる

  • 一見カーボンニュートラルの大目標に対しては程遠い様に見える

  • しかし、年ごとに4%程度削減したい目標目線からは、十分意義のある数値

  • 重要なのは、こうした0.5-1%程度の削減効果を持つアクションアイテムを100-200個リストアップして、「チリツモの全体感を定義する」(結局、何か一つのアクションアイテムで万事解決はしないので、小さな効果の積み重ねで全体の目標が達成できる絵姿を描く)ことでは。

  • こうすることで、カーボンニュートラルの議論において、感情論/表層論/闇雲な批判論/勢いだけ論などに陥ることなく、建設的な議論を社会全体として進められるのでは

"カーボンニュートラル"の目標の全体感とKPIサマリ
KPIと具体アクションとの紐付けサマリ


背景補足

なぜそんなことを考えたいか?というのを一つのアナロジーとして、皆様が「ダイエットしたい!」というシチュエーションを考えて行きたく思います。

まず、皆様がダイエットしたい!と思ったら、何をするでしょうか?
運動をする・脱炭水化物する、など色々あるとは思いますが、
"言ってしまえば"ですが、「摂取カロリー」と「消費カロリー」をバランスさせる、この点に尽きると思うのです。

巷に様々なダイエット方法論が溢れていますが、個人的にはそういったことには然程興味が持てず、
単純に「自分が消費して良いカロリー(正確には、脂質・炭水化物・タンパク質のg数)」の要件(KPI)を決めて、一日の食事をアプリ等に記録して、要件を満たしていることを確認(モニタリング)していけば、普通に痩せるな、と思います。
(まあそれを継続するのが難しいから、様々な方法論があるのだとは思いますが)

ただまあ、一個人であれば、こんなことしなくても、「とにかく脱炭水化物するのだ!」などでも痩せれる(目標を実現できる)と思いますが、
例えば、これが企業の売上目標のように、組織で取り組むとなったら、「とにかく頑張ろう!」ではだめで、目標を定量KPIなどに落とし込んで、マネジメントしていくべきものかと思います
(ゆえに、多くの企業ではKPI管理 = 会社全体の売上目標を部署や提案数などにブレイクダウンして管理 = がなされていると考えられます)

カーボンニュートラルの話に話を戻すと、
・目標を決めて、
・その目標を実現するための定量KPIに落とし込んで、
・具体的な活動とモニタリング(マネジメント)を行う
というのが普通に必要なことなのだと思います。
(なお、実際にパリ協定などではモニタリングがセットで義務付けられたりするわけですが)

"カーボンニュートラル"というキーワードの文脈で実現したいこと

さて、カーボンニュートラルの文脈で実現したいことは要は以下2点なのだと思います。(あまり意味あることは言っていないですが)
・地球の温度上昇を一定の範囲内に抑える
・地球の温度上昇によって生じる種々の問題を抑える・対応する("適応")

前者については、自明的とも思われる所ですが、恐らく我々が問題視しているのは、後者も含む観点なのだと思います。
「もし全球平均温度が2度高くなったら、暑くて困るよね」というのは、それはそうなんだけど、それだけなら全世界が多額の投資をして動く様な問題ではないはず。
むしろ、全球平均温度が高くなることによってもたらされる所謂異常気象(凄い熱波とか、今までになかったような台風経路による災害とか)が問題視されているのでしょう。

実際に後者に関連する研究も行われており、例えば、(私が卒業した)東京大学大気海洋研究所等でも行われている「Event Attribution」と呼ばれる研究は、上述のような異常気象に対してどの程度地球温暖化が寄与していたかを示すものです。
(これについても、非常に面白いので別途紹介したいと思います)
参考)https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2013/2013_05_0057.pdf

従い、例えば「地球の温度上昇によって新たに生まれうる災害に対してどう対応するか」といった所謂適応に関する議論も、本来的にカーボンニュートラルの文脈のスコープなのだと思います。

「地球の温度上昇を抑える」の具体的な目標設定は?

