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ルーカスとアンダーソンの論理積「Xボンバー(1980)」

 1980年! それはスターウォーズ待望の続編「帝国の逆襲」が日本上陸を果たし、「宇宙戦艦ヤマト」の新作がTVでも映画でも製作され(しかも内容は完全に別々だ)、サイボーグ009火の鳥ガメラソルジャー・ブルージェームズ・ボンドジェームズ・T・カーク といった錚々たるメンツがこぞって日本の銀幕宇宙で活躍したスペイシーな年である。

※正確には「007 ムーンレイカー」の国内公開は1979/12/8だが、正月映画として1980年の興行収入ランキングに入っているので、事実上の1980年作品としてもよかろう。
※この時だけ「宇宙怪獣」を名乗る昭和ガメラの商魂がスゴイ好き。

 そんな機運の中、「スーパーマリオラマ」と銘打たれてフジテレビ系でON AIRされたSFTVショウがあった。永井の豪ちゃんを原作に迎え、スーパー戦隊に先駆けて3体合体巨大ロボまで登場するジェネリックスターウォーズ特撮人形劇。その名は「Xボンバー」!

「人形劇でジェネリックスターウォーズ? ナンデ?」と疑問に思う方もおられよう。そんな貴方のために、インターネットは無料で第1話を視聴可能にしてくれている。まあちょっと見てみてくださいよ。お時間なければサムネイル画像だけでもいいですよ。

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 総監督の三上陸男さんは日本特撮界のレジェンド的存在で(初参加作品が「ゴジラ(1954)」ですってよ貴方!)長年培った造形・美術・特撮のノウハウが1話30分枠のTVショウにギュッと凝縮された結果、画作りのレベルの高さはサムネイルだけでも一目瞭然。画面を構成する全ての要素がビシッと決まったそのさまは、端正すぎてオーパーツめいてすらいる。
 セットやミニチュア、小道具の造形も過剰なまでに情報密度が高く「ウオオーッおれはおれの映像世界を徹底的に作り込むぜ!」的なクリエイターの初期衝動が伝わってくるようだ……などと勝手に思ってたら、後年の雑誌インタビューで総監督ご自身が「監督も美術も自分で全部やるには人形が一番だと思いましたしね」と語っておられて納得しかなかった。隅々まで手の入った画面は、カットごとに舐め回すように観てもなお飽きることがない。

【サンプル:第1話の推しディテール】

・ゲルマ帝国母艦のブリッジ、副官コズロがエレベーターで上がってくる動きを光の上昇で表現するさま。タイミングぴったり。モブ戦闘員、女司令官ブラディ・マリー、そしてゲルマ皇帝との立ち位置の高低差が、そのまま帝国の上下関係を表現してるのもいい(皇帝が巨大ホロ映像で登場する三段オチも含めて)。

・地球防衛軍制服のエンブレムや略章の質感表現。あとモブキャラの絶妙なモブ顔(たくさんいる)。

・めちゃくちゃ広い防衛軍司令部で、遠景用のマッチ棒みたいな人形がちょこちょこ階段を登ってるところ。しかもカットの入りがこれのアップなんですよね。すげー楽しそう(撮ってる側が)。

・主人公シローたちの乗るスペースシャトルがカメラに向かって飛んでくる時の絵になる傾き。ここに限らず作品全体の画作りにまんべんなく神経が行き届いていて、何でもないシーンでもいちいち目に心地よい。

・ムーンベースの会議室、椅子の背もたれカバーにわざわざデザインされた「M.B」の文字。作品世界の業者が製造して月面まで納品に行ったんだろうなあ……なんて思わせてくれる絶妙なプロダクト感だ。

・モニタに見入る冥王星前線基地スタッフの、ちょっとダレた背中。

・格納庫のシーンで、画面の奥を歩いて横切るモブ整備員たち。実は「スーパーマリオラマ」と言いつつ、本作ではマリオネットではなくパペットが採用されている(ゆえに足元は基本隠れている)のだが……こいつらもしや、全身で歩く様子を見せるためだけに作られた専用の人形なのでは?

