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偏西風はなぜ吹くのか?

本稿では、「なぜ日本(を含む中緯度帯)上空で西から東向きの風(=偏西風)が吹くのか」という点をちゃんと説明してみたいと思います。
ちゃんと説明 = 「キャッチーさを重視して本質を誤魔化す」とか「正確さ重視で数式ばかりで分かりづらい」とかがないように説明してみたいと思います。

背景補足

日々ニュースなどで気象現象についての説明を聞くと思うのですが、例えば「偏西風の蛇行によりブロッキング高気圧が発生し、大雨が長引いています」など、実は一般向けの気象現象の説明は"なんとなくわかるような分からないような"説明も多いのではと思っています。これ自体はもちろん尺都合などでやむを得ないのですが、有意義な前提理解を持つことで、気象関係のニュースに対して"分かった感"を作れるように出来ればと思っています。

ちなみに、9/5(月)のテレ朝のモーニングショーで、石原良純氏らを交えて最近の洪水イベントの特集が行われていた中で、コメンテーターの玉川氏が「偏西風について、高気圧から低気圧に向かって風が吹くことと地球の自転の影響を受けることはわかったけど、なぜ斜めじゃなくて真横に吹くのかがわからない」などと仰っていたのを目にして、書きたくなった次第です。

端的に教科書的な説明をすると

  • 風向きは「気圧差(気圧傾度力)」・「コリオリ力」・「摩擦力」の3つのバランスとして説明される(気象関係においては一般的な話)

  • 摩擦力は地表面において発生する力。上空では発生しないので、「気圧傾度力」と「コリオリ力」のバランスで風が吹く

  • コリオリ力は風向きに対して右向き90度に働くから、高圧帯から右向きに風が吹く

  • 亜熱帯(北緯30度位)は、高圧帯なので、中緯度帯(北緯30-60度位)は西から東向きの風=偏西風 が吹く

ということになります。

基本的な風の吹き方と上空の風


とはいえ、一般向けには「?」な所が色々あるのではと思います。例えば、

  • なぜコリオリ力は右向き?

  • なぜ南が高気圧?

  • なぜ高気圧から低気圧に風が吹かない?

など。

ちゃんと物理などの教科書を読めば分かる話ではあるものの、もう少し簡単に、わかりやすく直感的に理解できる説明をしたいと思います。
※本質的でない、ディテール・正確さは端折ります。
※説明明瞭性のため、すべて北半球前提で説明します。

サマリ

「なぜ偏西風が吹くのか?」を理解するためのポイントは以下3点です。

  1. コリオリ力の話
    →地球上の風は、自転の影響で、風向きに対して右向きの力(コリオリ力)を受けますが、その強さは緯度によります(赤道だと0)

  2. 大気大循環の話
    →南北熱輸送の観点で、赤道で上昇した空気が北極に向かう循環がありますが、実際には3つ構成(一度北緯30度付近で空気が降りて、高圧帯を形成)になります

  3. 地衡風の話
    中緯度帯では、南から北への気圧傾度力と、コリオリ力の平衡状態として東向きの地衡風=偏西風が生じます。気圧傾度力が生じた次の瞬間だけを見れば、北東向きの風になりますが、コリオリ力によって徐々に「右に反れる」「更に右向きの力を受ける」ことになり、年平均などの平衡状態の議論においては、気圧傾度力とコリオリ力が釣り合う「東向きの風の状態=偏西風」となります。

以下のチャートに概略イメージと詳細テキストを記載しています。

サマリ1. 3つのキーワード・キークエッション
サマリ2. キーアンサー


1.コリオリ力

  • 電車が発進すると、電車に乗っている立場から見て、電車内の人やものに逆向きの力がかかっているように見えると思います(→並進座標系における慣性の力)

  • 同様に、円盤上に乗っている立場から見ると、円盤上を動くものにある向きの力がかかっているように見えます(回転座標系における慣性の力=遠心力+コリオリ力)

  • 自転する地球の上から見て、同様の力が働いているように見えますが、緯度によって力の働き方が変わります(赤道では水平面において回転していない)

2.大気大循環

  • 不正確だけどざっくり言うと、赤道は熱く北極は寒いので、赤道付近で空気が上昇し、そこから北に風が吹いて熱を運ぼうとします(→昔のハドレーの考え方)

  • 実際には北に向かう際に、約30度近辺でコリオリ力が高まり、北向きに向かうというより、下降気流となります(→ハドレー循環

  • 高緯度帯でも同様に30度位単位での循環が生じており、極=高圧帯、北緯60度付近=低圧帯(相対的に)という大局的な気圧配置となっています。

3.地衡風

  • 以上踏まえ、中緯度帯では、南に高気圧帯(e.g. 亜熱帯高気圧)、北に低気圧帯となり、南から北に向かう力が発生します(気圧傾度力)

  • 一方、コリオリ力によって右向き(東向き)の力が加わり、平衡状態において、東向きの風となります(→偏西風)
    ※この2つの力の平衡状態で吹く風=地衡風と呼びます。

  • なお、「ここまで南から北に熱を運ぶ話をしていたのに、西風では熱が運ばれないのでは?」となるわけですが、それはその通りで、中緯度帯においてはこうした大気大循環ではなく、擾乱(偏西風の蛇行や温帯低気圧等などのもう少し細かい現象)によって行われます

  • ゆえに中緯度帯の循環=フェレル循環は、"間接循環"という呼ばれ、あくまで見かけ上の循環=平均値等でそう見えるけど実際にその循環で熱が運ばれているわけではない=という言い方がされます。紛らわしいですが。


更に詳しく

詳細編はこちらです。

https://note.com/demoto222/n/n341aad954580/


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