まずここでは「地球の温度上昇を一定の範囲内に抑える」、より具体的にはパリ協定で規定されている「全球平均温度を産業革命前と比べて1.5度以内の上昇に抑える」ことを目標と捉えて議論したく思います。
なお、一般的には目標設定は期日とセットで行われるべきなので、この1.5度目標というのも時間軸が少し気になります。(協定の中に記載はないと思いますが、私の理解としては、)この目標は、売上目標等のように「積み上げていく」タイプの目標ではなく、xxxを超えないようにするという「我慢する」タイプの目標なので、明確な期日という概念はなく、「金輪際永遠に我慢しましょう」という目標の考え方かなと考えます。

とはいえ、時間軸とセットでのマイルストンを置くべきと思います(でないと、目標が達成したのか否か判定できないので)。という意味ではやはりマイルストンは2050年なのだと思います。といいますのも、パリ協定では、「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡(※)を達成する(※すなわちカーボンニュートラル)」と謳われている点と、詳細は後述しますが、温室効果ガスの排出>吸収による除去 の状態では基本的には全球平均温度は上昇する、という考え方を踏まえると、目指すべきは「2050年に入る前に、カーボンニュートラルを実現して、その時の温度上昇が1.5度以内である」とするのが妥当と考えます。

論理性の観点から少し補足をすると、
「(2050年にて)全球平均温度を産業革命前と比べて1.5度以内の上昇に抑える」ことと「2050年に入る前に、カーボンニュートラルを実現する」ことは同値(必要十分条件)ではないです。
極端に言えば、2049年までにガンガンCO2を排出して、2050年にストンとCO2の正味排出量をゼロ(カーボンニュートラル)にしても、容易に想像される通り、全球平均温度は1.5度を遥かに超えてしまいます。
IPCCのレポート等では、「シナリオ(政策等によってどの様にCO2排出量が遷移するか)」が重要なファクターとなっていますが、これは上述の様にCO2排出量の時間遷移が"1.5度目標"の実現において重要であるからと考えます。
ということで、細かい話かもですが、所謂"1.5度目標"というのは、以下2点を目標と定義することと捉えられます。
1.2050年までにCO2排出量をゼロ以下とし、2050年以降の気温上昇を防ぐ
2.その2050年時点での気温上昇幅が1.5度以下

(パリ協定の目標の意味合いの理解)

ちなみに基準としている「産業革命前」というのは、私の認識では、1850-1900年の平均値が使われております。
なお、正確にはCO2排出量ではなく、メタンなども含むGHG(温室効果ガス)ですが、一旦ここではCO2のみを議論対象としたく思います。(そこが大半なので)

地球の温度上昇と温室効果ガスとの関係は?

上記でも触れましたが、「全球平均温度を産業革命前と比べて1.5度以内の上昇に抑えるには?」という問に答える上で重要な問いは、「温室効果ガスと全球平均温度(の上昇幅)との関係性は?」という問であります。

温室効果ガスが地球の温度上昇をもたらしている事自体は一般認知されていると思いますが、より具体的に/科学的に、この問いに対する答えが、先般発刊されたIPCC第6次評価報告書(以降、AR6)の中で明確に得られています。
要は、「産業革命前からの累積温室効果ガス排出量と、全球平均温度の上昇幅は比例関係にある」ということです。
これはTCRE(Transient Climate Response to Cumulative Carbon Emissions 累積炭素排出量に対する過渡的気候応答)というワードで論じられており、様々な温室効果ガス排出シナリオの中で全球平均温度の上昇幅は(当然ながら)変わるものの、温度上昇幅÷累積排出量は概ね一定であることが示されています。

(累積CO2排出量と気温上昇幅との関係性)
出所:元チャート IPCC AR6, Fig SPM10  統合的気候モデル高度化研究プログラム2021年度 公開シンポジウム, 河宮未知生氏講演資料 https://www.youtube.com/watch?v=URAXAMchR74&t=1710s