・Xボンバーのブリッジになぜか施されてる経年劣化ハゲチョロケ塗装。いやキミ出航前の最新鋭艦じゃん! とツッコミを入れざるを得ないが気持ちはわかる。スターウォーズブーム真っただ中の当時は「新品ピカピカのメカはむしろダサい」みたいな風潮あったしね。

・エンジンまわりから下に向かって流れる煙(液体酸素的なやつ?)と、微妙に異なるタイミングで火が入るノズル。これいる? ってレベルのちょっとした時間差が逆にリアルだ。

・敵の攻撃で不時着したXボンバーが、最後の瞬間にクイッと上を向いて停止するところ。華奢な船首が地上から空を見上げる構図は画としてキマってるだけじゃなく、次回の伏線でもある。そこがいい。

 クリエイターのこだわりが詰まった「つくりものの世界」のディテールをフェティッシュに堪能する楽しみは、スターウォーズとスーパーマリオネーション(「サンダーバード」とかのアレです)の双方に共通する要素であり、そのベン図の重なりをピンポイントで撃ち抜いたのが「Xボンバー」なのだ。まあスターウォーズの場合、それに加えてルーカスの創造した銀河宇宙をさも実在するかのように楽しむ文化があるので、さらに業が深いのだけれど(それについてはまた別の機会に書きたい)。

 かように映像の旨味が豊富な本作だが、ストーリー的にはどうかというと意外にも「宇宙戦艦ヤマト」の要素が濃厚だ。理由は非常にシンプルで、「ヤマト」ファーストTVシリーズのメインライター・藤川圭介先生が全編の脚本を担当されてるからなんですね。

 地球の戦力では歯が立たぬ侵略者に立ち向かうべく、ついに完成した新鋭戦艦が困難を跳ねのけて出航し、敵に一発ブチかまして銀河の海へ乗り出していく……序盤の展開で既にめちゃくちゃファーストヤマトみがあるが(2話で空母を撃沈して3話で発進する段取りも同じ)ヤマトほどの情念の湿度はなく、かわりにカラッとしたエンタメ味で置換されている。その後も「木星のメタンの海」「宇宙海賊めいた第三勢力」「宇宙サルガッソ」「七色星団」「宇宙機雷」「わかるかいあれが僕らの」などなど、アニメ版や漫画版(ひお版含む)のヤマトアトモスフィアを濃厚に味わえる展開が目白押し。

 そこで腑に落ちるのが、巨大ロボ、ビッグ・ダイエックスの出番の少なさだ。裏番組「電子戦隊デンジマン」のダイデンジンは毎回のクライマックスで巨大敵怪人をぶった斬る見せ場担当ロボだが、ビッグ・ダイエックスはヤマト的に言うと「ブラックタイガーが合体してコスモゼロになる」ぐらいの立ち位置。ストーリー上の必要がないエピソードでは登場しない反面、戦闘シーンが毎回同じにならないよう工夫もされている(毎回同じ=悪というわけではないが)。

 なので本作は「スターウォーズ風味のダイナミック巨大ロボ人形劇」というパブリックイメージをいったん忘れて「宇宙SF人形劇のためのヤマト変奏曲(ジェネリックスターウォーズMix)」ぐらいの心構えで観た方が、本来の味わいを楽しめると思う(「ロボ全然出ないなあ、この番組」で片付けるのはもったいない)。ファーストヤマトを軽く摂取しておくと、エンタメ的にアップデートされた箇所が際立って面白いですよ。

 それでもロボ中心に見たいという方は、以下の参考資料をご活用いただきたい。ピンポイントでロボ回だけつまめます。


【ビッグ・ダイエックス登場回(全7回)レビュー】
※総集編は除く

第4話「輸送船団消滅す!」

 木星表面からの対空砲火と頭上のゲルマ母艦に挟まれ、窮地に陥るXボンバー。地上戦力掃討のため発進したトリプルアタッカー(ブレインダー、ジャンボディー、レッグスターの3機)はビッグ・ダイエックスに初合体、対空砲台を叩き潰す。
 初めての合体なのに「これがビッグ・ダイエックスか……すごいパワーだ!」とはならず淡々と攻撃する主人公たちと、「何だあの化け物は!」と狼狽するゲルマ側の対比が面白い。木星に地面があるのは気にするな!