このチャートにおける、SSP1-1.9, SSP1-2.6, ・・・は経済活動等の違いによる異なるCO2排出シナリオを示しています。

(参考)IPCC AR6で論じられている5つのCO2排出シナリオ
(最低位のSS1-1.9というシナリオが、大体2050年頃にカーボンニュートラルを達成するというシナリオになっている)

これは直感的にも理解しやすい話であるかと思います。
例えば、コロナ禍で一瞬だけCO2排出量が減っても、それくらいでは温暖化は解決しなくて、累積の排出量に応じて温暖化度合いが決まる、ということですね。

許容される温室効果ガス(CO2)の排出量は?

次の問としては、「じゃあ、1.5度目標達成に向けて、累積でいくら温室効果ガスを排出してよいのか?」という点と、「2050年までにカーボンニュートラル達成が必要なのは良いとして、それは徐々にで良いのか急激に向かう必要があるのか?」という点かと思います。

以降、定量的な数値の議論に入りますが、まずはざっくりとした理解(覚えられるレベル)を目指すため、細かな数値や信頼幅などの議論は一旦一切無視しますのでご容赦ください。数字が多少間違っている所も一定あると思います。

温室効果ガスとして、まずはGtCO2(CO2の重量, ギガトン)という単位で議論します
(また、細かい話として、GtCというCO2ではなくC(炭素)の重量を用いた単位も使われますが、ここではCO2に統一して議論します。高校化学の通り、CO2:C=44g:12gです)

これまで(産業革命前から2019年まで)に排出されたCO2の量は、約2400GtCO2と推定されています。(正確なAR6の記載は、2,390±240GtCO2)
全球平均温度の上昇幅(産業革命前と比べて)は、1℃強(AR6の最良推定値は1.07℃)と推定されています。
(「全球平均温度の上昇幅(産業革命前と比べて)が、1℃を上回った」という趣旨のニュースを見聞きされた方もいるかと思います。)
※出所:https://news.yahoo.co.jp/articles/ecc4735b35624fd0b3f0cc97e0812dc92ec57e99  (2021年の世界の平均気温が15年から7年連続で1800年代後半の水準を1度以上上回った)

ここから計算されるTCRE=1,000GtCO2辺りの温度上昇幅は、1.07℃÷2,390 = 0.45℃/1,000GtCとなります。(AR6での最良推定値もほぼ同値です)

1.5度目標を達成するために許容される累積CO2排出量は、単純計算で、1.5℃/0.45℃ = 約3,300GtCO2, 2019年比であと、900GtCO2以内に抑える必要があります。
もう少し正確に言うと、不確実性が乗ってきますので、AR6では、500GtCO2が許容排出量(あと1.5度目標達成のために排出して良い量)とされています。
(500GtCO2を達成しても、1.5度目標の達成確率は50%とされています。900Gtだと16%、300Gtだと83%です。)

許容CO2排出量
1.5℃上昇に抑えるためには、あと500GtCO2までしか排出できない
(それでも1.5℃目標を達成できるのは50%)
出所:同上

次に「2050年までにカーボンニュートラル達成が必要なのは良いとして、それは徐々にで良いのか急激に向かう必要があるのか?」という点を論じます。
現状(※)のCO2排出量は、約40GtCO2/yrとされています。
(※)ここでは、2010-2019年の10年平均の値を現状と呼んでいます。2019年はこの平均より高い数値を示し、また2020年は2019年と比べてCOVID19影響により7%程度減少している、とのこと。

世界の年辺りCO2排出量
出所:元チャート AR6, Ch.5, Fig5.5. , 
加筆:加筆: 統合的気候モデル高度化研究プログラム2021年度 公開シンポジウム, 河宮未知生氏講演資料 https://www.youtube.com/watch?v=URAXAMchR74&t=1710s

ニュースで「今後10年~20年の間に、(産業革命前比での温度上昇幅が)1.5℃を超えてしまう」という話(※)を見聞きされた方もいるかと思いますが、それはこの話から説明できます。
すなわち、単純計算では、1.5度目標に向けた許容排出量500GtCO2に達するのは、500GtCO2/(40GtCO2/yr)=12.5yrということで、12.5年で1.5℃を超えることになります。

※)出所:https://www.unic.or.jp/news_press/info/42637/

また、仮に2020年~2050年にかけて線形に、40GtCO2/yrから0に向かったとします。
するとその間の排出量は、これも単純計算で、40GtC*(1/2)*30yr = 600GtCO2 となり、許容排出量500GtCO2を超え、1.5度目標は達成されない可能性が高くなるでしょう。
「徐々にで良いのか?急激に向かう必要があるか?」という問の答えは、ある程度急激に2050年カーボンニュートラルに向かう必要がある、という答えになると示唆されます。

どの程度CO2排出しても目標達成できるのか?のイメージ

実際に、AR6で論じられている様々な排出シナリオのうち、最低位シナリオ(最も排出を押えたシナリオで、2050年にカーボンニュートラルが実現されている)のみが、1.5度に近い目標を達成しており、
その排出シナリオは、やや(線形よりも急激に)2050年カーボンニュートラルに向けて排出削減が行われるものとなっています。
(個人的には、こうした非線形の排出削減はもう少し先じゃないと現実感がないような気も多少しますが。)

より正確には、最低位シナリオ(SSP1-1.9)は、2050年を少し超えてカーボンニュートラルを達成するシナリオで、2050年(2041-2060年)の平均気温上昇幅は1.6℃を最良推定値としています

CO2排出シナリオと気温上昇幅

やや細かい議論にも入りましたが、ここで言いたいのは、「2050年カーボンニュートラルって、遠い未来の話をしているようだけど、そうじゃなくて今年頑張らなきゃいけない話だよ」ということです。
私が思うに人々が持つべき視点は「2050年に向けてカーボンニュートラル!」よりも「今世界で40GtCO2/yr出している排出量を、今年は38GtCO2/yr(※)に抑えなきゃいけない」という視点だと思うのです。
(少し脱線しますが、会社経営的な観点でも、「売上を100倍にするのだ!」といった野心的な目標を掲げるのも重要だけれども、そこに向けて今年何を実現するかとセットで掲げるべきと思います。
 誰かがTwitterで、年始の1/4頃に「今年建てた目標は1%進捗しましたか?(365日のうち3日経ったので、という趣旨だと思います))」とtweetしていましたが、その視点は重要と思います)
※)38GtCO2というのは、非常にラフな数字ですが、2050年までに急いでカーボンニュートラルを目指すという意味では、線形で向かう場合の40GtCO2/30yr=1.3GtCO2ずつ減らすのでは間に合わない、という意味で、書いています。

節電アクションと、求められるCO2排出削減量との関係性は?

世界のCO2排出量の内訳と日本の占める割合

上記にて急いでCO2排出量ゼロを目指さねばならない、と書きました。
とはいえ、「世界のCO2排出量が、現状40GtCO2/yrで、それを30年間で0にする必要がある(1年辺り1.3GtCO2以上減らしていく必要がある)」と言われても多くの人にとっては実感の湧きづらいものと思います。
「一般の人々が採りうる節電アクションが、どの程度この目標に寄与するのか?」という問を考えることで実感を持てるようにしていきたいと思います。

まず、この40GtCO2/yrを国別・用途別・世帯あたりなどとブレイクダウンして、もう少し手触り感のある数値に落とし込みたく思います。

国別の分布を以下に示します。

世界のCO2排出量(2018年)
出典)温室効果ガスインベントリオフィス/
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より