第11話「サヨナラ永遠の戦場!」

 戦いの果てに滅亡した惑星D。その古戦場に眠る自動兵器軍団が、ゲルマの策略で覚醒した。ビッグ・ダイエックスと無人戦車隊の戦いが始まる……アッこれ「エルアラメインの歌声」だ「銀河鉄道999」の!(アニメ版の脚本担当は藤川先生です)ミステリアスな亡国の王女(ブライアン・メイの推し)がストーリーに詩情を添える。

第19話「牢獄惑星を爆破せよ!」

 囚われのヒロイン、ラミアを追って氷の惑星に降り立ったビッグ・ダイエックスと、それを迎え撃つミサイル砲台。ノシノシ歩いて地上兵力相手に無双するパターンもこれで3回目(対戦相手を毎回変える工夫の跡はある)だが、貴方もそろそろロボスーツの膝から下が造られていない事実に気づく頃だろう。着ぐるみ同士の格闘戦はハナから想定外なのだ。

第20話「F-01暗殺作戦」

 ビッグ・ダイエックスが囮の戦闘メカに誘い出され、手薄になったXボンバー艦内にゲルマの暗殺サイボーグが潜入。囮メカを倒してもストーリーはたいして進展しないのに、そんな時に限って新必殺技がPOPするあたりが昭和巨大ロボあるあるですね。

第22話「M13明日なき戦い!」

 主人公側の拠点・惑星M13に対し、ゲルマ帝国の総攻撃が始まった。激戦の中、ゲルマ機動要塞とビッグ・ダイエックスの一騎打ちが繰り広げられる。ミサイル! 力比べ! 火炎放射! チェーン拘束! 電気ビリビリ攻撃! あの手この手の攻防はまさに出し惜しみなし、終盤の盛り上がりにふさわしい大勝負だ。ちなみに機動要塞はアルキメディアンスクリューで移動します。渋い。

第23話「ゲルマ母艦へ突入せよ!」

 第1話からさんざん苦しめられてきたゲルマ帝国の母艦に、ビッグ・ダイエックスが決死の突入を試みる。「最初からやっとけ」はNGワードです。
 着ぐるみの巨大ロボが人形サイズの母艦内で暴れ回り、これまた人形の敵キャラがなすすべもなく逃げ惑うさまには、ガキ大将が人形遊びに乱入して何もかもブッ壊してしまうような暴力的快感がある。とどめはブラディ・マリーを直接パンチ殺! ダイナミック系巨大ロボの面目躍如だ。

第25話(最終話)「銀河新世紀元年」

 地球へ向かうゲルマ本星(彗星帝国っぽい小惑星要塞)を追撃するXボンバー。だが敵の火力に圧倒され、ビッグ・ダイエックスは戦闘不能に。その時、約束された奇跡がついに顕現する……。
 ファーストヤマトの最終回とは逆の構図になってるのが面白い(タイムリミット前に地球を叩こうとする敵と、それを追う主人公勢)。力と力のぶつかり合いでは真の平和は訪れず、女神めいたデウス・エクス・マキナがすべてを収める幕引きなので、戦闘の爽快感は控えめだ。ヤマトの直系作品ならまあそうなるよなって感じだが、ラストのナレーションがやや言葉足らずで「俺達は……本当に勝ったのか……?」みたいな不穏さがある。


【追記】

 2022年10月。東京・秋葉原にて「Xボンバー」の造形物を中心にした回顧展が開催されました。


 残念ながら会場に足を運ぶことは叶いませんでしたが、図録は無事ゲット成功。造形物のレストアに費やされた20年の歳月(20年!?)を思えば、税込¥8,800なんざタダみたいなもんですよ。
 放送開始から42年を経てなお、こんな高熱量のイベントが開催されるという事実こそ、「Xボンバー」のビジュアル情報密度が高重力源めいて人々の心を引き付けている証左と言えましょう。

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