まず、上記で示した40GtCO2と、上図の335億トン(33.5GtCO2)との関係性にについてです。40GtCO2は、大きく2種類から構成されます。

  1. Fossil fuel emission(化石燃料燃焼によるCO2排出):約34Gt

  2. LULUCF (land-use, land-use change, and forestry) (土地利用・土地利用変化及び林業):約6Gt

要は、40GtCO2=人為起源排出のCO2として論じているのは、大体(9割弱)は多くの人がイメージするであろう、1.の化石燃料燃焼によるCO2排出なのですが、もう一つ人為起源CO2排出量を左右する要素として、森林伐採等の土地利用の変化があり、その分が6Gtほど含まれている、ということです。故に、元々論じていた40Gtと上記の33.5Gtはおおよそ整合するはずです。(計算時期の違いもありますが)

ざっくりの理解としては、日本の排出量は世界の3%位で、40Gt×9割弱×3% = 1.1GtCO2/yr(11億トン/yr)
中国が28%, 米国が15%、インドが7%で、あわせて50%程度にのぼる、といった概況感。
このチャートから脊髄反射すると、「まず頑張るべきは米中で、たった3%の日本が頑張っても仕方無くないか?」等と言いたくなる人も出てきうると思いますが、
そこは人口の違いなど諸々踏まえると、一概に言えないことだと思います(ただ、改めて米中の批准なくしては意味のない政策であることも理解できると思います)

何れにせよ、菅元首相のカーボンニュートラル宣言の通り、日本単体での2050年カーボンニュートラル=「11億トンをゼロにすること」を目指すべきということと思います。

1家庭にて使う電気量とどの様に関係しているのか?

この11億トンを用途別に見ると、大体一般家庭から出される排出量は、14%程度で、1.6億トン程度です。

日本の用途別CO2排出量

1世帯辺りに直すと、1.6億トン/5300万世帯 = 3トン / 世帯 となります。

もう少し実感を持つために、エネルギー消費との関係性を見たいと思います。
世帯あたりの電力消費量は、約4,300kWhだそうです。(※)
こちらは多少イメージが湧く所でしょうか。
 ざっくり電力料金は、27円/kWhだったかと思いますが、我が家では年間大体10万円位電気代を払っていることに鑑みると、100,000円/(27円/kWh) = 3,700kWhということで、4,300kWhというのも、そんなものかな、という気がします。
※)出所:環境省http://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/2017/result3/detail1/index.html 

世帯あたりエネルギー消費量(2017年度)

1kWhの電力を作るために排出されるCO2の量は、発電手段に寄って異なります。
原発だと約20gCO2/kWh, 石炭火力だと約940gCO2/kWhといった概況。

均してみると、大体中間地点の、約460gCO2/kWhだそうです。(※)
※)出所:電気事業連合会https://www.fepc.or.jp/environment/warming/kyouka/index.html

CO2排出係数(1kWh作るのにいくらCO2を排出するか)

すなわち、4,300kWh×460gCO2/kWh = 約2トンCO2が、年間世帯辺りの電力消費によるCO2排出量となります。
※上述した、世帯あたり3トンに対して、電力によるものが2トン(66.7%)というのは多少少ない気がしなくもないですが(私は、家庭によるエネルギー消費のうちもっと大きな割合が電力なイメージでした)、環境省の出している統計(電気割合は68.8%)と概ねConsistentなので間違っていないと思います。

家庭部門のCO2排出量、エネルギー種別(2018/4月-2019/3月), 環境省
https://www.env.go.jp/press/107232-print.html

纏めると、「年間世帯あたり約3トンのCO2を排出していて、その2/3程度=2トン程度は電力消費によるもので、電力使用量[kWh]×CO2排出係数[gCO2/kWh]で分解される。具体的にはおおよそ、2トン = 4,300kWh×460g-CO2/kWh」となります。

家庭で使う電気量の内訳と、節電アクションによる効果は?

4,300kWhの内訳は、どの程度でしょうか。
以下によると、冷蔵庫が14%と最も大きな割合を占めるそうです。

家庭における機器別の消費電力量 (2011年?), 経済産業省エネ庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/howto/consumption/

個人的には、少し意外な気もしましたが、確かにとも思いました。
何となくエアコンのほうが電気代として気にするので割合大きいかと思いましたが、たしかに一年中付けっぱなしの冷蔵庫の電力使用量は大きいですね。ただ、上記出典はやや古いので、最新だとまた少し様相が違うかもしれませんが。

4,300kWh×14% = 約600kWh (ざっくり、冷蔵庫による消費電力量/年)

例えば、冷蔵庫って機種/年代によって節電性能は結構変わるかと思います。

仮に冷蔵庫を買い替えて、年間600kWhの機種から年間480kWhの機種に変更し、20%の削減が実現されたとしてその意義を見立てたいと思います。

結局、冷蔵庫の電気使用量と日本のCO2排出量は、
日本のCO2排出量11億トン/yr ×電力割合[66.7%]×家庭[14%] ×冷蔵庫の割合[14%] = 冷蔵庫の電気使用量
という関係ですので、冷蔵庫の電気使用量が20%削減された場合、
日本の排出量から見ると、20%×66.7%×14%×14% = 約0.26% 削減されることになります。
(11億トンのうち、0.03億トン位)

なお、照明もだいたい同じくらいで、あわせると0.5%位の削減になる、ということになります。
個人的には、これを大きいと見るのか微々たるものと見るかは、率直には悩ましい所と思います。
建前的に話すなら、「こうした一人ひとりのアクションの積み重ねが地球を救うのです」ということで、この数字が大きな意味を持ちます、と言いたいですが、
感覚的には、「たったの0.5%か・・・あんまり意味ないね」と言う人がいても無理ないな、とも率直に思うのです。

ただ私の解釈の仕方としては、「11億トンをゼロにすることを目指すためには、100とか200とか相当な数のアクションアイテムが必要であり、その一つがこの冷蔵庫+照明の話で、0.5%のインパクトが有るとすると決して小さい数字ではないな」という感覚です。

それで、(こう書いておいてこんなこと言うのも微妙ですが、)言いたいのは、この数字が感覚的に大きいかどうかはあまり本質ではなくて、
この「100とか200とか相当な数のアクションアイテム」をリストアップすることが本当は重要なのだと思うのです。
どこかではやられているのだろうなとも思いますが、各企業が独自にカーボンニュートラル施策を考えている現状に鑑みると、少なくとも社会でのアクションアイテムレベルでの合意形成は図られていないなと感じます。
「そんな細かいレベルでのアクションアイテムの合意形成は無理だよ」という見方もあると思いますが、私の知る限りでも省庁主導で全体感をもってアクションアイテムを整理して、直近のアクションアイテムの合意形成を官民連携でとって、着実に進めている例は存在しているように認識します。

やや暴論になるかもしれませんが、こうすることによって、たまに政府発表とメディアと世論の間で見られる私が思うにやや不毛な議論--例えば、「世論受けを狙った、数字だけが独り歩きする数値目標」とか「そこに対して根拠を示せ、と煽るメディア」とか…--から抜け出せるのではと考える次第です。

まとめ

纏めると、
・カーボンニュートラルの議論も、会社の目標等と同様に、大きな目標設定とKPIへの落とし込み、具体的なアクションに紐付けるのが大事
・あと我々に許されるCO2排出量は、大体500GtCO2ということがわかっていて、現状40GtCO2/yrを出している点に鑑みると、2050年カーボンニュートラルをやや急激に向かう必要がある(遠い将来の話ではない!)
・この40GtCO2/yrという数値と、我々が例えば、冷蔵庫で消費している電力量(年間約600kWh)は紐付けて考えられる。
 一般化して言うと、具体的なアクションを積み上げると数値目標と紐付けて議論できるようになる
・こうすることで、感情論/表層論/闇雲な批判論に陥ることなく、建設的な議論を社会全体として進められるのでは

という話でした。



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